パーソナリティ障害とは?精神科医が解説

同僚や職場の仲間の中に、感情の浮き沈みが激しい人がいて、そのために人間関係がうまくいかず、仕事に支障が出てしまうという悩みを抱えた経験はありませんか。
または、「性格が悪い」等の指摘を受けて、人間関係がうまくいかなかった経験はありませんか。
それは、その人の性格が問題なのではなく、精神機能の偏りによるパーソナリティ障害が原因であるかもしれません。
この記事では、パーソナリティ障害の症状や、治療法、パーソナリティ障害の人との付き合い方などについて解説します。

パーソナリティ障害とは

パーソナリティとは、生まれつきに備わった気質と後天的に備わった性格のことです。
そして、パーソナリティ障害とは、精神機能の偏りにより、大多数の人とは異なる反応や行動をしてしまい、人間関係に支障をきたす障害です。
パーソナリティ障害は、パーソナリティが非常に隔たっているため、常道から外れてしまい、基本的な日常生活に支障を来たしてしまうことがあります。
約10%の人が何らかのパーソナリティ障害を持っているとも言われており、珍しい障害ではありません。
また、ある程度パーソナリティの隔たりがあっても、社会適応ができている場合には、ある種の個性として捉えられ、パーソナリティ障害とは診断されません。
次に、パーソナリティ障害の原因、分類、治療法について詳しく見ていきます。

パーソナリティ障害の原因

パーソナリティ障害は、個々の性格や行動パターンに深く根ざした精神的な問題であり、遺伝要因と環境要因が相互に作用して発病するとされています。これらの要因は、ほぼ同等の寄与度を持つと考えられており、遺伝的な素質があっても、必ずしも発症するわけではありません。環境要因が大きな影響を与えるため、特に成長期にどのような環境で育つかが、その後の人格形成に重要な役割を果たします。
例えば、幼少期に十分な愛情を受けなかったり、過度に厳しいしつけを受けたりした場合、将来の対人関係に問題が生じやすくなります。一方で、温かい家庭環境や理解ある周囲のサポートがあれば、遺伝的な素因があったとしても、パーソナリティ障害の発症を防ぐことができる場合もあります。

パーソナリティ障害の分類

パーソナリティ障害は10種類に分類することができ、それらは大きく3つのグループ(A群、B群、C群)に分類できます。

A群パーソナリティ障害

A群のパーソナリティ障害の特徴として、風変わりで自閉的な傾向があり、妄想を抱きやすく、奇異な行動を取ることが多い点が挙げられます。職場では「少し変わった人」と思われがちで、対人関係を要する仕事では、その特性が問題となる場合もあります。しかし、元々自閉的な傾向が強いため、仕事に就くこと自体が難しいことが多く、他者に大きな影響を与えるタイプでもないため、職場での問題として表面化することはそれほど多くありません。

妄想性
他者への不信が特徴です。理由のない猜疑心や不信感が強く、頑固で理屈っぽく執着します。

シゾイド
他者への無関心が特徴です。対人関係に対する興味や欲求が乏しく、他者との関係を避ける傾向があり、日常的な対人関係を必要としないため、孤独な生活を好むことが多く、職場や家庭でも孤立しがちです。

統合失調型
奇妙な行動や思考が特徴です。非現実的で奇妙な思考を持ちやすく、例えば、他人の考えが自分に影響を与えていると感じたり、霊的なものやテレパシーのような信念を持ったりして、対人関係が極端に狭くなります。

B群パーソナリティ障害

B群は演技的、感情的、もしくは気移りしやすい様子が特徴的です。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込むことが多いので、職場でもっとも問題を起こしやすいタイプです。他人を巻き込むので、周囲の人が精神的に参ってしまったり、職場全体が混乱したりと、大きな問題になることもあります。
このグループには、以下の4つのパーソナリティ障害が含まれます。

反社会性
自己の利益のために、他人を軽視するのが特徴です。良心の呵責なく犯罪的行動を繰り返します。人に対して不誠実で欺瞞に満ちた行動をとることもあります。

境界性
衝動的で、感情の起伏が激しく、そのため対人関係が、いつも不安定になるのが特徴です。境界性パーソナリティ障害の一部の人が、ミュンヒハウゼン症候群の特徴を持つことがあります。ミュンヒハウゼン症候群は、他者の注目や同情を引くために、自ら病気やケガを装ったり、自傷行為を行う病気です。このような行動は、周囲の人々に過度の心配や労力を強いるため、同僚や家族が精神的・感情的に疲弊しやすく職場や周囲に及ぼす影響が大きいため、特に注意が必要です。

