職場のいやがらせ・いじめには、セクハラやパワハラ、モラハラなどさまざまな種類があります。
いやがらせ・いじめ問題が発生すると、それが原因でメンタルヘルス疾患となってしまうことがありますし、時にはマスコミで取り上げられ企業イメージを大きく損なう可能性もあります。そして加害者だけでなく会社も責任を追及されることがありますから、いやがらせ・いじめへの対策は必須といえます。
目次
職場のいやがらせ・いじめの種類
職場では、セクハラやパワハラ、モラハラをはじめとした、さまざまな種類のいやがらせ・いじめ行為があります。
厚生労働省の「「令和元年度民事上の個別労働紛争相談の内訳」によれば、「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が全体の25.5%を占めていて「いじめ・嫌がらせ」の相談件数の中は、8年連続トップでした。
ここではまず、特に職場で問題となるいやがらせ・いじめの種類についてご紹介します。
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(略してセクハラ)とは、性的ないやがらせのことです。職場にヌードのカレンダーを掲示する、性的な冗談を言う、身体に触れるといったものから、執拗に飲み会やデートに誘う行為も含まれます。
加害者自身はセクハラと認識しておらず、コミュニケーションの一環として行っている場合も多々あります。
セクハラの類型は、大きく対価型セクハラと環境型セクハラに分類され、環境型セクハラはさらに「視覚型セクハラ」「発言型セクハラ」「身体接触型セクハラ」に分類されます。
対価型セクハラ 性的な関係を求めたが断られた腹いせとして、仕事を与えない・配置転換を行う・降格させるなどの行為。 環境型セクハラ ①視覚型セクハラ 従業員が抗議しているにも関わらず、ヌードポスター等を掲示する行為。 ②発言型セクハラ 彼氏・彼女はいないのかと尋ねたり、飲み会やデートに執拗に誘ったりする行為。あるいは性的な体験等の質問を行ったり、容姿について論評したりする行為。 ③身体接触型セクハラ 不必要に肩や胸、太ももを触ったり、裸芸を強要したりする行為。 |
パワーハラスメント
パワーハラスメント(略してパワハラ)とは、一般的には職場内での優位性を背景に、上司が部下に対して行ういやがらせ・いじめのことをいいます。昨今は、同僚間や部下が上司に対していやがらせ・いじめを行うケースも増えています。
厚生労働省のワーキング・グループの報告書によると、パワハラに当たるか否かは、以下のチャートで判断されるとしています。
また、パワハラについて問題となりうる行為として、以下の6つを列挙しています。※ただし、これらは、限定列挙ではなく例示列挙であり、パワハラとして問題となるのは、この6つだけではないという点には注意が必要です。
①暴行・傷害(身体的な攻撃) ②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃) ③隔離・仲間外れ・無視(人間関係からの切り離し) ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強要したり仕事を妨害したりする(過大な要求) ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりする(過少な要求) ⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害) |
モラルハラスメント
モラルハラスメント(略してモラハラ)は、身体的な暴力を伴わない精神的ないやがらせ・いじめのことです。
しつこく叱責したり、相手の人格を否定するような態度をとったりするのは、モラハラの典型的な例です。
ジェンダーハラスメント
女性従業員だけにお茶くみをさせたり、「女性は早く結婚して、家庭に入るのが幸せ」など発言したりする行為は、セクハラではなくジェンダーハラスメントと呼ばれます。個人の能力や特性を認めず「男だから、この程度の仕事ができるだろう」とか「女性は、会議で発言するな」などと圧力を加える行為も含まれます。
性的な表現を含まない言動なので、男女雇用機会均等法における「セクハラ」には該当しないため、セクハラとは区別して認識する必要があります。
マタニティハラスメント
マタニティハラスメント(略してマタハラ)は、女性従業員が妊娠や出産を理由に職場からいやがらせ・いじめを受けたり、左遷・解雇をされたりするハラスメントです。
「上司に妊娠を報告したら、他の⼈を雇うので早めに辞めてほしいと言われた」「育児短時間勤務をしていたら、同僚から迷惑だと言われた」などは、典型的なマタハラ行為です。
また、最近は男性従業員が妻の出産や育児を理由に職場でいやがらせ・いじめを受けるケースも増えていて、これはパタニティハラスメント(パタハラ)と呼ばれます。
SOGI(ソジ)ハラスメント
SOGIハラ(ソジハラ)とは、性的指向や性自認に関する差別的な言動や行動を行うハラスメントのことです。SOGIハラもセクハラやパワハラと同様に、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすことがあり、国も法律や指針を改訂し、企業に対して防止対策を講じるよう求めています。
スモークハラスメント
たばこの煙が健康に与える影響が明らかになるにしたがって、受動喫煙が問題視されるようになりました。
