
ストレスを抱える人が増えている今、職場でも「どうケアするか」が大きな課題になっています。カウンセリングや休息ももちろん大切ですが、実は“問題そのものへの対処方法”を身につけることで、ストレスを根本から減らすことも可能です。その方法として注目されているのが「問題解決技法」です。
仕事のトラブル、人間関係、期限プレッシャーなど、避けられない課題に対して、感情ではなく“整理・分析・選択”というプロセスで向き合うことで、ストレス反応を軽減し、前向きに行動できるようになります。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
問題解決技法とは
問題解決技法とは、認知行動療法(CBT)の一部である「問題解決技法」です。
仕事のトラブルやプレッシャーが重なると、「何から手をつければいいのか分からない」「問題が大きすぎて自分には解決できない」と感じやすく、焦りで行動が止まってしまうこともあります。そんなとき、問題解決技法を使うことで、状況を整理し、対処の優先順位や選択肢が見えるようになります。
問題解決技法では、問題を曖昧なまま放置せず、まず明確にするところから始めます。そのうえで、解決策を複数考え、それぞれのメリット・デメリットを整理し、もっとも実行しやすい選択肢を試します。結果を振り返り、必要に応じて改善しながら繰り返すことで、問題に飲み込まれるのではなく「コントロールできている感覚」を得られるようになります。
問題を具体化する
問題解決技法の第一歩は「問題を具体化すること」です。これは単なる作業ではなく、ストレス軽減に直結する非常に重要なプロセスです。人がストレスを感じるとき、その多くは「漠然とした不安」や「整理されていない悩み」によって引き起こされています。例えば、「仕事がつらい」「忙しすぎる」「人間関係が疲れる」といった状態のままでは、脳は問題を処理できず、さらに負担が増えてしまいます。
そこで役立つのが、問題を明確に言語化する作業です。「仕事がつらい」ではなく、「資料作成の期限が短く、作業量が多い」「特定の相手と意思疎通がうまくいかない」といったように整理することで、ストレスの正体が見えるようになります。すると、解決策を考えられるようになり、「どうにもならない問題」から「対処可能な課題」へと変わります。
問題を具体化することは、感情と事実を切り分け、冷静に状況を捉えられるようにする効果もあります。
解決策を考える
問題が明確になっても、「どうすれば改善できるか」が見えていなければ、不安や負担感は残り続けます。特に仕事の場面では、ストレスの原因が業務量・人間関係・手続きの煩雑さなど複合的であることも多く、そのまま放置すると精神的疲労や生産性の低下、離職リスクにつながる可能性もあります。
解決策を考える際に重要なのは、最初から“完璧な案”を探そうとしないことです。現実的に実行しやすい案、時間はかかるが根本解決につながる案、他者の協力が必要な案など、複数の方向性で幅広く考えることがポイントです。ひとつの解決策に固執せず、選択肢を並べることで「選べる感覚」が生まれ、心理的負担が軽減されます。
さらに、解決策は曖昧なままにせず、「いつ・誰が・どう行動するのか」まで具体化することが重要です。たとえば「仕事量を減らす」ではなく、「上司に相談して優先順位を確認する」「作業マニュアルを作り属人化を減らす」という形です。解決策が行動レベルまで落とし込まれていると実行しやすくなり、達成感や自己効力感(「自分ならうまくできる」という確信や自信)が生まれます。
解決策の長所と短所を考える
問題解決技法では、解決策の長所と短所を整理することが非常に重要なステップです。
長所を整理することで、その解決策がもたらす効果や副次的メリット、将来的な可能性も把握でき、実行への納得感やモチベーション向上につながります。
また、感情や思い込みだけで判断せず、冷静でバランスの取れた意思決定ができる点も大きなメリットです。
さらに、短所を把握しておくことで、代替案やリスク対策も同時に準備でき、実行後にトラブルが起きても柔軟に対応できます。つまり、このステップは「失敗しないための事前準備」であり、ストレスや負担を最小限に抑えながら、現実的で実行可能な選択へ導く大切なプロセスです。
解決策を実行する
