精神疾患とは?事例や症状を分かりやすく解説(精神科医監修)

メンタルヘルス不調に適切に対応するためには、メンタルヘルス不調の原因となる精神疾患の特徴や原因について知っておくことが大切です。
国際疾病分類(ICD-10)の診断基準でいうと、認知症、アルコールや薬物などの依存症、統合慎重翔、うつ病や双極性感情障害といった気分障害などが代表的な精神疾患とされます。

    精神疾患とメンタルヘルス不調

    メンタルヘルス不調とは、厚生労働省の「労働者の心の健康保持増進のための指針」によれば、「精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」と定義されます。
    ここでは、メンタルヘルス不調に起因する精神疾患や原因、対応についてご紹介します。

    (1)ICD-10による精神疾患の分類

    精神疾患の分類としては、国際的に①ICD-10と、②DSM-5が使われています。
    ①ICD-10とは、国家の公式統計に用いられている分類で、②DSM-5は、アメリカ精神医学会の分類です。
    労働者災害補償保険法の補償対象とするか否かの決定や精神疾患の診断には、一般的にICD-10の分類に基づく診断名が用いられますが、その病名については何を根拠としているのかを確認することが大切です。

    なお、WHOは2018年にICD-11の内容を発表し、2019年以降に使われるようになっていますが、カテゴリーの区分はICD-10と大きく異なっていますが、ここでは厚生労働省ホームページで紹介されているICD-10の分類をご紹介します。

    ①症状性を含む器質性精神障害
    アルツハイマー病の認知症
    脳の疾患、損傷及び機能不全による人格及び行動の障害など

    ②精神作用物質使用による精神及び行動の障害
    アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害
    タバコ使用<喫煙>による精神及び行動の障害など

    ③統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害
    統合失調症など

    ④気分[感情]障害
    双極性感情障害など

    ⑤神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害
    強迫性障害など

    ⑥生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
    摂食障害など

    ⑦成人の人格及び行動の障害
    特定の人格障害など

    ⑧知的障害
    軽度知的障害・中等度知的障害など

    ⑨心理的発達の障害
    自閉症スペクトラムなど

    ⑩小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害
    行為障害など

    ⑪詳細不明の精神障害

    > 厚生労働省「ICD-10(国際疾病分類)第5章 精神および行動の障害」

    (2)うつ病

    うつ病とは、抑うつ状態が持続し、頭痛、耳鳴り、しびれ、微熱などのさまざまな症状があらわれる精神疾患です。
    メンタルヘルス不調による長期休職者には、このうつ病がもっとも多いと言われています。
    「何を食べても美味しいと感じない」「吐き気がする」など食欲不振の症状があらわれることも多く、体重が減少します。初めは、不眠など軽度の抑うつ症状を訴える人が多く見られます。
    また、うつ病の特徴として睡眠障害があります。寝つきが悪い・途中で目が覚める・朝早く目が覚めてしまうなどの症状のほか過眠も見られ、この場合には朝に目が覚めないので、定時の出社ができなくなります。

    また、意欲の低下、興味の喪失、集中力の低下という症状もあります。
    「最近やる気が起きない」「テレビを見ていてもつまらない」というレベルから、「1日中何もできず、入浴すらできない」という状態まで、さまざまなレベルがあります。注意力や集中力が落ちると、仕事の能率が悪くなって残業が多くなり、それでも無理をしているとさらにうつ病が悪化する…という悪循環に陥ります。
    罪悪感から自己評価が低くなってしまい、「周りに迷惑をかけている」「会社をやめたい」と考えてしまう人もいます。この罪悪感は、最悪の場合には自殺願望にまで至ることもあり、注意が必要です。

