うつ病で休職中の従業員の退職・解雇

うつ病などのメンタルヘルス疾患を発症し休職した従業員の退職に関しては、企業としての対応を誤ると後々大きなトラブルに発展することがあるので注意が必要です。
トラブルを防ぐためには、あらかじめ休職規定を設けておき、従業員から退職願を提出してもらうなど、慎重な対応が求められます。

退職・解雇の基礎知識

従業員の退職・解雇とは、会社と従業員の労働契約が終了し雇用関係がなくなることです。
メンタルヘルス疾患を発症し休職した従業員の退職に関しては、どのような形で退職・解雇する場合であっても、会社だけで判断を行うのではなく専門医による診断書や産業医による判断に基づいて検討し、対応することが必要です。

(1)退職・解雇の種類

退職・解雇にはさまざまな種類、形態があります。
解雇とは、従業員の同意を必要とせず会社から一方的に労働契約を解約することをいい、退職とは解雇以外の労働契約の解除をいいます。

退職

自己都合退職 ①合意退職(依願退職)
②任意退職
 ア:従業員の一方的通告によるもの(辞職)
 イ:従業員の無断退職
その他の退職 ③定年退職
④労働契約期間の満了による自然退職(期間雇用者など)
⑤休職期間の満了による自然退職(私傷病など)
⑥労働者の行方不明・死亡

解雇

①普通解雇(ケガ、病気などで勤務ができない場合など)
②整理解雇(経営悪化による人員整理)
③懲戒解雇(服務規律違反、企業秩序違反など)
④採用内定者の内定取り消し
⑤試用期間中の者、修了者の本採用拒否
⑥使用者による有期契約労働者(期間雇用者など)の労働契約の中途解約
⑦上記⑥の者の雇止め

(2)業務災害の場合の解雇の禁止

業務災害とは、労働者が業務の遂行中にケガをしたり病気になったりすることです。
業務災害が労災として認定されるには、①業務遂行性(労働者が使用者の支配・管理下にある状況で発生した災害であること)と②業務起因性(業務を原因とする傷病であること)の2つの要素が目安となります。

たとえば、パワハラやセクハラ、過重労働によってメンタルヘルス疾患を発症し休職した場合には、①業務遂行性 と②業務起因性 の2つの要件を満たしていると、業務災害と認定される可能性があります。
この場合には、療養するために休職する期間およびその後30日間を経過するまでの間は、原則として解雇することは禁じられています(労働基準法19条1項)。

従業員から退職の申し出があった場合

休職中の従業員自ら退職の申し出があった場合には、後々のトラブルを防ぐために「退職願」「退職届」を提出してもらうようにしましょう。

メンタルヘルス疾患を発症している場合は、精神的に不安定になることも多く、突発的に退職願を提出したものの、その後退職願の撤回を主張するといった事態が起きる可能性があります。

過去には、従業員が退職願を上司に提出し、それが会社代表者に手渡され会社所定の退職届が従業員に手渡された事案で、受理後の撤回が許されないとした事例(大隈鉄工所事件・最高裁昭和62年9月18日判決)もありますが、反対に退職願の撤回を認める裁判例もありますので、慎重かつ適切な対応が求められます。

従業員から退職の申し出があった場合の、主な流れは以下のとおりです。

①従業員から退職の申し出
②退職希望日を記載した退職願を提出してもらう
③従業員の退職を承認し、退職日を決める
④退職日が確定したら、退職届を提出してもらう
⑤退職(労働契約解除)

(1)「退職願」を提出してもらう

メンタルヘルス疾患によって勤務できないことを理由に従業員から退職の申し出があった場合には、会社あてに「退職願」を提出してもらうようにしましょう。この「退職願」が提出されることで、従業員による自己都合退職であることが明確になり、後日のトラブルを防ぐことができます。

退職願の文例については、以下を参考にしてください。

(2)「退職願」と「退職届」の違い

「退職願」と「退職届」を混同して使っているケースも多くありますが、この2つは異なるものです。
「退職願」は、退職の承諾を使用者(会社など)に願い出ることを意味しますので、会社側がこれを承諾した時点で正式に退職の申し出ということになります。したがって会社側がこれを承諾する前であれば、従業員は撤回することができます。

一方「退職届」は、従業員が会社に一方的に退職を通告することを意味しますので、これが受理された時点で退職の申し出となり、会社が同意しない限り従業員は撤回することができません(ただし、従業員の錯誤等がある場合を除く)。

したがって、従業員から退職願を提出された後は、退職届の提出も求めましょう。

退職届の文例については、以下を参考にしてください。

うつ病の従業員への退職勧奨

退職勧奨とは、会社が従業員に対して自らの判断で辞職もしくは合意退職するように説得する形で働きかけることをいいます。退職勧奨を受けた従業員が実際に退職するか否かは、あくまで従業員自身の判断によります。

(1)退職勧奨のメリット

退職勧奨により従業員が退職する場合には、解雇ではないので会社は解雇予告手当を支払う義務がないというメリットがあります。

ただし従業員の立場で考えれば、退職したら賃金収入がなくなり生活に困ることが考えられます。
そこで退職勧奨に応じやすいように、何カ月分かの月給を補償したり、退職金の額を「会社都合退職」の場合より高くしたり、退職金に一定額の上積みを行ったりするなど従業員にメリットとなる提案をする会社が多いようです。

さらに、傷病手当金の説明をするのも、従業員を安心させる1つの方法です。
従業員本人が健康保険被保険者になって1年以上経過している場合には、私傷病で休職し無給であれば、傷病手当金として最長1年6カ月間標準報酬日額の3分の2相当額が支給されます。これは、傷病手当金の支給決定後に退職する場合も同様です。