どれだけ良いアイデアや分析を重ねても、実行されなければ現状は変わりません。行動に移すことで初めて問題が解消され、望む結果や改善が生まれます。また、実行してみることで、計画段階では見えなかった課題や誤差が明らかになります。このリアルなフィードバックは、次の改善策を考える材料となり、問題解決スキルそのものの向上につながります。
「実行すること」は小さなステップでも構いません。まずは行動に移すことが、ストレスを感じる状況から抜け出し、前進するための大切な鍵となります。
結果を評価する
問題解決技法においては、評価を行うことで最初に設定した目標や解決したかった問題がどの程度達成できたのか、感覚ではなく客観的に判断できます。
実行した解決策が効果を発揮したのか、あるいは期待した結果に届かなかったのかを、データや関係者からのフィードバックをもとに確認することで、次の行動に活かせる学びが得られます。
もし期待した成果が出なかった場合でも、「失敗」と捉える必要はありません。評価を通じて、原因分析、計画、実行のどこに課題があったのかを特定でき、より効果的な改善策に繋げられるからです。このプロセスを繰り返すことで、問題解決能力が磨かれ、仕事や組織の成果だけでなく、ストレス耐性や自信の向上にもつながります。
1~5を繰り返す
問題解決技法では、①問題を具体化し、②解決策を考え、③長所と短所を整理し、④実行し、⑤結果を評価するというステップがありますが、最も大切なのは、このプロセスを一度きりで終わらせず「繰り返すこと」です。問題や環境、人間関係、業務状況は常に変化していきます。そのため、一度の解決策が完璧でないことは珍しくありません。繰り返し実施することで改善点が見えてきて、より現実的で効果の高い手段へブラッシュアップできます。
また、サイクルを継続することで「考えるクセ」が身に付き、感情的な反応ではなく、落ち着いて問題に向き合う力が育ちます。これはストレス耐性の強化にもつながり、「問題が起きても対応できる」という心理的安全感を生みます。
問題解決技法のポイント
問題解決技法を効果的に活用するためには、いくつか意識したいポイントがあります。まず大事なのは、問題や解決策をあいまいにせず「具体的に言語化すること」です。ぼんやりした悩みのままでは行動につながらず、不安やストレスだけが残ります。
また、いきなり大きな問題から取り組むのではなく、「簡単に解決できる小さな課題」から始めることもコツです。小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にもできる」という実感が生まれ、問題解決への自信や前向きな姿勢が育ちます。
問題や解決策を明確に設定する
問題解決技法を進めるうえで「問題や解決策を明確に設定すること」は最も重要なステップのひとつです。なぜなら、曖昧なまま取り組むと、どれだけ考えても結論が出ず、気持ちだけが焦りストレスが増えてしまうからです。
たとえば、「仕事がうまくいかない」という表現では漠然としていて改善策を立てられません。しかし、「顧客対応の準備に時間がかかり、納期が遅れている」といったように具体化すると、改善すべき点が見えるようになります。
また、解決策についても同じで、「もっと頑張る」では行動につながらず変化は起きません。「資料作成時間を30分短縮する」「作業を分担する」といった、行動に移せるレベルまで落とし込むことが必要です。問題と解決策が明確になれば、取り組むべき優先順位や必要なリソースも整理でき、迷いや不安が減ります。
ハードルの低い問題から取り組む
問題解決技法を実践するときは、まずハードルの低い問題から取り組むことがとても重要です。大きな問題や複雑な課題から始めると、途中で挫折したり「自分には無理だ」と感じたりしてしまうことがあります。一方で、小さな課題から取り組むと、短時間で結果が出やすく、「できた」「進んだ」という達成感が得られます。この成功体験は自信やモチベーションにつながり、次からは、より大きな問題にも前向きに取り組めるようになります。
さらに、小さな課題でも実践していくことで、解決のプロセス(問題整理→解決策→実行→評価)に慣れるという効果も生まれます。こうした経験の積み重ねは、思考力や判断力の向上にもつながり、精神的な余裕を育てます。
自信を積み重ねる
