アウティングとは?実例から解説

アウティングとは、セクシュアリティについて本人の承諾なく第三者に暴露する行為で、パワハラ防止法においても問題視されています。
過去には、アウティングを受けた当事者が強い精神的苦痛を抱え、退職に追い込まれたり、うつ病などのメンタルヘルス不調を発症したりするケースも報告されています。
職場環境の悪化は、本人だけでなく組織全体の生産性や職場風土にも影響を及ぼします。
企業としても、アウティングの重大性を正しく理解し、相談体制の整備や研修の実施など、具体的かつ継続的な対応策を講じることが強く求められています。

監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)

アウティングとは

アウティングとは、本人が公にしていない性的指向や性自認に関する情報を暴露することです。
自分の意思で、自分の性的指向や性自認を誰かに伝えることを「カミングアウト」といいますが、アウティングは、本人の承諾を得ずに勝手にばらす行為ですから、重大なプライバシー侵害にあたります。
軽い気持ちで話した内容であっても、当事者にとっては深刻な精神的負担となり、職場での人間関係や評価に影響を及ぼすおそれもあります。

企業としては、アウティングの意味や具体的な事例、想定されるリスクについて従業員に周知徹底するとともに、相談窓口の整備や管理職研修の実施など、実効性のある対策を講じることが強く求められています。

アウティングのリスク

アウティングは、本人の承諾を得ずに勝手に第三者へ伝える行為であり、パワハラの類型のひとつである「個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)」に該当します。本人の人格や尊厳を傷つける行為であり、職場においては看過できない問題です。

被害者がアウティングの被害を訴え、その行為がパワハラと認められた場合には、加害者は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います。精神的苦痛に対する慰謝料だけでなく、医療機関での受診が必要となった場合には、その治療費や通院にかかる費用なども負担しなければなりません。
内容や影響の大きさによっては、社会的信用の低下に伴う損害が認められる可能性もあります。

さらに、事案の内容次第では刑事責任を問われる可能性もあります。名誉毀損や侮辱などに該当するケースもあり、民事上の責任にとどまらないリスクがある点にも注意が必要です。

また、実際にパワハラを行った従業員だけでなく、その従業員が所属している会社も、被害者に対して使用者責任に基づく損害賠償責任を負います。加えて、会社には従業員が安心して働ける職場環境を整える義務があります。これを怠ったと判断されれば、安全配慮義務違反として債務不履行責任を問われ、損害賠償を請求される可能性もあります。
 

 

生命保険会社での事例(2019年)

2019年、都内の生命保険会社に勤務していた男性が、上司によって自身の性的指向を本人の同意なく同僚に暴露される出来事がありました。当事者にとって極めて私的な情報が、意に反して広められた事案です。
状況としては、男性は入社時に自らの性的指向について会社へ伝えていましたが、職場内で公表するかどうかは「自分のタイミングで行う」と明確に約束していました。しかし、上司がこの約束を破り、本人の承諾を得ないまま同僚に伝えてしまいました。その結果、男性は強い精神的苦痛を受け、精神疾患を発症し、最終的には退職に追い込まれました。
この事案では、最終的に会社がアウティングの事実関係を認め、会社と加害者が謝罪したうえで解決金を支払い和解が成立しています。

一橋大学アウティング事件(2015年)

2015年4月に一橋大学法科大学院で起きた出来事です。ゲイの学生から好意を寄せられ、同性愛による恋愛感情を告白された異性愛の男子学生が、その後の関係に悩んだことが発端とされています。
告白を受けた男子学生は、告白後に相手から「普通の友人以上」と感じられる言動があったことに戸惑い、共通の友人が参加するLINEグループ上で、その学生が同性愛者であることを伝えてしまいます。いわゆるアウティングです。その後、告白をしていたゲイの学生は心身に不調をきたし、転落死したとされています。
この事件は、「院生転落死訴訟」や「一橋大学ロースクールでのアウティング転落事件」などと呼ばれることもあります。東京地裁は、大学側の安全配慮義務違反は認められないとして、遺族の請求を棄却しました。ただし、アウティングそのものが不法行為に当たるかどうかについては明確な判断を示さなかったため、社会的に大きな議論を呼ぶ結果となりました。

アウティングの防止策

アウティングは、当事者だけでなく企業にとっても深刻な事態を招くリスクのある行為です。
パワハラ防止法でも禁止されている行為であり、損害賠償リスクがあるだけではありません。最悪の場合には、命に関わる問題にもなるのです。
企業は、従業員に対して職場環境配慮義務を負うことから、適切なアウティング防止対策を講じる必要があります。
アウティングは、適切な防止対策を講じることで、そのリスクを確実に減らすことができます。