    うつ病の治療としては、まずは一定期間の休養が大切です。
    うつ病を発症する方は生真面目であることが多く、周囲の人に迷惑をかけていると考えて焦りを感じることがありますが、まずは十分に休養をとり薬物療法や心理療法などを検討します。
    薬物療法には、抗うつ薬が使われることがあります。劇的に効果があるというわけではありませんが、副作用が少なく平均3カ月程度で改善します。
    なお、うつ病は再発しやすい病気ですが、再発防止には心理療法が有効とされています。そして、復職の際しても、周りの理解や協力を得ることが大切です。

    (3)双極性障害

    双極性障害とは、従来は躁うつ病と呼ばれていた精神疾患で、躁状態と抑うつ状態が交替する症状があらわれる精神疾患です。
    双極性障害は遺伝の影響が高い傾向にあり、うつ病の治療に用いる薬物が異なりますので(気分安定薬を用い、抗うつ薬は使わない)、診断には十分な注意が必要です。
    双極性障害は、躁状態では気分が異常に高揚して開放的となり、自分が病気であるという認識を持てなくなります。自尊心が大きくなり尊大な態度をとったり、睡眠欲求が減少して眠らなくても支障を感じなくなったりするという特徴があります。なかには、対人トラブルやギャンブル、買い物などの金銭トラブルが生じることもあります。
    ただ、活動的ではあるものの注意力散漫でミスが多発したり、やりたいと思ったことを止められたりするとイライラしたり、飲酒量が極端に増えるといった症状も見られます。
    軽度な躁状態の場合には、空回りをしていても自身も周りもそれほど障害がないことから、むしろ「調子がいい」と判断してしまい、病状そのものを見逃されることも少なくありません。

    双極性障害の治療としては、躁状態とうつ状態の振幅を少しずつ小さくし、日常生活に支障をきたさないようにすることを目的として行われます。治療薬としては、主に気分安定剤が使用されます。

    (4)不安障害

    不安障害とは、ちょっとした出来事に対して過敏に反応する症状があらわれる障害で、パニック障害、社会不安障害、強迫性障害などがあります。

    パニック障害
    パニック障害とは、主にパニック発作を症状とする病気です。
    動悸、息苦しさ、震え、めまい、吐き気、手足のしびれなどの症状が起こり、本人は「死んでしまうのではないか」と感じることもあります。
    このような発作は、10分くらいの間にピークに達して救急車を呼ぶこともありますが、病院に到着する頃には発作がおさまっていた…というケースもあります。パニック障害は慢性化することが多く、通勤や出張が困難になってしまうことがあり、その過程でうつ病を発症することもあります。

    社交不安障害(SAD)
    社交不安障害(SAD)とは、従来はあがり症、対人恐怖症などと言われていたもので、たとえば会議でプレゼンテーションをするときに強い不安を感じて混乱してしまうような状態をいいます。
    「人前で話すことにより、自分が悪い評価を受けるのではないか」という不安から、震えや動悸などの症状があらわれ、人と一緒に食事ができなくなったり会社に行けなくなったりして、社会生活を送るうえで支障が生じることもあります。
    社会不安障害は、かつては性格の問題と捉えられていましたが、今は薬物療法や心理療法で症状が改善することが明らかになっています。

    強迫性障害
    強迫性障害には、自分では不合理だと分かっているのに、ある考えに捉われてしまい、それを打ち消すために強迫行為を繰り返してしまい、その行為によって社会的・職業的な生活上に影響を及ぼしてしまう障害です。

    たとえば、公衆トイレに行った際に汚染されると感じ、何度も手を洗ってしまったり、家を出た後に鍵をかけたか何度も確認してしまったりといったものがあります。多くの場合、自分でも強迫症状が奇異であるという自覚があるため、そのストレスにより強迫症状が悪化することもあります。
    強迫性障害の治療法としては、薬物療法と認知行動療法などの心理療法が有用とされています。
    強迫性障害は、治療によって改善が十分に期待できる疾患ですから、できるだけ早期に医療機関で診察を受けることが大切です。