演技性
人の注意を引くため、演技のような行動をとるのが特徴です。常に周囲の関心を集めたいと思い、自分が注目の的であろうとします。そして、思い通りにいかないと感情を爆発させて、自傷行為など行うこともあります。

自己愛性
承認欲求、自己価値の過大評価、共感性の欠如が特徴です。極端なナルシストで、常に自分は優越で素晴らしく、偉大な存在でなければならないと思い込んでいるので、他人への思いやりに欠けて傲慢な態度をとります。

C群パーソナリティ障害

C群は不安や恐怖心が特徴的です。周りの評価が気になってしまい、それがストレスとなって現れる傾向があります。他人を巻き込むことは少ないですが、過度に周囲のことを気にして慎重になってしまうので、職場では周りの人をイライラさせたり、業務が進まなかったりするなどの問題点があります。
このグループには、以下の3つのパーソナリティ障害が含まれます。

回避性
拒絶を恐れて、対人接触を回避するのが特徴です。自分に自信がなく、他人に拒絶されたり、批判されたりすること、恥をかくことにとても敏感で、そのため社会的な交流を避けようとする傾向を持ちます。

依存性
他者への依存心が強いのが、特徴です。過剰に構ってほしいという欲求があり、それを維持するために服従的な行動をとります。甘えが強く、重要なことも自分で決められず人に判断してもらったりします。

強迫性
柔軟性がなく頑固なことが特徴です。秩序やルールなど、細かいことにこだわり、完璧を求めるあまりに柔軟性がなく、融通が利かず、社会的に効率性がない傾向があります。

パーソナリティ障害の治療法

パーソナリティ障害の治療法は、主に精神療法と薬物療法の2つです。これらのアプローチを通じて、患者は自身の奇異な思考や感情、行動のパターンに気づき、より適応的な思考や行動に変えていくことを目指します。
パーソナリティ障害は、それまで生きてきた数十年間で人格が形成されてきたため、社会適応の妨げになるような人格の隔たりを治療するのもかなりの年月が必要になります。
治療を通じて徐々に対人関係や社会生活での適応力が向上していくことが期待されますが、結果がすぐに現れるわけではないため、患者と治療者の間で信頼関係を築き、継続的なサポートを行うことが重要です。

精神療法

精神療法では、患者が主体となって問題への認識を深め、それへの対処法を治療者と一緒に模索します。
精神科の医師など、心の専門家が時間をかけて忍耐強く治療を行っていくことになります。
しかし、多くの場合、自分の思考や行動に問題があると自覚していないので、本人ではなく周囲が対応に苦慮するだけということが多いので、本人が治療に積極的でないことも多く、治療の継続が難しい場合もありますが、早期の支援や周囲の理解が重要です。

薬物療法

薬物療法では、パーソナリティ障害によって生じる抑うつ症状などを薬によって和らげます。
また、社会不適応に対していらだちが強く、そのため不眠になっているのであれば、睡眠薬を補助的に用いることで精神的安定を保ち、睡眠がとれるようになり、精神が安定することもあります。
しかし、これらはあくまでもパーソナリティ障害による症状等を緩和するだけであり、完治するわけではなく、根本的な原因を解決することにはなりません。
つまり薬は、症状を緩和させるだけの限られた効果しかなく、パーソナリティ障害による情緒不安定な状態や不適切な行動は、薬で十分に軽減されることはありません。

職場におけるパーソナリティ障害の特性と対応

パーソナリティ障害は、特性として人間関係を築くのが難しい傾向がありますが、その特性を理解し、適切に対処することで、共にうまくやっていくことも可能です。
職場でパーソナリティ障害を持つ人と円滑に働くためには、その症状や特有の行動パターンを理解し、適切な接し方や対応方法を学び、相手に対する過剰な反応を避けつつ、悪影響を受けないための方法を知ることが大切です。さらに、組織としても支援体制を整え、専門的なサポートを得ることも検討しましょう。

