厚生労働省の「ストレスチェック制度導入ガイド」によれば、ストレスチェックの実施者は、事業場の状況を日頃から把握している産業医等がなることが望ましいとされています。
しかし実際は、産業医がストレスチェックにおいてどのような役割を果たすのか、どのように協力してもらえばよいのか分からないケースも多いようです。
この記事では、ストレスチェック制度を実施するうえで、産業医に協力を依頼する際に知っておきたい基礎知識などについてご紹介します。
目次
ストレスチェックへの産業医の関わり方
産業医は、事業場における労働者の健康管理等の職務を行うための専門的知識を有する医師です。
事業者(会社など)は、産業医に対して労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じる権限を与えなければならないとされています。
以上のような理由から、ストレスチェックの実施および面接指導においては産業医が中心的役割を担うことが適当であるとされています。
(1)ストレスチェックの実施
ストレスチェックの実施者には、産業医を選任するのが望ましいとされていますが、産業医でなくても保健師や看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師も実施者となることができます。
ストレスチェックの実施者 ①医師 ②保健師 ③検査を行うために必要な知識についての研修であり厚生労働大臣が定めるものを修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師 |
ストレスチェックは産業医による実施が推奨されてはいますが、非常勤で月1~2回しか訪問しない嘱託産業医であることも多く、ストレスチェックを主体的に実施してもらうのは難しいケースもあるでしょう。
その場合には、ストレスチェック制度について適切な理解をもち、ストレスチェックの実施を厚生労働省の指針等にそった形で対応できる外部業者を利用するのが現実的です。
なお、実施者の役割は大きく以下の3つです。
実施者の役割 ①事業者がストレスチェックの調査票を決めるうえで、事業者に対して専門的な見地から意見を述べること ②事業者が高ストレス者を選定する基準や評価方法を決めるにあたり、事業者に対して専門的な見地から意見を述べること ③個人のストレスの程度の評価結果に基づき、医師による面接指導を受けさせる必要があるかどうか判断すること |
したがって、ストレスチェックを実施する際には、医師による面接指導だけでなく、外部相談窓口の設置や各種研修まで相談できるか検討したうえで、選定するのがよいでしょう。
※ ストレスチェックツール「ストレスチェッカー」は、日本最大級のストレスチェックツールです。
ストレスチェックの実施体制をご用意しているだけでなく、ストレスチェック実施後の医師面接指導や集団分析へのコンサルティング、状況に応じた研修メニューなど、さまざまなオプションもご用意しております。
(2)高ストレス者の面接指導
ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者に対して、事業者は本人からの申出によって医師による面接指導を行う義務があります。
面接指導を行う医師は、事業場の産業医または事業場で産業保健活動に従事している医師が推奨されています。
面接指導を実施した医師が産業医以外である場合には、面接指導を実施した医師の意見を踏まえた上で、産業医からも意見を聴くことが望ましいとされています。
(3)報告書への署名
ストレスチェックと面接指導の実施状況については、所定の様式に記入して労働基準監督署に報告しなければなりません。
産業医がストレスチェックに関与せず外部に委託した場合でも、産業医は少なくとも報告の内容は知っておくべきなので、「自社と契約した産業医」の氏名の記載が必要です。
※2020年8月、従来必要とされていた押印・署名・電子署名は不要となりました。実施した産業医の氏名の記載は必要です。
厚生労働省「健康診断個人票や定期健康診断結果報告書等について、医師等の押印等が不要となります。」
ストレスチェックを産業医に依頼する際の注意点
厚生労働省の指針では、ストレスチェックの実施者や高ストレス者の面接指導をする医師は産業医が望ましいとされています。しかしそのすべての業務を産業医が実施するのは、難しいケースもあります。
そこで、産業医にどこまで依頼するのかなどについて検討し、実務に落とし込む必要があります。
(1)産業医の役割を明確にする
ストレスチェックは検査結果をもとに従業員のストレス状態を産業医が分析し、職場環境などを見直すアドバイスや、高ストレス判定の従業員へ面接指導を行うことで、メンタルヘルスに関わる問題の発生を防ぐことが目的です。
しかしストレスチェックは産業医以外でも実施者となることができますし、職場環境改善のための職場訪問は保健師等に依頼することもできます。
したがって、産業医にどこまで依頼するのか、衛生委員会等で具体的な実施方法について検討する必要があります。
(2)産業医の負担を考慮する
日本医師会によれば産業医の数は全国で10万人前後です。一方、ストレスチェック制度の対象となる労働者は1800万人です。また、高ストレス者の割合は5-10%未満が最多というデータがあります。
日本産業ストレス学会「ストレスチェック制度情報」
とても現状の医師数では対応しきれません。したがって、近隣の心療内科のクリニックとの連携や電話相談の活用など、社外の窓口を充実させ産業医の負担を考慮するなどの対策が必要です。
(3)ストレスチェッカーの活用
ストレスチェックは単に実施すれば効果が出るものではなく、まずは個人情報の保護の体制をきちんと整備することで受検者に正直な回答を促し、さらに高ストレス者を医師の面接指導につなげる工夫をする必要があります。これら一連の業務は、ストレスチェッカーに全て委託いただくことができます。ストレスチェックシートの作成から実施、集計・分析だけでなく、相談窓口や面接指導、研修などのオプションもご用意しております。
(4)産業カウンセラー等の活用
ストレスチェックの目的は、従業員へ自らのストレス状態について気づきを促すことですが、それと共に職場環境の改善につなげることも期待されています。管理監督者への研修や職場環境改善のための研修など、充実したメンタルヘルス対策を講じることが大切です。とはいえ、現実にはストレスチェックの実施と高ストレス者への対応だけで、職場改善まではなかなか手が回らないという事業場も多いでしょう。
その場合には、産業カウンセラーや公認心理師を活用するのも一つの方法です。
産業カウンセラーや公認心理師は、企業のメンタルヘルス対策等を考え、産業医の負担を減らす補助的面談の実施、労働者からの相談対応、ストレスチェック結果の集団分析に基づく職場改善に係わる助言等を行います。
厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」の具体的な運用方法を定めた省令、告示、指針を公表します」
(5)ストレスチェックに関する産業医との契約
ストレスチェック制度に関する産業医との契約書については以下のとおりです。
ストレスチェックに係る産業医契約書
○○事業者(以下「甲」という。)と○○医師(以下「乙」という。)とは、乙の実施するストレスチェックに関する業務についてつぎのとおり契約を締結する。 (産業医選任) (職務内容) (報酬) (責任の所在) (契約の期間) (解除等) (守秘義務) (契約に定めのない事項) 本契約を証するため、本書2通を作成し、両者記名押印の上、各自1通ずつ保有する。 令和○年○月○日から令和○年○月○日 甲 東京都○○区○○町○丁目○番○号 乙 東京都○○区○○町○丁目○番○号 |
(※独立行政法人労働者健康福祉機構に契約書例からストレスチェックに関する条文を抜粋)
上記契約書例はあくまでも例なので、各々の会社の実情に合わせて適宜修正加筆が必要です。
まとめ
ストレスチェックに関して、産業医は中心的な役割を果たすことが望ましいとされていますが、実施事務、集団分析、職場巡視、職場環境の改善に関するアドバイスまでトータルで依頼するのは、難しいケースもあります。
ストレスチェッカーにご相談いただければ、ストレスチェックの実施はもちろん、集団分析、医師面接までサポートさせていただきます。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |