職場のいやがらせ・いじめの種類

職場のいやがらせ・いじめには、セクハラやパワハラ、モラハラなどさまざまな種類があります。
いやがらせ・いじめ問題が発生すると、それが原因で従業員がメンタルヘルス疾患となってしまうことがありますし、時にはマスコミで取り上げられ企業イメージを大きく損なう可能性もあります。
また、加害者だけでなく会社も責任を追及されることがありますから、いやがらせ・いじめへの対策は必須といえます。

職場のいやがらせ・いじめの種類

職場では、セクハラやパワハラ、モラハラをはじめとした、さまざまな種類のいやがらせ・いじめ行為があります。
厚生労働省のデータ「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、職場での「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は依然として最も多く、深刻な問題が続いています。2023年度の相談件数は60,125件と前年度より減ったものの、12年連続で最多でした。また、トラブル解決のための「あっせん申請」も800件と10年連続で最も多い状況です。数字を見るだけでも、職場でのいじめや嫌がらせが、今も多くの人にとって身近で悩ましい問題であることがわかります。

セクシャルハラスメント

セクシャルハラスメント(略してセクハラ)とは、性的ないやがらせのことです。職場にヌードのカレンダーを掲示する、性的な冗談を言う、身体に触れるといったものから、執拗に飲み会やデートに誘う行為も含まれます。
加害者自身はセクハラと認識しておらず、コミュニケーションの一環として行っている場合も多々あります。
セクハラの類型は、大きく対価型セクハラと環境型セクハラに分類され、環境型セクハラはさらに「視覚型セクハラ」「発言型セクハラ」「身体接触型セクハラ」に分類されます。

対価型セクハラ
性的な関係を求めたが断られた腹いせとして、仕事を与えない・配置転換を行う・降格させるなどの行為。
環境型セクハラ
①視覚型セクハラ
従業員が抗議しているにも関わらず、ヌードポスター等を掲示する行為。
②発言型セクハラ
彼氏・彼女はいないのかと尋ねたり、飲み会やデートに執拗に誘ったりする行為。あるいは性的な体験等の質問を行ったり、容姿について論評したりする行為。
③身体接触型セクハラ
不必要に肩や胸、太ももを触ったり、裸芸を強要したりする行為。

パワーハラスメント

パワーハラスメント(略してパワハラ)とは、一般的には職場内での優位性を背景に、上司が部下に対して行ういやがらせ・いじめのことをいいます。昨今は、同僚間や部下が上司に対していやがらせ・いじめを行うケースも増えています。

厚生労働省のワーキング・グループの報告書によると、パワハラに当たるか否かは、以下のチャートで判断されるとしています。

① 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景とする言動か?
→ NO:職場のパワハラではなく、指摘トラブルの可能性あり
→ YES:②へ

② 指導の目的があるか?
→ NO:NG(パワハラ)
→ YES:③へ

③ 指導方法は適切か?(暴力・暴言などの手段を用いていないか)
→ NO:NG(パワハラ)
→ YES:OK 正当な業務指導

また、パワハラについて問題となりうる行為として、以下の6つを列挙しています。※ただし、これらは、限定列挙ではなく例示列挙であり、パワハラとして問題となるのは、この6つだけではないという点には注意が必要です。

①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外れ・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強要したり仕事を妨害したりする(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりする(過少な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

モラルハラスメント

モラルハラスメント(略してモラハラ)は、殴る・蹴るといった身体的な暴力を伴わず、言葉や態度によって相手を精神的に追い込むいやがらせ・いじめのことを指します。
必要以上にしつこく叱責したり、相手の人格や価値観を否定するような言動を繰り返すのは典型例です。
ほかにも、無視を続けるなど、“見えにくい攻撃”もモラハラに含まれます。本人が「自分が悪いのでは」と思い込んでしまうケースも多いため、早めに気付くことが大切です。

ジェンダーハラスメント

女性従業員だけにお茶くみをさせたり、「女性は早く結婚して、家庭に入るのが幸せ」など発言したりする行為は、セクハラではなくジェンダーハラスメントと呼ばれます。個人の能力や特性を認めず「男だから、この程度の仕事ができるだろう」とか「女性は、会議で発言するな」などと圧力を加える行為も含まれます。
性的な表現を含まない言動なので、男女雇用機会均等法における「セクハラ」には該当せず、セクハラとは区別して認識する必要があります。

マタニティハラスメント

マタニティハラスメント(略してマタハラ)は、女性従業員が妊娠や出産を理由に職場からいやがらせ・いじめを受けたり、左遷・解雇をされたりするハラスメントです。
「上司に妊娠を報告したら、他の⼈を雇うので早めに辞めてほしいと言われた」「育児短時間勤務をしていたら、同僚から迷惑だと言われた」などは、典型的なマタハラ行為です。
また、最近は男性従業員が妻の出産や育児を理由に職場でいやがらせ・いじめを受けるケースも増えていて、これはパタニティハラスメント(パタハラ)と呼ばれます。

