休職中の従業員への対応

メンタルヘルス不調で従業員が休職する際、会社はさまざまな事項について検討し、手続きを行わなければなりません。
備品やネットワーク環境のアクセス管理や、休職中に提出する書類や頻度を決める必要がありますし、傷病手当、社会保険料の手続きも進めなければなりません。適切な対応を整えることで、従業員が安心して休職・復職できる環境を作ることができます。

休職中の従業員への対処法

メンタルヘルス不調による従業員の休職が発生した場合には、社内の備品やネットワーク環境へのアクセス権をどうするか検討する必要があります。また、業務用のパソコンや社用携帯などの返却を求めるのか、イントラネットや業務用システムへのアクセスを制限するのか、情報管理の観点から適切な対応を考えなければなりません。
また、休職中に提出してもらうべき書類やその頻度についても整理が必要です。たとえば、診断書の提出を求める場合には、どのタイミングで、どの程度の頻度で提出を義務付けるのかを明確にしておくことが重要です。休職期間の管理が曖昧だと、復職の判断が難しくなるため、定期的な健康状態の報告を求めた方が良いケースもあります。
さらに、休職中の賃金や傷病手当、社会保険料の取り扱いについても手続きを進めなければなりません。
会社として適切な対応を整えておくことで、従業員が安心して休職・復職できる環境を整えることができます。

(1)会社の備品やアクセス権

会社が従業員にパソコンやスマートフォンを貸与することはよくありますが、休職中は回収するのが望ましいでしょう。セキュリティのアップデートが行われることもありますし、手元に端末があると、つい業務メールを確認してしまい、療養に専念できない可能性があるためです。

ただ、一部の従業員は「貸与品を回収されると退職を迫られるのでは」と不安を感じることもあります。そこで、就業規則に「休職中は会社貸与物を返還する」と明記し、「療養に専念してほしい」という趣旨をていねいに説明することが大切です。

また、社内のネットワーク環境やメールのアクセスも制限するのが望ましいですが、完全に禁止すると傷病手当金の申請や復職に関する連絡が不便になります。そのため、就業規則や各種手続きに必要な情報だけは閲覧できるようにするなど、適切な制限を設けるのがよいでしょう。

(2)休職中に提出させる書類

会社は、一般的には従業員から主治医が作成した「本日から〇年〇月〇日まで就労不可であり、自宅療養を要する」といった診断書を提出してもらってから、休職を命じます。
そして、この期限を超えてさらに休職が必要である場合には、期限が設定された診断書を再度提出させる必要があります。
なかには診断書の作成料を負担したくないといった理由から、提出をしない従業員がいるようですから、診断書提出についても就業規則に規定しておくようにしましょう。
また、会社は休職者から1カ月に1度の傷病手当金支給申請書の提出を受けることになります。
このやり取りのなかで、病状や通院、主治医のアドバイスについて確認するなど、コミュニケーションをとることも大切です。
ただし、メンタルヘルス不調で休職中の場合には、このようなコミュニケーションを負担に感じる可能性もありますので、休職に入る前に会社からの連絡方法や頻度、復職に向けたステップなどについて説明しておきましょう。
また、復職の準備段階においては、生活が安定しているか、十分な意欲を示しているか、適切な睡眠リズムが整っているか、業務遂行に必要な注意力や集中力が回復しているかを確認する必要があります。
そこで、1日の生活記録表を作成してもらうようにするのがおすすめです。
少なくとも2週間以上、できれば1カ月程度の生活記録表を作成してもらいましょう。

(3)休職中の賃金

休職中の賃金は、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、賃金を不支給とすることができますが、家族手当や住宅手当については別途対応が必要です。
まず基本給は、日割り計算が用いられますが、計算方法は当該所定労働日数を用いる方法や月平均所定労働日数を用いる方法などがあるので、予め就業規則で計算方法を定めておきましょう。
家族手当や住宅手当などは、生活費の補助的な意味合いがあるので、通常は日割り計算の対象外とします。
なお、通勤手当は不支給とする企業がほとんどです。

(4)傷病手当金、社会保険料

傷病手当金とは、健康保険の被保険者が病気やケガの療養のために労務ができない場合に、労務ができない日が連続して3日を経過したうえで、4日以降労務ができない期間に対して支給されます。
1日あたりの支給金額は、支給開始日以前の12カ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日(×3分の2)です。
傷病手当金の申請書は、健康保険組合等のホームページで入手できます。
なお傷病手当金を受ける権利は2年で消滅時効にかかるため、早めの手続きが重要です。

社会保険料は、従業員と使用者が2分の1ずつ負担しています。
従業員が休職して賃金が発生しない場合でも、従業員と使用者は社会保険料を負担しなければなりません。
しかし賃金から天引きすることができないので、使用者は従業員負担分の社会保険料を立て替えて、従業員に請求する必要があります。
通常は、毎月の給与支払い日に請求します。
なお、前述した傷病手当金からの控除は認められていません(傷病手当金は、報酬以外であるため)。

(5)休職中の副業の可否

休職中は療養に専念すべきであり、過去の裁判例でも会社から休職中で給与を一部支給されたまま、会社の承認を得ないでオートバイ店を経営していたことが、懲戒解雇事由となるとしたものもあります(ジャムコ立川工場事件/東京地裁八王子支平成17年3月16日)。
ただし現在は多様な副業がありますし、実際には一切許容できないとするのも無理があります。休職に悪影響を与えない副業については、専門医の意見も踏まえて判断すべきでしょう。

(6)休職期間満了が近くなったときのポイント

休職期間の満了は、通常は、就業規則上は自然退職事由または解雇事由とされています。そのため、休職期間満了が近づいたら、復職手続きとスケジュールについて案内します。
休職者が気づかないうちに休職期間が満了してしまうと、トラブルに発展するケースがありますので、注意が必要です。
復職できるという主治医の診断書が提出されたら、主治医に照会を行い、産業医などの意見も確認します。
これらの復職の可否の判断は、1カ月程度かかることもあるので、休職期間満了の2カ月前には休職期間満了が近づいていることを案内し、休職期間満了の1カ月前までには、主治医の診断書を提出するように案内をしましょう。
なお、休職期間の延長を求められることがありますが、使用者には休職期間を超えて対応する義務はありません。

まとめ

メンタルヘルス不調で従業員が休職する際には、診断書の提出頻度を明確にし、休職中も健康状態を把握するなどが必要になります。
また、ストレスチェックを定期的に実施し、高ストレス者には医師の面談を提供することで、職場環境の改善につなげることができます。休職が必要になる前に、早めにケアを行うことで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことが可能になります。

:参照記事
>うつ病で休職中の従業員の退職・解雇

>休職制度|メリットや規定しておくべきポイント