(2)退職勧奨を行う時の注意点

退職を強要しない
退職勧奨自体は違法ではありませんが、その方法が総合的に見て社会通念上許容できる程度を超える場合(執拗に退職勧奨を繰り返す、大勢で取り囲む、など)には、それは退職勧奨ではなく「退職強要」となり、退職の合意は無効になったり取り消されたりします。

執拗に退職勧奨を行えば、従業員からパワハラだと訴えられる可能性があります。それが不法行為として判定された場合には、慰謝料を支払う必要があるので注意が必要です。

過去には、執拗に退職勧奨を行ったケースで、従業員から会社に対する損害賠償請求が認められた事例もあります(下関商業高校事件-最高裁小判 昭和55年7月10日判決)。

メンタルヘルス疾患を発症している従業員には、とくに慎重に対応する
メンタルヘルス疾患を発症している従業員については、健康な者に対する退職勧奨よりもさらに慎重な対応が求められます。
本人の状況に合わせて何度かに分けて話を進め、時間的な余裕を与えるように配慮します。また会社側の要望は口頭だけでなく、わかりやすく書類にまとめ、家族に相談にのってもらうなどしてじっくり考えるように勧めるなど、誠実に対応することが大切です。

会社が退職勧奨を行うことで従業員のメンタルヘルス疾患が悪化したと認められた場合には、会社は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を追及される可能性がありますので、十分に注意しましょう。

(3)「退職合意書」を提出してもらう

退職勧奨を行い、その従業員が退職の意思表示をしたら、その場で書面にして署名をしてもらうようにしましょう(退職合意書)。従業員が後々「やはり考えが変わった、退職は無効だ」と訴えられトラブルになった時には、この退職合意書の有無が大きな判断材料となります。

復職できない従業員の自然退職

従業員が休職したままでいると他の従業員に業務のしわ寄せがいき、会社は社会保険料を払い続けることになり、大きな負担となります。
そのような事態に備えてあらかじめ自然退職の規定を設けることで、休職期間満了日に復職できない従業員について自然退職とすることができます。

(1)あらかじめ休職規定を設ける

復職できずに休職期間が満了した場合には、あらかじめ就業規則(休職規定等)に根拠規定を設けておくことで、自然退職とすることができます。
この規定がない場合には、原則として休職期間満了による自然退職とすることはできませんので、必ず規定を設けておくことが必要です。

自然退職
○条 会社は、私傷病休職をしている従業員がその休職期間満了後復職できない場合には、休職期間の満了日をもって、その従業員を自然退職とする。

この時、「私傷病休職期間を30日未満として、その後、休職期間満了による自然退職とする」というような規定は、解雇予告期間(※)の規制の脱法行為であり許されませんので、注意してください。

※解雇予告期間
従業員を解雇する場合には、少なくともその30日前に当人に解雇の予告をするか、または30日分の解雇予告手当(平均賃金)を支払うことが必要です(労働基準法20条)

休職制度については、以下の記事で規定例や注意点について詳しくご紹介しておりますので、あわせてご覧ください。

休職制度|メリットや規定しておくべきポイント

(2)「治癒していないこと」を確認した場合は

私傷病休職期間の満了日が近づいてくると、自然退職にならないようにするため「治癒した」として、復職を求めてくる従業員がいます。
ここでいう「治癒」とは、「休職前の業務を通常の程度に行ない得る状態に回復したこと」(浦和地判昭40年12月16日)をいいますが、「業務を一時軽減すれば回復の可能性がある」場合や「他の軽易な業務への配転可能性がある」場合には、業務の軽減や他業務への配転を行って復職させる義務があるとしています(東京地判昭59年1月27日)。

企業の人事担当者は主治医からの診断書で復職可能の内容を確認しても、休職前の業務を通常の程度に行えないと判断したら、休職者同意のもと必要に応じて主治医と面談したり産業医と相談したりして復職可能かどうかを再検討します。その結果、復職不可と判断した場合には、私傷病休職者に対し復職可能な状態ではないことを説明して納得してもらうことが必要となります。

過去には労働者が治癒したとして復職を請求したのに退職扱いにした事案で、使用者は当該労働者が復職することを容認しない事由を立証する必要があるとした判例(東京地判昭59年1月27日)もありますので、十分な説明とていねいな対応が求められます。

(3)従業員の自然退職

体調不良で休職していた従業員が、復帰後に再度休職となるケースがあります。
このようなケースで、無期限の休職ができるとすると、会社の労務管理上不都合が生じるので、就業規則に前後の休職期間を通算して、所定の休職期間が満了となった場合、自然退職とする旨を規定しておくとよいでしょう。

しかし、休職と復職を繰り返しているケースでは、まず休職を繰り返す原因を把握し対処することが大切です。主治医だけでなく、会社が契約している産業医を交えて検討するようにしましょう。

まとめ

うつ病などのメンタルヘルス疾患を発症し休職していた従業員から、退職の申し出があった場合には退職願・退職届を速やかに提出してもらうことが重要です。
従業員からの申し出がある前に、退職勧奨を行う場合には、退職強要とならないよう注意し、退職を受け入れた場合には退職合意書を提出してもらいます。
休職期間が満了した従業員に、トラブルなく退職してもらうためには、あらかじめ休職規定を設け周知しておくことが必要です。
いずれの場合も、従業員に時間をかけてていねいに説明して、十分に納得してもらうことが後々のトラブルを防ぐために必要不可欠となります。

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