就業規則でアウティングの禁止を明記する
アウティングは、プライバシー権への重大な侵害行為です。
また、ひとたび発生してしまうと被害回復が非常に困難となります。
したがって、就業規則等でアウティングが禁止される行為であることを銘記すべきです。

-記載例-
・各人の人権を尊重するとともに、人種・民族・宗教・国籍・社会的身分・性別・年齢・性的指向・性自認・障がいの有無などによる一切の差別やハラスメントを排除する。

・性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

・従業員は、他の従業員の性的指向や性自認を、当該従業員の同意を得ずに、第三者に明らかにしてはいけない。

アウティングの意味や事例、リスクを正確に理解するための社内研修を行う
どのような行為がアウティングとなるのか、どのような影響があるのかを周知徹底するために、アウティングの定義やリスクについて理解を深めるための社内研修を実施します。これにより、従業員全体にアウティングを予防しようという意識付けをすることが期待できます。
研修においては、他人のSOGIを知った場合には、情報共有の範囲を必ず本人に確認するルール、悪意がなくてもSOGIが流出するリスクがあることをしっかり説明することが大切です。

また、アウティングの具体例を示したパンフレットを配布したり、アウティング行為を禁じる旨のポスターを提示したりすることも、会社がアウティングに厳しい態度で臨むという姿勢を示すことができます。

アウティングが起きてしまった時の対応を検討する
万が一アウティングが起きてしまったら、被害の最小化と再発防止に取り組むため、アウティングが発生した場合の企業の対応フローを予め検討しておくことが大切です。

アウティングに関して被害者にヒアリングを行う場合には、それ自体がアウティングとなるリスクがあるため、被害者の意向を十分に尊重することが大切です。被害者は、問題を会社として取り上げられること自体が、自らのセクシュアリティについてより広く伝播すると考え、表立った対応を希望しない場合もあり得ます。したがって、企業としては、被害者に対するていねいな聴き取りが何より大切です。

また、SOGIが広まった範囲を調査し、個々の従業員に他言しないように伝えます。加害者については、就業規則に基づいて懲戒することも検討します。

そのうえで、発生後の対応について振り返りを行い、相談体制の強化、理解を深めるための社内研修のあり方を検討します。

アウティングとなるケース

アウティングとなるケースには、本人が公表していない性的指向や性自認を、同意なく第三者に伝える行為が含まれます。たとえば、本人が限られた上司や同僚にだけ打ち明けていた情報を、本人の了承を得ずに職場内で広める場合や、飲み会やチャットなどで軽い話題として話してしまう場合も該当します。たとえ悪意がなかったとしても、本人の意思に反して広められればアウティングにあたります。

本人は善意と思っているケース

カミングアウトを受けた人が、「本人は言いづらいかもしれないから、代わって自分が周りに知らせてあげよう」「同性パートナーがいる従業員についても、法律婚をした従業員と同様に福利厚生が整っているから、代わりに人事に知らせてあげよう」などと考え、本人は善意のつもりでアウティングしてしまうケースは少なくありません。
しかし、善意であってもアウティングのリスクがなくなるわけではありません。情報をいつ、どこまで、誰に伝えるかは、あくまで本人が決めるべきものです。周囲が良かれと思って先回りすることは、本人の自己決定権を奪う行為にもなり得ます。
純粋な善意から行ったとしても、本人の承諾なくセクシュアリティに関する情報を第三者に伝えれば、それはアウティングにあたります。

思い込みから起こるケース

本人からカミングアウトされた人が、「あの人は親しいはずだから、当然知っているだろう」と思い込み、うっかり第三者に伝えてしまうケースがあります。
しかし、どんなに親しい間柄であっても、本人がすべての人にカミングアウトしているとは限りません。むしろ、関係が近いからこそ、相手との関係性が変わることを心配して打ち明けていない場合もあります。信頼して打ち明けてくれた事実を、周囲の推測や思い込みで広げてしまうことは、本人の意思を踏みにじる行為になりかねません。決して自己判断で共有せず、情報を他者に伝えてよいのかどうか、必ず本人に確認を取る姿勢を徹底することが大切です。
なお、大前提として、合理的な業務上の必要性がない限り、他人のSOGIを話題にすること自体を控えるべきです。興味本位の会話や軽い雑談であっても、当事者にとっては大きな負担となる可能性があります。