問題解決技法を継続していくうえで、「自信を積み重ねること」はとても重要なポイントです。なぜなら、自信は行動の源であり、行動が増えることで問題解決の速度も質も向上するからです。ストレスが高まっていると、「自分にはできない」「失敗したくない」という思考が強くなり、行動や判断が停滞しがちです。しかし、小さな課題をクリアし、自分の力で前に進めた経験を積むことで、「次もできる」「改善すればうまくいく」という実感が生まれ、心の余裕と前向きな姿勢が戻ってきます。
また、自信は一度の成功ではなく、繰り返し成功体験を重ねることで安定していきます。この積み重ねによって、困難な状況や新しい問題に直面しても、必要以上に不安を感じず、冷静に取り組めるようになります。
職場における問題解決技法の実践
職場で問題解決技法を実践することは、個人のストレス軽減だけでなく、組織全体の生産性や雰囲気にも大きく影響します。問題が整理されず放置されると、業務停滞や誤解、感情的な衝突につながり、結果的にストレスや疲弊を生み出します。
ここでは、職場における問題解決技法について具体的に解説していきます。
仕事でミスをしてしまった
仕事でミスをしてしまった時、多くの人は「自分が悪い」「次も失敗するかもしれない」と感情的に捉えがちです。しかし問題解決技法を使うと、「何が起きたか(事実)」と「どうすれば次に防げるか(対策)」を分けて整理できます。
たとえば「メールを誤送信した」というミスに対して、「原因は確認不足」「対策はチェックリスト導入」「必要な行動は送信前のダブルチェック」など、改善のステップが明確になります。こうすることで必要以上に落ち込まず、次に活かせる建設的な思考へつなげられます。
また、この手法が職場全体で共有されることで、「責める文化」ではなく「改善する文化」が育ちます。その結果、心理的安全性が高まり、相談しやすく、失敗を恐れ過ぎない健全な職場づくりにもつながります。
LINEを既読スルーされている
「LINEを既読スルーされている」という状況は、多くの人にとって不安や苛立ちの原因になりがちです。しかし問題解決技法を使うと、感情ベースの解釈ではなく、状況を事実として整理し、対処方法を検討できます。「返信がない=嫌われている」「無視されている」という思考は推測に過ぎないことに気づき、「返信が遅れている」という事実に置き換えるだけで、心の負担は大きく軽減されます。
次に、「返信が必要な内容なのか」「急ぎの場合は電話に切り替えるべきか」「リマインドするタイミングはいつか」など、取れる選択肢を整理します。そして、それぞれのメリット・デメリットを確認した上で、最も現実的な行動を選びます。このプロセスにより、感情任せではなく、合理的で落ち着いた対応が可能になります。
上司や部下との意見のすれ違いを感じる
職場で上司や部下との意見のすれ違いを感じたとき、感情的に反応してしまうと「理解してくれない」「相性が悪い」といった思い込みが強まり、ストレスが増幅しがちです。ここで問題解決技法を使うと、状況を整理し、建設的なコミュニケーションにつなげることができます。
まず、「何が問題なのか」を事実ベースで整理します。「意見が合わない」ではなく、「資料の進め方について認識が違う」「納期の優先度にズレがある」など、できるだけ具体的にします。
次に、解決策を複数出します。たとえば、「認識合わせのミーティングを設定する」「成果物のフォーマットを統一する」「優先順位を可視化する」などです。
そのうえで、それぞれのメリット・デメリットを整理すると、感情ではなく合理的な視点で判断しやすくなります。実行後は「ズレが解消したか」「他の場面にも応用できるか」を評価し、必要に応じて改善します。このプロセスを繰り返すことで、単なる衝突や違和感が、信頼構築のきっかけに変わることもあります。
ストレスチェックと問題解決技法
ストレスチェックとは、質問票に回答することで自分の心理的ストレス状況を把握できる制度で、従業員50名以上の事業場では年1回以上の実施が義務となっています。さらに、2025年5月の法改正により50人未満の事業場でも今後義務化される予定です。
ストレスチェックは、単に結果を見るだけでなく「ストレスに気づくきっかけ」として重要です。その気づきを問題解決技法と組み合わせることで、「結果を眺めるだけ」から「改善につなげる」ステップへと進められます。