平成15年には健康増進法が施行され、25条において受動喫煙防止対策の努力義務が規定されました。
健康増進法25条 学校、体育館、病院、職場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。 |
職場のいやがらせ・いじめに関する会社のリスク
職場のいやがらせ・いじめを放置しておくと、従業員の労働生産性に影響を及ぼし、メンタルヘルス疾患となるリスクも増加します。そして、ハラスメント加害者だけでなく会社も責任を追及される可能性があるので注意が必要です。
モチベーションの低下・人材の流出リスク
職場のいやがらせ・いじめは、被害者本人だけでなくその状況を周りで見ている従業員にも、モチベーションの低下などの大きな影響を与えます。
「職場でいやがらせ・いじめが行われているのに、会社は何もしてくれない」と本人だけでなく周りの従業員も感じるようになれば、業務停滞が生じるだけでなく、貴重な人材が流出してしまうリスクがあります。
メンタルヘルス疾患のリスク
職場でいやがらせ・いじめの被害を受けると、それが原因で従業員がメンタルヘルス疾患となるリスクがあります。
メンタルヘルス疾患は、寛解(かんかい)※するまでにも長い期間を必要とすることもあり、会社として大きな損失となります。療養のため就労できない期間中の損失だけでなく、復職やその後のフォローにも多くのコストがかかります。
※症状が落ち着いて安定した状態
損害賠償リスク
職場でいやがらせ・いじめを行った加害者は、不法行為(民法709条)に問われますが、それだけでなく会社も損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があります。
自ら命を絶つような深刻な事態を引き起こしてしまった場合には、その逸失利益(亡くならなければ、将来得られたであろう利益)や慰謝料は極めて高額になります。
・音更町農業協同組合事件は、長時間労働が続いたため疲弊していた労働者に対して厳しく叱責したところ、その労働者が自殺したという事案です。
裁判では、逸失利益として7,257万円、死亡慰謝料として3,000万円、その他の損害と併せて1億398万623円の損害賠償が認定されました(釧路地裁帯広支部 平成21年2月2日判決)。
・オタフクソース事件では、恒常的な長時間労働や会社側の対応の不備が問われ、安全配慮義務違反により1億1111万円の損害賠償が認定されました。(広島地判 平成12年12月10日)
職場のいやがらせ・いじめを防ぐためには
職場におけるいやがらせ・いじめは、個人対個人の問題と捉えられがちですが、その背景には組織の風土や構造が大きく関わっている可能性があります。
単に「いじめ、いやがらせはダメ」「ハラスメントはダメ」と従業員に指導することは簡単ですが、会社の対策としてはそれだけでは不十分です。従業員からの相談に対して適切に対応できる体制を整備し、研修やセミナーを通じて、どのような行為がいやがらせ・いじめに該当するのかという意識づけを行うことが必要です。
相談窓口では、小さなエピソードを見落とさない
まずは、企業のトップが「職場のいやがらせ・いじめは許さない」という立場を表明し、被害者が相談できる窓口を設置します。
職場のいやがらせ・いじめは、第三者からみるとそれほど違法性が高くないと見えるケースも多いため、「本人が気にし過ぎているだけでは」と判断してしまうことがあります。しかし、過去の経緯や全体像を細かく調査すると、深刻な問題が隠されていることもあります。
相談窓口での対応が、後々大きなトラブルになり訴訟に発展することもあるので、慎重に対応することが大切です。
研修などによる意識づけが必要
「職場におけるいやがらせ・いじめが許されない行為であること」を表明したら、研修やセミナーで「組織の一員としてどうあるべきなのか」「どうふるまうべきなのか」などについて指導します。
具体的には、「職場におけるいやがらせ・いじめ(ハラスメント)の定義」「具体例」「加害者に対して会社はどのような措置を講ずるのか」といった内容が中心となりますが、管理職とその他の一般の従業員を分けて行うのが通例です。
管理職の研修では、自分自身がハラスメントの加害者になるリスクがあることを意識させる内容の研修を行い、一般の従業員に対する研修では、自分が被害者になった時にどうすればよいのか、相談を受けた時にどのように対応するべきかを中心に研修を行います。
ストレスチェックの活用
ストレスチェックとは、従業員自身が自分のメンタルの状態に気づいてセルフケアにつなげることを目的とした制度です。
50人以上の事業場では、医師、保健師等を実施者としてストレスチェックを行わなければならず、希望する労働者に対して面接指導を行います。
ストレスチェックの分析結果、医師の面接指導から、職場のいやがらせ・いじめが発覚するケースもありますので、ぜひ活用することをおすすめします。
まとめ
職場のいやがらせ・いじめによって従業員がメンタルヘルス疾患となれば、職場の士気は低下し、人材流出のリスク、企業イメージ低下につながっていきます。さらに従業員から訴訟を起こされれば、会社は損害賠償責任を負う可能性もあるのです。
職場のいやがらせ・いじめを予防するために研修等で指導し、ストレスチェックなどの制度を活用して職場環境の把握および改善を行い、従業員が安心して働くことができるよう、迅速に対策を講じることが企業に求められています。
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