認識の低さから起こるケース

「ひとりぐらいなら問題ないだろう」「軽い気持ちで言ってしまった」「自分は偏見を持っていないから、隠す必要はないと思った」など、アウティングのリスクに対する認識が十分でないことから、結果としてアウティングが起きてしまうケースは少なくありません。悪意がないことを理由に、深刻さを軽く見てしまう傾向もあります。
LGBTQに対して理解を示し、寛容な態度で接してくれる人の存在は、当事者にとって大きな支えになります。しかし、その理解や善意と、情報を第三者に伝えてよいかどうかは別の問題です。本人が自分のタイミングや範囲を考えてコントロールしている場合も多く、その判断を尊重することが何より重要です。
たとえ差別的な意図がなくても、本人の承諾なく第三者に話す行為はアウティングにあたります。
情報を共有するかどうかを決める権利は、常に本人にあります。その基本を忘れず、軽い気持ちで口にしない姿勢を徹底することが求められます。

カミングアウトから暴露されるケース

カミングアウトを受ける際に、同時に恋愛感情の告白を受けることがあります。突然の告白に戸惑い、どう受け止めればよいのか分からなくなることもあるでしょう。
そして、カミングアウトを受けた側が一人で抱えきれず、第三者に相談したことでアウティングにつながってしまうケースもあります。相談のつもりでも、具体的な状況や人物像を話してしまえば、結果として本人が特定される可能性があります。
この場合も、カミングアウトをした人が推測できるような形で情報を共有すれば、アウティングにあたります。社内の同僚や上司に相談すること自体、内容によってはアウティングのリスクを伴います。どうしても対応に悩む場合は、できるだけ個人が特定されない形で話すか、守秘義務のある外部の専門機関や相談窓口を利用する方が安心です。

共有管理の甘さから起こるケース

性別や戸籍情報などを含む人事情報システムに、担当者以外の社員がアクセスできる状態になっていたり、人事部内の何気ない雑談からSOGIが共有されたりすることで、意図せずアウティングが起きてしまうことがあります。
当事者従業員のSOGIが共有される場合には、必ず本人の明確な了承を得る必要があることを、社内で徹底して周知することが重要です。加えて、閲覧権限の設定やアクセスログの管理、情報の取り扱いルールなどについても見直しを行い、不要な共有が発生しない仕組みを整える必要があります。
単に注意喚起をするだけでなく、実際の運用プロセスにアウティングのリスクが潜んでいないかを具体的に点検し、必要に応じて改善していく姿勢が求められます。

まとめ

アウティングは、「周りに伝えた方が、みんなもっと接しやすいだろう」「他の人も知っているだろう」「軽い気持ちで」といった認識の低さから起こるケースがあります。
しかしアウティングは、ハラスメント行為であり、許されない行為です。
ひとたびアウティングが起これば、被害者が受けるダメージは相当なものであり、加害者だけでなく企業も使用者責任を追及されます。
企業は、アウティングの定義や事例、リスクは正確に理解することとともに適切な防止対策を講じる必要があります。

ストレスチェックを気づきに活かす

ストレスチェックとは、定期的に社員のストレスの状況について検査を行なう制度で、全事業所に義務化されることが決まっています。
ストレスチェックの目的は、従業員本人に結果を通知し、自らのストレス状態に気づいてもらうことで、メンタルヘルス不調のリスクを低減することにあります。また、ストレスが高い人を早期に把握し、医師による面接指導へとつなげることで、不調の深刻化を未然に防ぐことも重要な目的です。

さらに、検査結果を部署や職種などの集団単位で集計・分析することにより、職場にどのようなストレス要因があるのかを可視化し、具体的な職場環境の改善につなげる効果も期待されています。個人対応にとどまらず、組織全体の課題を見直すきっかけにもなります。

会社には、従業員の心身の健康に配慮する安全配慮義務があり、ストレスチェックの実施だけでなく、その後のフォローや職場改善まで含めて取り組む姿勢が求められます。これを怠り、安全配慮義務違反や労働契約法違反と認定されれば、メンタルヘルス不調に関して損害賠償責任を追及されるリスクがあります。

また、ストレスチェックの集団分析は、アウティングのようなハラスメントが背景にないかを把握する手がかりにもなります。心理的安全性の低下や対人関係のストレスが高い部署を早期に把握し、対策を講じることで、アウティングの予防や再発防止にも活用することができます。
 

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
導入や運用の相談は、ぜひお気軽にお問合せください。


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    監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)

    公認心理師 山本久美さんの写真

    大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
    現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

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