ストレスチェックは“気づき”の第一歩
ストレスチェックは「今、自分がどの程度ストレスを抱えているのか」を客観的に把握するためのツールです。多くの人は、忙しさや習慣に流され、自分の心身の変化に気づきにくくなりますが、ストレスチェックはその“見落としていたサイン”を可視化し、改善につながる第一歩になります。
しかし、気づくだけでは状況は変わりません。そこで役立つのが問題解決技法です。ストレスチェックの結果をもとに、「何がストレス源なのか」「自分にできる対応は何か」を整理します。問題を明確化し、解決策を検討し、実行し、振り返る――このサイクルを繰り返すことで、小さな改善が積み重なり、ストレス耐性や対処力が高まっていきます。
「診断」から「改善」へとつなげることができる
ストレスチェックの結果は「終わり」ではなく、そこから何を改善していくかを考えるためのスタート地点です。
まず個人レベルでは、ストレスチェックで高ストレスと判定された場合、セルフケアや医師面談だけでなく、自分のストレス要因を整理し、対処法を考えるプロセスに問題解決技法を使えます。例えば、睡眠不足・対人関係・仕事量など、曖昧だった原因を具体化し、実行可能な解決策を選ぶことでストレスの悪循環を断ち切ることができます。
一方で、職場全体でストレス傾向が見られる場合は、組織レベルの課題として捉える必要があります。集団分析により、特定部署での負担過多や人間関係の問題、業務体制の偏りなどが可視化されたら、問題解決技法を使って改善策を検討します。たとえば、業務配分の調整や不要業務の整理、管理職研修、コミュニケーション改善施策などの案を構造的に検討し、実行し、次回のストレスチェックで効果を検証する流れです。
このように、ストレスチェック×問題解決技法は「気づき→改善→定着」の循環を生み、個人と組織の両方にとって継続的なストレス軽減につながります。
ストレスに強い組織文化を育てる
ストレスチェックは個人が自分の状態に気づくきっかけになりますが、そこから問題解決技法を活用することで、「問題を特定し、改善策を考え、実行し、評価する」という建設的なプロセスが習慣化されます。
このサイクルが組織内で繰り返されるようになると、ストレスが「個人の責任」ではなく「環境として改善していく対象」であるという考え方が共有され、助け合い・相談・改善が自然と受け入れられる風土が育ちます。さらに、管理職がこのプロセスを理解し、部下の困りごとを感情論ではなく仕組みとして扱えるようになると、対話の質や意思決定のスピードも上がり、心理的安全性の高い職場へと変わります。
結果として、職場のストレス耐性は「個人スキル頼り」ではなく、組織全体の仕組みとして積み上がっていきます。これは離職防止、生産性向上、エンゲージメント促進にもつながる重要な企業価値となります。
ストレスチェッカーとは
「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
ストレスチェックと問題解決技法を組み合わせることで、課題を共有し改善につなげる風土が育ち、個人任せではない“ストレスに強い職場文化”が作られていきます。導入や運用の相談は、ぜひお気軽にお問合せください。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
このストレスチェックに問題解決技法を組み合わせることで、「単に数値を見るだけ」ではなく、課題を共有し改善につなげる組織文化が育ちます。ストレスチェックが気づきのきっかけとなり、問題解決技法によって「問題の特定→改善策の検討→実行→評価」という建設的なプロセスを習慣化できます。この循環が職場全体で機能するようになると、ストレスを“個人の問題”ではなく“改善すべき課題”として扱う意識が定着し、相談・伴走・改善が自然に行われる風土が生まれます。さらに管理職がこの視点を持つことで、対話の質向上や判断の公平性につながり、心理的安全性の高い職場づくりにも役立ちます。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。
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