    (5)統合失調症

    統合失調症とは、考えや気持ちがまとまりにくくなり、幻覚や妄想などの症状があらわれたり、意欲が低下したり感情の表現が乏しくなったりといった症状が主症状としてあらわれる病気です。
    原因は特定されていませんが、神経伝達物質が過剰になり脳の神経が過敏になるため、脳内の神経伝達物質に作用する薬物療法と社会生活機能を改善させるリハビリテーションなどを組み合わせて行われます。
    統合失調症は、およそ100人に1人が発症すると言われており、短期間で回復する場合もありますし、症状が長引く場合もあります。

    (6)心的外傷およびストレス因関連障害

    心的外傷およびストレス因関連障害は、DSM-5では急性ストレス障害・心的外傷後ストレス障害(PTSD)・適応障害の3つに整理されました。

    急性ストレス障害(ASR)
    急性ストレス障害とは、心的外傷後ストレス障害と同レベルの強いストレス要因にさらされた直後から生じるストレス反応です。
    症状は3日以上1カ月のもので、1カ月を超えて症状が続く場合には通常はPTSDと診断されます。
    トラウマ治療への早期介入で、二次被害を生じさせるような要因を排除しながら治療を行うことが大切です。

    心的外傷後ストレス障害(PTSD)
    PTSDとは、通常の生活では体験しないような衝撃的な出来事に遭遇した際に生じるトラウマへの反応のなかで、特定の症状が生じる障害です。
    トラウマ体験をした後に、①再体験・侵入症状、②鈍麻・回復症状、③認知と気分の陰性症状、④覚醒度と反応性の著しい変化といった症状が1カ月以上持続し、顕著な苦痛や社会生活の機能に支障をきたしている場合には、PTSDと診断されます。
    主な症状としては、フラッシュバック、不眠、強い不安感などがあります。治療には、抗うつ薬を中心とする薬物障害と心理療法が有用とされています。

    適応障害
    適応障害とは、環境と人との適応がうまくいかず、不安、抑うつなどの症状があらわれる障害です。たとえば、「過労から仕事への意欲を失い、会社に行けなくなった」などの症状があれば、適応障害の可能性があります。
    通常はストレスの原因がなくなると症状が改善するので、職場においては配置転換や職種転換、職務内容の変更などを考慮しますが、特定された原因を除去するのが難しかったり個人の側に問題があったりする場合もあり、このような場合にはカウンセリングなどが有効となります。

    (7)身体症状症および関連症

    身体症状症とは、心理的な問題を背景に、不安や抑うつといった精神症状にあらわれず、頭痛、腰痛、関節痛などの身体症状としてあらわれるものです。動悸や息切れ、視力障害、胸痛、吐き気、腹痛、便秘などの身体症状があらわれることもあり、日常生活に影響が出ます。
    本人は本当につらい思いをしているのに、病気として理解されにくく、周囲から「気のせいでは」などと言われることもあり、ひとりで思い詰めてしまうケースもあります。

    (8)パーソナリティ障害

    パーソナリティ障害とは、人格上の偏りが本人に苦痛をもたらしたり、社会生活上の問題を生じさせたりする状態です。本人の性格傾向による自身の生きづらさと、本人の言動により周囲との対人関係に支障が出てしまう疾患で、通常は青年期に始まります。
    人格の未熟さやストレス耐性の低さから、対人葛藤を生じやすく、「会社が悪い」「同僚が悪い」と他者を責める傾向が強いという特徴があり、自分自身に意識を向けることができません。
    治療法としては、ものの見方、考え方の偏りを小さくすることを目指して心理療法を行います。

    (9)発達障害

    発達障害は、従来は小児の病気として扱われてきましたが、近年は大学生や社会人にも、発達障害のために社会的な適応ができず問題を抱えながら仕事をしているケースがあることが知られるようになりました。
    代表的な発達障害としては、アスペルガー障害があり、わがままで協調性に乏しく、自己中心的であるという印象を周囲に与えてしまいます。うつ病や適応障害の診断名がついた人のなかには、発達障害の特性がある人もいます。