職場で見られる症状

パーソナリティ障害が職場でどのように現れるかは、各タイプによって異なります。

A群パーソナリティ障害
A群の特徴は、他人に対する興味や関心が非常に少なく、周囲とのコミュニケーションが極めて希薄になる点です。警戒心が強く、同僚や上司と信頼関係を築くことが難しく、孤立しがちです。

B群パーソナリティ障害
B群では、感情の起伏が激しく、他人の言動に対して過敏に反応しやすいため、職場内で衝動的に怒りを示したり、対立を生んだりすることがあり、業務に支障をきたし、職場の雰囲気が悪化する可能性があります。

C群パーソナリティ障害
C群は、強い不安や恐れを抱きがちで、内向的な性格が目立ちます。責任が重くなるような仕事や大勢の前に立つ仕事を避ける傾向があり、積極的な行動やリーダーシップを取るのが苦手です。

同僚が受ける悪影響

パーソナリティ障害を持つ同僚がいると、周囲はコミュニケーションの難しさや予測不能な行動によりストレスを感じやすくなります。職場の雰囲気が悪化したり、業務の効率が低下することもあり、対人関係の負担が増す可能性があります。

たとえば、パーソナリティ障害を持つ人は、時に架空の実績を捏造することがありますが、それを指摘すると激しく怒ることがあります。このような人に対して過度に寄り添いすぎると、他者が疲弊し、ストレスを抱える恐れがあります。

また、つい感情的に接すると、後々パワハラ問題に発展する危険性もあります。たとえば「休みが多くて仕事が進まない」と指摘した際に、「有給休暇を取る権利を非難された」と捉えられる場合もあります。有給休暇の取得を妨げるような発言があると捉えられれば、言った側が法的に不利な立場に立たされることも少なくありません。そのため、冷静かつ客観的なコミュニケーションが欠かせないといえます。

パーソナリティ障害への接し方

職場で不適切な行動が見られた場合、「あれはその人の性格の問題だ」と一方的に決めつけ、適切な対処をせずに済ませてしまうことがありますが、これは非常に危険です。その人の特性に応じた接し方を理解し、工夫することが重要です。パーソナリティ障害による症状は、その人の性格によるものではなく、特性の偏りが原因です。自然に治ることはあまり期待できません。
一方で、パーソナリティ障害の特性を理解することで、共存できる確率は高まります。
パーソナリティ障害は、環境や状況に応じた支援や配慮を行うことで、職場での問題を軽減し、円滑なコミュニケーションを促進することが可能です。それぞれのタイプごとの接し方を見ていきましょう。

A群パーソナリティ障害
A群のパーソナリティ障害を持つ人は、他者に対する興味や関心が少なく、特に警戒心が強いことが特徴です。そのため、無理に接近しようとすると逆効果になることがあります。彼らに対しては、まず距離を保ちながらも、時間をかけて警戒心を解いていくアプローチが有効です。直接的な指示や命令よりも、尊重と配慮を感じさせるコミュニケーションが、信頼関係の構築につながることがあります。信頼関係ができれば、彼らは比較的自律的に仕事を進めることができるため、無理に干渉せず、見守る姿勢が大切です。

B群パーソナリティ障害
B群のパーソナリティ障害を持つ人は、感情の起伏が激しく、しばしば他人の言動に対して強い反応を示すことがあります。感情的な爆発や対立を避けるためには、安定した業務環境を整えることが重要です。
ルーティンワークや、変化の少ない定型業務を任せることで、彼らの情緒不安定さを軽減することが期待できます。また、感情が高ぶった時には冷静かつ落ち着いた対応を心がけ、感情的な対立を避けることが大切です。安定した業務内容と環境を提供し、適度なフィードバックを行うことで、彼らの自己肯定感を高めることも有効です。

C群パーソナリティ障害
C群のパーソナリティ障害を持つ人は、強い不安や恐怖感を抱きやすく、責任の重い仕事や注目を集めるような役割を避ける傾向があります。彼らに対しては、責任を一人で抱え込まないような環境を整えることがポイントです。グループでの仕事や、役割を分担できるプロジェクトを任せることで、不安やプレッシャーを軽減し、安心して仕事に取り組めるよう配慮しましょう。また、彼らが困った時には迅速にサポートできる体制を整えておくことも重要です。自信を持って業務に取り組めるよう少しずつ成功体験を積ませ、自己効力感を育むことが長期的な成長につながるでしょう。