SOGI(ソジ)ハラスメント

SOGIハラ(ソジハラ)とは、性的指向や性自認に関する差別的な言動や行動を行うハラスメントのことです。SOGIハラもセクハラやパワハラと同様に、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすことがあり、国も法律や指針を改訂し、企業に対して防止対策を講じるよう求めています。

スモークハラスメント

たばこの煙が健康に与える影響が明らかになるにしたがって、受動喫煙が問題視されるようになりました。
平成15年には健康増進法が施行され、25条において受動喫煙防止対策の努力義務が規定されました。

健康増進法25条
学校、体育館、病院、職場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

パタニティハラスメント

パタニティハラスメント(いわゆる「パタハラ」)は、育児制度を利用しようとする男性社員に対して行われる嫌がらせのことです。たとえば、育児休暇を申請した男性を理由なく部署異動させたり、「育休は女がとるものだ」と決めつける発言をするのは典型例です。また、「育児は奥さんに任せて仕事に集中しろ」「男なのに保育園の送迎で遅れるなんて理解できない」といった無理解な言動もパタハラに該当します。近年は男性の育休取得が推進されていますが、まだ偏見が残る職場も多く、制度利用をためらわせる空気がいじめやハラスメントにつながるケースもあります。

時短ハラスメント

時短ハラスメント(いわゆる「ジタハラ」)は、働き方改革や残業削減を理由に、具体的な対策もサポートもないまま「とにかく早く帰れ」と従業員に強制する行為のことを指します。たとえば、以前と同じ業務量なのに残業を全面禁止し、定時退社を強いるケースは典型例です。その結果、仕事が終わらずに早朝出勤を余儀なくされたり、サービス残業につながることもあります。また、「時短できないのは努力不足だ」「ほかの人はできている」とプレッシャーをかける、仕事量の調整をしないままスケジュールだけ短縮させるといった行為もジタハラに該当します。

アカデミックハラスメント

アカデミックハラスメント(アカハラ)は、大学教授や指導教員など、教育・研究上の強い立場にある者が、その権限を濫用して学生や研究者に精神的な圧力や不利益を与える行為のことを指します。典型例として、研究の進行を意図的に妨害したり、根拠のない理由で退学や休学を強要するケースがあります。また、「君には研究者の才能がない」と人格を否定する発言を繰り返す、研究データの提出を不当に遅らせる、学会発表を禁止してキャリア形成を妨げるといったケースもアカハラに該当します。さらに、教授の私的な雑用を押し付けたり、研究室内で孤立させるといった行為が問題になることもあります。

カスタマーハラスメント

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、顧客が店員や従業員に対して行う悪質なクレームや威圧的な言動のことを指します。たとえば、客が大声で恫喝したり、店側に非がない内容で理不尽なクレームを繰り返すのは典型的な例です。また、「責任者を今すぐ出せ」「無料にしろ」「土下座しろ」など、過度な要求を押し付ける行為もカスハラに該当します。最近では、SNSでの投稿をちらつかせて従業員を脅すケースや、長時間にわたるクレームで業務を妨害するケースも増えています。

※その他、アルコールハラスメント、ケアハラスメント、グルメハラスメントなどのハラスメントやハラスメントの実例については、以下の記事で詳しく紹介しておりますので、あわせてご覧ください。

参考:35のハラスメント実例と代表的な20のハラスメント

職場のいやがらせ・いじめに関する会社のリスク

職場のいやがらせ・いじめを放置しておくと、従業員の労働生産性に影響を及ぼし、メンタルヘルス疾患となるリスクも増加します。そして、ハラスメント加害者だけでなく会社も責任を追及される可能性があるので注意が必要です。

モチベーションの低下・人材の流出リスク

職場のいやがらせ・いじめは、被害者本人だけでなく、その状況を目の当たりにしている周囲の従業員にも大きなストレスを与え、職場全体のモチベーションを下げてしまいます。たとえば、同僚が理不尽な叱責を受け続けているのを見れば、「自分も同じ目に遭うのでは」「会社は守ってくれないのでは」と不安を抱き、仕事に集中できなくなることがあります。
さらに、「職場でいやがらせが起きているのに、会社は何もしてくれない」と感じる従業員が増えれば、業務が滞るだけでなく、信頼低下や貴重な人材の流出につながるリスクも高まります。

メンタルヘルス疾患のリスク

職場でいやがらせ・いじめの被害を受けると、そのストレスが積み重なり、うつ病や適応障害などのメンタルヘルス疾患を発症するリスクがあります。たとえば、日常的に人格を否定され続けたり、無視や過度な業務負担を課される環境が続くと、心身のバランスを崩し、出社が難しくなるケースも少なくありません。
メンタルヘルス疾患は寛解(症状が落ち着き安定する状態)までに長期間を要することがあり、企業にとっても大きな損失につながります。療養期間中の人員不足による生産性の低下に加え、復職時の支援、職場環境の調整、再発防止策など、会社としてのフォローコストも無視できません。