    DSM-5では、発達障害を神経発達障害群と呼び、①知的能力障害群、②コミュニケーション障害群、③自閉症スペクトラム障害、④注意欠如、多動性障害、⑤限局性学習障害、⑥運動障害に分類していますが、成人で問題となるのは、③自閉症スペクトラム障害、④注意欠如です。
    他人との関わりに気を使わなければならない仕事や、急な予定変更が入りやすい仕事は苦手ですが、他人と関わらず研究や開発を進められる仕事は得意とする傾向があります。

    (10)依存症

    依存症とは、飲酒や薬、たばこなど特定のものへの嗜好に強くとらわれ、社会生活や人間関係に支障が生じているのに自分ではコントロールできない状態です。
    依存症は、本人がその問題を認めたがらず相談や治療に結び付きにくく、問題が深刻化して社会生活や人間関係が破綻してしまうこともある深刻な疾患です。
    治療法としては、本人や周囲が問題意識を持ち続け、これからの生き方を再構築するための心理療法が中心です。

    (11)認知症

    認知症の代表的な症状は、記憶障害、理解判断力低下です。
    多くは65歳以上で発症しますが、中年期(45歳~65歳)に発症するケースもあります。頼まれた仕事ができない、話の内容を覚えていないなどの症状があらわれたら注意が必要です。
    認知症には、血管性認知症、アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。
    血管性認知症は、脳梗塞などのあと認知機能が低下する場合と、比較的小さな脳梗塞を繰り返して徐々に認知機能が低下していく場合があります。
    アルツハイマー型認知症は、記憶障害から徐々に能力低下に進行する疾患です。
    前頭側頭型認知症は、自己中心的になったり、人への気遣いができなくなったりといった性格変化で気づくケースが多い疾患です。
    ただ、これらの症状は、うつ病やてんかんなど他の疾患でも発症する可能性がありますので、専門の医療機関での診断が非常に重要です。

    まとめ

    メンタルヘルス不調は、早期に医療機関で診断を受け治療を開始することが、重症化を防ぐために大変重要です。
    欠勤、遅刻が増えた、ミスが多い、周囲とのトラブルが多いといった事例があり、日常生活や業務に支障が出ている場合には、適切な支援を加えて対応することが求められます。
    また、昨今はオンライン診療の発達により、不調を感じたらすぐに医師に相談することができます。精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹が経営するオンラインクリニック「Mente」は全国の患者さんにご利用していただいております。

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    ストレスチェックを気づきに活かす

    メンタルヘルス不調者の早期発見、メンタルヘルス不調の予防には、ストレスチェックが有効です。
    ストレスチェックとは、メンタルヘルス対策の一次予防として、定期的に社員のストレスの状況について検査を行なう制度です。
    平成27年(2015年)12月1日に施行され、常時50人以上の労働者を使用する事業場において義務づけられています。

    企業の安全配慮義務違反があり労働契約法の違反であると認定されれば、社員からメンタルヘルス不調を理由として損害賠償責任を追及されるリスクがありますので、ストレスチェックの活用をはじめとした「事象が生じる前の取り組み」「予防するための取り組み」の実施は非常に重要です。

    ストレスチェックの集団分析(部署ごとのストレスチェック結果の分析)の活用は、職場の環境改善に活用することができます。
    まずは、各部署の所属長が集団分析結果から、課題や強みを把握して、実現可能な対策を検討します。
    集団分析の結果は、悪い点にばかり目が向きがちですが、よい点にも目を向けて、低ストレス職場での取り組みなどを他部門で共有して、会社全体の活性化に活用します。

    ストレスチェッカーは、日本最大級のストレスチェックツールです。
    ストレスチェックの導入方法や実施体制、結果の集計・分析等について不明点等あれば、専門知識を有するスタッフがていねいにご説明いたします。無料プランもご用意しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

    監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

    【監修医師】
    精神科医・日本医師会認定産業医
    株式会社Medi Face代表取締役
    近澤 徹

    オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

    > 近澤 徹| Medi Face 医師起業家