健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」という考えのもと、健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践することを意味します。
この記事では、健康経営の意義やメリット、仕組みづくりなどについてご紹介していきます。
目次
健康経営とは
健康経営について、経済産業省は以下のように定義しています。
従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営学的な視点で考え、戦略的に実践すること。 |
つまり、「企業が従業員の健康に配慮することで、経営面においても大きな成果が期待できる」ということです。
健康経営の概念は、アメリカの経営心理学者ロバート・H・ローゼン(Robert H. Rosen)氏の「健康な従業員こそが、収益性の高い会社をつくる」という思想から始まったとされています。
かつての企業は従業員の健康より自社の業績を重視する傾向にあったため、多くの従業員が長時間労働を強いられ、健康を害するケースが散見されました。当時、多くの企業は「従業員の代わりはいくらでもいる」と考えていましたが、現在そのようないわゆるブラックな考え方の業界・企業は深刻な人手不足に陥っています。ひとたび世間からブラック企業のレッテルを貼られてしまうと、労働力の確保が困難となり、事業の継続が難しくなるケースも出てきています。
企業が従業員を使い捨てる時代は終わりを迎え、いまや企業には従業員の生活習慣に積極的に関与して健康維持を促すだけでなく、働きがいや生きがいなども総合的に高めることが求められるようになりました。
(1)健康投資のリターンは3倍
健康経営では、従業員の生活習慣予防やメンタルヘルスケアなどに関するすべての費用を「投資」と考えます。健康な従業員が働くことで生産性が上がり、業績向上にもつながる「リターン」が見込めると捉えるからです。
アメリカの医療大手企業ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、グループ250社、約11万4000人以上に健康教育プログラムを提供し、そのリターンを試算したところ、投資「1」に対して「3」のリターンがあったという結果になりました。健康への投資は企業にとって大きなメリットがあるといえます。
経済産業省「企業による「健康投資」に関する情報開示について」
(2)健康経営と働き方改革の関係
働き方改革関連法は、正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、日本法における8本の労働法の改正を行う法律の通称となっています。(2019年4月1日から順次施行)
働き方改革の柱は大きく「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)」の3つです。
健康経営は、労働時間や業務空間など企業の仕組みに対してもアプローチすることから、働き方改革と連動して語られるケースが多々あります。働き方改革は長時間労働の是正や有給休暇の取得率向上など「制度の是正」がテーマであることに対して、健康経営は「企業の経営戦略」であり、従業員の心身の健康状態を改善することで、生産性や競争力の向上を目指すものとなっています。
(3)中央省庁による取り組み
健康経営はさまざまな取り組みによって中央省庁からも後押しされています。
・厚生労働省は従来の環境整備型から、多様で高品質な働き方ができる仕組みづくりのため、雇用のセーフティネットの整備、働き方改革などの施策を進めています。
また、2015年5月から「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として、労働法に違反した企業の社名とその内容を公開し、労働環境の向上をはかっています。
・経済産業省の産業構造審議会基本政策部会は、「経済成長と公平性の両立に向けて ~『自立・共生社会』実現への道標~」において、企業や社会における健康経営・健康増進の取組の必要性を提言しています。
・2015年、厚生労働省、経済産業省、東京証券取引所の協働により「日本再興戦略」に位置づけられた「国民の健康寿命が延伸」に対する取り組みの1つとして、健康経営の仕組みが発表されました。
健康経営のメリット
健康経営には生産性の向上や企業イメージの向上など、さまざまなメリットがあります。
(1)生産性の向上
個人の健康に関するリスクというと、心理的リスク(ストレス、仕事満足度、生活満足度など)、生物学的リスク(血圧、血糖値、肥満、既往歴など)や、生活習慣リスク(喫煙、飲酒、睡眠、運動など)があります。そして、これらのリスクは、体調不良による欠勤や体調不良のまま出勤することによるモチベーションの低下などと相関関係があることが分かっています。
厚生労働省掲載「「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化」
健康経営の取組を進めることで肉体的にも精神的にも充実すれば、欠勤や休職などのリスクを減らし結果的に生産性を向上させることができます。
(2)従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントとは、簡単にいえば会社に対する愛着、満足度、思い入れなどのことです。