損害賠償リスク

職場でいやがらせ・いじめを行った加害者は、不法行為(民法709条)に問われますが、それだけでなく会社も損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があります。
自ら命を絶つような深刻な事態を引き起こしてしまった場合には、その逸失利益(亡くならなければ、将来得られたであろう利益)や慰謝料は極めて高額になります。

・音更町農業協同組合事件は、長時間労働が続いたため疲弊していた労働者に対して厳しく叱責したところ、その労働者が自殺したという事案です。
裁判では、逸失利益として7,257万円、死亡慰謝料として3,000万円、その他の損害と併せて1億398万623円の損害賠償が認定されました(釧路地裁帯広支部 平成21年2月2日判決)。

・オタフクソース事件では、恒常的な長時間労働や会社側の対応の不備が問われ、安全配慮義務違反により1億1111万円の損害賠償が認定されました。(広島地判 平成12年12月10日)

職場のいやがらせ・いじめを防ぐためには

職場におけるいやがらせ・いじめは、個人対個人の問題と捉えられがちですが、その背景には組織の風土や構造が大きく関わっている可能性があります。

単に「いじめ、いやがらせはダメ」「ハラスメントはダメ」と従業員に指導することは簡単ですが、会社の対策としてはそれだけでは不十分です。従業員からの相談に対して適切に対応できる体制を整備し、研修やセミナーを通じて、どのような行為がいやがらせ・いじめに該当するのかという意識づけを行うことが必要です。

相談窓口では、小さなエピソードを見落とさない

まずは、企業のトップが「職場のいやがらせ・いじめは許さない」という姿勢を明確に示し、従業員が安心して相談できる窓口を設けることが重要です。トップの強いメッセージがあることで、被害を受けている人だけでなく、周囲の従業員も相談しやすい職場環境が生まれます。

職場のいやがらせ・いじめは、一見すると違法性が低いように見えたり、「本人が気にしすぎているだけでは?」と周囲が誤解してしまうケースもあります。例えば、軽い注意に見えても、長期間にわたり執拗に続いていたり、特定の従業員だけを標的にしていた場合、深刻なハラスメントに該当することがあります。

また、相談窓口での初期対応を誤ると、「会社は助けてくれない」と不信感が募り、後に大きなトラブルへ発展し、最悪の場合は訴訟につながるリスクもあります。被害者の訴えを軽視せず、事実関係を丁寧にヒアリングし、必要に応じて第三者機関を交えた調査を行うなど、慎重で丁寧な対応が求められます。

研修などによる意識づけが必要

「職場におけるいやがらせ・いじめが許されない行為であること」を明確に打ち出したら、次に必要なのは従業員への教育です。研修やセミナーを通じて、「組織の一員としてどのようにふるまうべきか」「どんな行動が問題になるのか」を具体的に伝えます。

研修内容としては、「職場におけるいやがらせ・いじめ(ハラスメント)の定義」や「よくある具体例」、そして「加害行為があった場合に会社が取る措置」などが中心です。たとえば、指導と叱責の境界線、無意識の言動がどんな影響を与えるかなどを例を交えて解説します。

また、管理職と一般従業員では役割が異なるため、研修は分けて実施するのが一般的です。
管理職向けには「自分が加害者になり得る」という認識を持たせ、部下への指導の仕方や注意点を重点的に学んでもらいます。
一方、一般従業員向けの研修では、被害にあった場合の相談手順や、同僚から相談を受けたときの適切な対応を中心に伝え、安心して声を上げられる職場づくりをサポートします。

ストレスチェックの活用

ストレスチェックとは、従業員が自分のストレス状態に気づき、早めのセルフケアにつなげることを目的とした制度です。質問票に回答することでストレスの蓄積度や原因の傾向が分かるため、「最近眠れない」「仕事に集中できない」など、小さな不調にいち早く気付ける仕組みとして活用されています。

50人以上の事業場では、医師や保健師など専門職を実施者としてストレスチェックを行い、高ストレスと判断された従業員には面接指導の希望を確認する義務があります。さらに令和7年の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務だった50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化されることになりました(公布日から3年以内に施行)。

実際、ストレスチェックの集団分析や医師の面接指導を通じて、職場内でのいやがらせ・いじめが明らかになるケースもあります。たとえば、特定の部署だけストレスが極端に高い、面談で「上司の叱責が怖い」「同僚から孤立させられている」といった訴えがあるなど、問題発見のきっかけにもなります。従業員の心身を守るためにも、積極的な活用が非常に有効です。

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
導入や運用の相談は、ぜひお気軽にお問合せください。


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まとめ

職場のいやがらせ・いじめによって従業員がメンタルヘルス疾患となれば、職場の士気は低下し、人材流出のリスク、企業イメージ低下につながっていきます。さらに従業員から訴訟を起こされれば、会社は損害賠償責任を負う可能性もあるのです。
職場のいやがらせ・いじめを予防するために研修等で指導し、ストレスチェックなどの制度を活用して職場環境の把握および改善を行い、従業員が安心して働くことができるよう、迅速に対策を講じることが企業に求められています。

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