ルールを決めることも大切

パーソナリティ障害が疑われる場合には、要求に応じて過保護に対応するのではなく、ルールを設けて厳格に対応することが重要です。
つまり、職場のルールを決めて出来ないことをしっかりと伝えることが重要なのです。特定の人にだけ特別な配慮をしてしまうと、周囲の従業員の不満の原因になり、職場全体のモチベーションの低下につながってしまいます。
また、対応する場合には、ルールややりとりを文章化することも大切です。
パーソナリティ障害に対応する場合、後になって「そんなことは聞いていない」「そんな約束はしていない」と、トラブルになるケースが多いからです

したがって、本人とのやりとりや出来事、決めた約束、ルールなどは客観的な文章記録として残しておきましょう。
万が一、本人から労災申請や訴訟提起などがあっても、このような記録があれば、「職場として適切に、誠実に対応した」という証拠になります。

周囲への配慮も大切

パーソナリティ障害への対応では、本人に対する適切な配慮が必要ですが、それ以上に、職場全体のモチベーションや健全性を維持するための配慮も非常に重要です。パーソナリティ障害を持つ人が、感情の起伏や対人関係の問題で周囲に影響を与える場合、その影響が広がることによって職場の全体的な雰囲気が悪化し、他の社員のストレスや生産性の低下を招く可能性があります。職場全体の士気を維持するためには、個々の社員の心身の健康にも注意を払い、適切なサポート体制を確立することが必要です。

本人に対しては、職場が治療やカウンセリングの場ではないことを明確に伝えることが重要です。職場での配慮には限界があり、全ての問題に対応できるわけではないことをしっかり示し、過剰な期待を持たせないようにすることが肝心です。
また、職場全体のモチベーションが低下しないよう、組織全体でのコミュニケーションを活発に保つことが求められます。パーソナリティ障害を持つ人がチームの一員として働いている場合、他のメンバーがその人に過剰な負担を感じないように、業務の役割分担やコミュニケーション方法を見直すことが有効です。

たとえば、他のメンバーが感情的な負担を避けられるように、適度な距離感を保ちながら業務に取り組める仕組みを作ることが考えられます。また、管理職や人事担当者が定期的に状況を把握し、問題が表面化する前に対応できる体制を整えておくことも重要です。
さらに、周囲の社員がパーソナリティ障害のある人に対してどのように接するべきかを理解し、適切に対処できるよう教育やサポートを提供することが役立つ場合もあります。パーソナリティ障害の特性を理解し、過度に感情的な反応を示さず、冷静に対応するスキルを職場全体で育むことが、結果として職場の健全性を保つ鍵となります。また、職場内での対話やフィードバックの機会を設け、各自が感じている負担や悩みを共有できる場を定期的に設けることも、職場のモチベーションを高めるために効果的です。
つまり、個別の問題にとどまらず、組織全体のマネジメントの問題として取り組むべき課題であり、全ての社員が心地よく働ける職場環境の整備に努める必要があります。

まとめ

パーソナリティ障害は、対人関係や感情調整が困難になる特性があり、治療は主に精神療法と薬物療法を通じて行われます。対応には、個々の特性を理解し、適切な距離感を持ちながら配慮することが重要です。

パーソナリティ障害がいる職場でストレスチェックを活用することで、職場全体のストレスレベルを把握することができますし、特定の従業員やチームに過剰な負担がかかっていないか確認できます。
また、パーソナリティ障害を持つ人が職場にいる場合、コミュニケーションの難しさや業務進行のトラブルなどが他の従業員にストレスを引き起こす可能性があります。ストレスチェックを定期的に実施することで、早期に問題を発見し、職場全体のメンタルヘルスを保つための対策を講じやすくなります。
また、個々の従業員が自分のストレス状態を自覚することも促進され、早期対応や適切なサポートが可能になります。

:参照記事
>精神疾患とは?事例や症状を分かりやすく解説(精神科医監修)

>ストレスチェックの集団分析|10個のポイント

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家