復職直後は、メンタルヘルス疾患が再燃・再発するリスクが高いと言われています。
したがって、復職支援は休職時よりさらに慎重な判断とていねいなサポートが求められます。
この記事では、休職から職場復帰までの5つのステップと、職場復帰を支援する時に知っておきたい5つのポイントをご紹介します。
目次
職場復帰支援5つのステップ
メンタルヘルス疾患が原因で休職していた従業員を、どのようなステップで職場に復帰させるかについては、厚生労働省による「心の健康問題によって休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が参考になります。
この手引きを参考にして、それぞれの事業場の実態に合った支援プログラムをつくりましょう。
厚生労働省「心の健康問題によって休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
(1)病気休業開始及び休業中のケア
第1ステップは「病気休業開始、及び休業中のケア」です。
第1ステップでは、休職する従業員から、主治医による診断書を提出してもらいます。
この診断書で、病気が原因で休職が必要であること、職場復帰までに必要と見込まれる療養期間などを確認します。
管理監督者(上司など)及び事業場内産業保健スタッフらは、必要に応じて従業員に連絡をとり、安心して療養に専念できるよう事務手続きや職場復帰の手順について情報提供やサポートを行います。
休職中の従業員は「復職できるか」「休職したことが今後のキャリアにどう影響するのか」など、さまざまな不安や悩みを抱えています。したがって、その不安や悩みを相談できる機会を設けて、不安を軽減できるように十分な情報を提供しましょう。
(2)主治医による職場復帰可能の判断
第2ステップは「主治医による職場復帰可能の判断」です。
休職中の従業員から職場復帰の意思が伝えられたら、会社はその従業員に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記載された診断書を、提出するよう求めます。
この時提出してもらう診断書には、就業上の配慮などについて主治医としての具体的な意見も併せて記載してもらうようにします。
引用: 厚生労働省「心の健康問題によって休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
(3)職場復帰の可否の判断及び支援プランの作成
第3ステップは「職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」です。
スムーズな職場復帰を支援するためには、必要な情報収集と評価を行ったうえで、「職場復帰できるか否か」を適切に判断し、その判断をもとに職場復帰を支援するための具体的なプランを準備する必要があります。
この第3ステップは、5つのステップのなかでも中心的な役割を果たすものです。したがって、事業場内産業保健スタッフを中心に、管理監督者、そして休職中の従業員の間で十分に話し合い、連携しながら進めていく必要があります。
(4)最終的な職場復帰の決定
第4ステップは「最終的な職場復帰の決定」です。
第3ステップで職場復帰できるか否かの判断を行い職場復帰支援プランの作成をしたら、第4ステップとして、会社は最終的な職場復帰の決定を行います。産業医が選任されている場合には、就業上の配慮等に関する産業医の意見を参考にします。またその配慮の内容等を労働者に通知して、職場復帰を進めます。
(5)職場復帰後のフォローアップ
第5ステップは「職場復帰後のフォローアップ」です。
メンタルヘルスの問題は、さまざまな原因が重なり合っていることが多いので、たとえ万全な支援体制を整えて職場復帰の準備を行っていても、実際に職場復帰をしてみると、当初のプランどおりに進まないこともあります。
そのため、職場復帰後は経過観察を行い従業員と定期的に面談を行いながら、適宜プランの見直しや評価を行うことが重要です。
職場復帰支援5つのポイント
会社と従業員は雇用契約を締結していますので、従業員が疾患によって休職しその後職場復帰可能な状態になった場合には、社内規程等に因りその従業員を職場復帰させる必要があります。
しかしメンタルヘルス疾患は、職場復帰後に再燃・再発するリスクが高いので、予防のために就業上の配慮について柔軟な対応が求められます。
ここでは、職場復帰支援を行う上で最低限知っておきたい5つのポイントをご紹介します。
(1)医師の診断書だけで判断しない
「職場復帰支援5つのステップ」で述べたとおり、職場復帰をする際はまず、従業員に主治医による診断書を提出してもらいます。