以前は、定期昇給で給料が上がり長期雇用が保証されている「年功序列・終身雇用」が従業員エンゲージメントを高める要因でした。しかし、現在は特に若い人たちの間で「会社が自分たちの健康やライフスタイルを大切にしてくれていると感じられること」も、従業員エンゲージメントを高める要因となってきています。
健康経営の推進によって従業員エンゲージメントを高められれば、健康的に働く人材が定着するので離職率が低下し、採用コストを軽減することができます。さらには安定的かつ継続的なパフォーマンスを得られるという、中長期的なメリットも享受できるようになります。
(3)企業イメージの向上
健康的に働く人材が定着し、安定的で継続的なパフォーマンスを得ることができるようになれば、企業イメージが向上し株価にもいい影響を与えることが期待できます。
株価は会社そのものの魅力や経営者の魅力など、多くの要素が複雑に絡み合いますから「健康経営をすれば、株価が上がる」とまでは言いきれないと思われるかもしれません。
しかし、経営産業省の「商務情報政策局」の「健康経営銘柄について」(2015年4月)によると、健康経営に優れる企業の株価の平均騰落率は、東証株価指数(TOPIX)を上回る形で推移し、経営のコミットメントが相対的に高いという調査データが発表されています。この東証株価指数(TOPIX)は、リーマンショック以降でも上回り続けていましたから、健康経営を実践する企業は大きな経済危機に強い傾向があるということがいえるのではないでしょうか。
引用: 経済産業省「健康経営の推進について(令和2年9月)」
健康経営のしくみづくり
健康経営のしくみづくりは、経営トップがまずその意義や重要性をしっかり認識して、社内外に理念を示すことからスタートします。健康経営とは、単に「従業員個人の健康状態の数値を良くする」というものではなく、経営戦略として従業員の健康管理や健康づくりを推進していくことにあります。
理念を示したら、次に従業員の健康保持・増進に向けた組織体制の構築のため、メンタルヘルス対策やストレスチェック、運動機会などの制度・施策を実行していきます。
(1)メンタルヘルス対策
身体的な不調だけでなくメンタルヘルスの不調によっても、従業員は休職したり業務が非効率になったりするリスクがあります。
そこで企業としては、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための策を講じる必要があります。
具体的には、相談窓口を設置したり後述するストレスチェックを実施したりして、メンタルヘルス不調に陥る可能性のある従業員を早期発見したり、自分のメンタル状態の気づきを促しセルフケアにつなげるなど、適切な措置を講じていきます。
(2)ストレスチェック
ストレスチェックとは、2015年(平成27年)からスタートした制度で、常時50人以上の労働者を使用している事業場に義務づけられました。
ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで「自分のストレスが、今どのような状態にあるのか」という気づきを促し、セルフケアにつなげることを目的としています。
ストレスチェックは、さまざまなメンタルヘルス対策と相乗効果を発揮し、メンタルヘルス不調の発生防止に期待できます。
(3)食生活の改善
豊かな食生活は人々が健康で幸福な生活を送るために欠かせないものです。大きく「身体的な健康」という視点からみれば、食生活は必要な栄養素を適切に摂取する以外にも、社会的・文化的な営みという面を持っており、生活の質と深い関わりをもっていると言われています。
事業場における食生活改善の代表的な取り組みとしては、従業員の健康意識向上のために社員食堂における栄養素やカロリーを表示したり、職場で朝食を提供してコミュニケーションの機会を設けたりするなどの施策が挙げられます。
(4)運動機会の推進
適度な運動は、ストレス緩和に高い効果があることが分かっています。したがって運動不足の解消を推進することは、従業員のストレス軽減に非常に効果的であると考えられます。
例えば歩数を測るデバイスを配布して従業員の歩数競争をするイベントを開催したり、徒歩や自転車での通勤推進を実施したりしている企業もあり、その多くの企業でストレス改善の効果を実感しているそうです。
(5)教育機会の設定
「健康経営優良法人 2020(中小規模法人部門)の認定基準」によると、ヘルスリテラシーの向上のためには、管理職や従業員に対する教育機会の設定が必要であるとされています。
次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資ワーキンググループ/日本健康会議 中小1万社健康宣言ワーキンググループ「健康経営優良法人 2020(中小規模法人部門)認定基準解説書」
実際、従業員に健康情報をもっと身近な課題として考えてもらうために、管理栄養士が毎週健康情報を発信したり、睡眠・禁煙・メンタルヘルスなどテーマを決めて定期的に研修を行ったりすることは、従業員の意識改革に効果的です。
また、一般の従業員が取り組む「セルフケア研修」、管理職が部下のメンタル不調に気づき、安全配慮義務の視点で対応方法を学ぶ「ラインケア研修」などは、健康経営に基づくチームづくりに効果があるといわれています。
まとめ
健康経営は単に医療費という経費を削減することが目的ではなく、企業が従業員の健康に配慮することで、経営面においても大きな成果を期待できるとする概念であり、1つの経営手法ともいえます。
健康経営はこれからの企業経営にとって、ますます重要になっていくものと考えられます。
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