この時注意すべきなのは、主治医は日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断しているだけで、従業員の具体的な仕事などについて理解したうえで、診断書を作成しているわけではないという点です。
つまり、主治医の「症状が回復したから職場復帰できる」と判断したからといって、そのまま「職場で求められる業務遂行能力がある」と判断してよいのかは、別問題であるということを理解しておく必要があります。
したがって、従業員の職場復帰は主治医の意見だけをもとに決めるのではなく、「職場で求められる業務遂行能力」について産業医が精査した上で、管理監督者など関係者の意見もヒアリングしてとるべき対応を決める必要があります。
会社としての意見を主治医や産業医に伝え改めて検討してもらうなど、何度か意見交換することが必要になることもあります。
(2)リハビリ(試し)勤務を実施する
リハビリ(試し)勤務とは、従業員を復職させるために正式な職場復帰決定の前に、段階的に労働の負担を増やしていくことをいいます。
メンタルヘルス疾患を発症した従業員に対して、職場復帰したからといってすぐに以前と同じように仕事をすることを要求するのは、大きな負担です。
そのため、復職直後は勤務時間を短縮するなどして労務負荷を軽減するように配慮します。
勤務時間や仕事の量を調整するだけでなく、仕事の内容面でも配慮することが必要です。
従業員によっては、勤務時間の短縮や負担の軽い仕事はかえってストレスに感じることもありますので、留意する必要があります。
このリハビリ(試し)勤務は、休職していた労働者の不安を和らげ、労働者自身が職場の状況を確認しながら、職場復帰の準備を行うことができます。
(3)復職・退職の方針を決めておく
休職から職場復帰した従業員に対しては、復職後に関する会社としての方針をあらかじめ示しておくことが必要です。
休職期間が短い従業員は、短期間で職場復帰できる可能性が高くなるのですが、長期間休職していた従業員の場合には、復職プランどおりに職場復帰できない可能性があります。そのような事態に備えるために、会社と従業員の間で「復職後に欠勤した場合にはどうするのか」「医師の診断書の提出が必要なのはどのような場合か」などについて、方針を決めておくようにしましょう。
なお、復職しても元々の雇用契約上で課されている義務が果たせない場合には、やむを得ず労働者の自発的な意思による退職を促すこともあります(退職勧奨)。
この退職勧奨に関しては、本人が納得していないのに強引に退職を勧めるようなことをすると、後々トラブルに発展する可能性があります。
そこで、あらかじめ休職に関する事項を就業規則に定めておいて、本人が同意しやすい状況と証拠を準備し、そのうえで本人と面談して「十分な労務提供ができていない」ということなどをていねいに伝えて本人に納得してもらうように、段取りを踏んで対応する必要があります。
(4)配置転換なども視野に入れる
復職した従業員が元に所属していた部署で働くことが難しいと判断した場合には、他の部署への配置転換や異動を留意すべきです。
別の部署に異動したとしても、いきなり仕事を任せるのではなく業務前にスケジュールを立ててもらい、上司がそのスケジュールどおりに無理なく業務を行えているのかを確認しながら、進めていく体制をとるとよいでしょう。
(5)定期的なヒアリングを行う
復職したばかりの従業員のなかには、決められた時間に出勤することも大変なストレスを感じている場合があります。
復職後に「早く信頼を取り戻さなければ」と焦り、無理をしてたくさんの仕事を引き受けた結果ミスをしてしまい、さらに焦ってしまう…という悪循環に陥るケースも考えられますので、慎重な対応が求められます。
したがって、上司は何度かヒアリングの機会を設けて、復職した従業員の不安や焦りに耳を傾けるようにしましょう。そのうえで、必要に応じて産業医などのカウンセリングを受けるよう促すことも再燃・再発回避に有効です。
まとめ
メンタルヘルス疾患により休職した従業員の職場復帰を支援する際には、管理監督署による観察をとおして正確に復職者の現状を把握し、新しい問題の発生等の有無を確認することが不可欠です。また、主治医や産業医などの意見を適宜聞くことができるようにネットワークを確立し、適切な支援プランを作成して復職後も定期的なサポートを行うことが必要です。
なお、これまでご紹介したようにメンタルヘルス疾患を理由とした休職から職場復帰する際のサポートは大変重要ではありますが、このメンタルヘルス疾患を未然に防ぐための施策も同様に重要です。そして、まさにそれを目的としたものが、ストレスチェック制度です。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |