ワークエンゲイジメントとは、仕事の内容や従業員同士の関り合いで、個々が貢献意欲を持って、主体的に仕事に取り組んでいる心理状態をあらわします。
ワークエンゲイジメントは、アップルやグーグル、ディズニーなどの世界の成長企業が注目し、人材マネジメントに積極的に導入している概念です。
ワークエンゲイジメントの向上は、離職率の低減、労働生産性の向上、仕事に対する自発性、顧客満足度、健康増進などにつながる可能性が指摘されています。
目次
ワークエンゲイジメントとは
ワークエンゲイジメントは、オランダ・ユトレヒト大学の教授らに提唱された概念で、
①仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)
②仕事に誇りとやりがいをかんじている(熱意)
③仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)
の3つが揃った状態であると定義されます。
ワークエンゲイジメントは、よく「モチベーション」や「従業員満足度」と混同されがちですが、モチベーションは「行動を起こすための動機づけであり、個人が感じるもの」、従業員満足度は「社内の人間関係、働きがい、職場環境や福利厚生、給与などへの満足度」です。
一方、ワークエンゲイジメントは「個々が主体的・意欲的に仕事に取り組んでいる持続的な状態である」という点で異なります。
ワークエンゲイジメントが高いとどうなる?
ワークエンゲイジメントは健康や仕事・組織に対する態度、労働生産性の向上などとの関連についての研究が進められています。
ワークエンゲイジメントの高い人は健康で睡眠の質が高く、職務満足感や組織への愛着が強いこと、そして役割行動を積極的に行い、部下に適切なリーダーシップを発揮することなどが分かっています。
またワークエンゲイジメントの向上により、離職率の低下や労働生産性を向上させる可能性があるという調査も存在します。
以下は、「労働政策研究・研修機構「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」(2019年)」に基づいた調査結果です。
ワークエンゲイジメントスコアが高い職場は、従業員の定着率が高く(離職率が低く)、人手不足といわれる産業分野においても離職率が低下している企業が多いことが分かっています。 |
また、同調査からは、ワークエンゲイジメントを向上させることが、労働者個人の労働生産性の向上につながる可能性が示唆されています。 |
ワークエンゲイジメントを高めるには
ワークエンゲイジメントを高めることで、個々の健康や職務満足感、組織への愛着などが高まり、労働生産性が向上するといった効果を得られる可能性があります。
それでは、ワークエンゲイジメントを高めるためには、具体的にどのような施策を講じればよいのでしょうか。
(1)経営者が理解を深める
まずは経営者が「ワークエンゲイジメントの向上は、自社で取り組むべき課題である」と認識し、理解を深めることが大切です。そして施策の理念と目標を明確にしましょう。
理念と目標については、従業員個人の健康、組織の生産性の向上などとするのが一般的ですが、企業理念や社内で重視されている価値観を盛り込み慎重に検討したいところです。
そのうえで、経営者、管理監督者、労働者がそれぞれ主体的に取り組むべき課題であり、向上のための支援を行うという方針を示しましょう。
経営者の理解を得るのが難しいという声も聞きますが、その場合には世界の成長企業が自社の経営指標として従業員のエンゲイジメントを重視し取り組みを行っている例を、参考例として示すとよいでしょう。
たとえばGoogleでは、勤務時間の20%を自分が熱中できるプロジェクトに自由に充てられる制度を導入したり、経営陣に自由に質問できる全社会議を導入したりしています。また、メンバー同士の対話を重視し、マネージャーがほぼ毎週社員と1on1ミーティングを実施することで、ワークエンゲイジメントの向上に取り組んでいます。
リクナビNEXTジャーナル「グーグル社員の「働く満足度」は、なぜこれほど高いのか?――「元気な外資系企業」シリーズ〜第6回 グーグル」
また、ディズニーでは、管理監督者に対して従業員の感情を主体的に把握するアクティブ・リスニング(積極的傾聴)というコミュニケーションスキルを、ワークエンゲイジメントを高める取り組みとして日常的に取り入れるよう求めています。
これらのデータを示してもなお経営陣の理解を得るのが難しい場合には、まずは組織の方針として打ち出すことを検討してみましょう。施策の効果が得られれば徐々に参画が増え、結果的に全体としての取り組みにつながる可能性もあります。
(2)オフィス環境を整える
オフィス環境とワークエンゲイジメントの関係性については、さまざまな研究が行われている最中です。例えば開放的で建設的な意見を言い合えるチームは、ワークエンゲイジメントが高まることを明らかにした研究があります。
開放的なオフィスでは同僚や上司とのコミュニケーションを深めやすくなり、チームの雰囲気がよくなることが期待できます。
ただし、開放的なオフィスのデメリットを指摘した研究もあります。
シドニー大学の調査では、音のプライバシーを保てない大部屋型のオフィスについては、半数以上の労働者が不満を感じ、1人または少人数の個室があるクローズド型のオフィスについては、2割程度の労働者が不満を感じたという結果が出ています。
したがって、集中したい時には集中でできるプライバシーを保たれた空間があり、そのうえでチーム内のコミュニケーションを促すようなデザイン性のあるオフィス環境が求められているといえるでしょう。
(3)情報提供・セミナーの実施
ワークエンゲイジメントに関する情報提供やセミナーの実施も、積極的に行っていきたいところです。
ここで参考になるのが、英国安全衛生庁が開発した管理職の能力に関するリスト(HSE ストレスマネジメントコンピテンシー)です。
このリストは、「誠実さ」「感情のコントロール」「配慮ができる」などの項目に分類されていて、コンピテンシーの点数が上がると部署レベルの仕事をすることに関わる資源が上昇することや、上司の誠実さに関する点数が上がると部下のワークエンゲイジメントが上がる可能性があることが分かりました。
管理職向けの研修のなかでは、このコンピテンシーリストを管理監督者にセルフチェックシートとして活用し、自身のマネジメントを振り返ってもらうことが有効です。
コンピテンシーリスト コンピテンシーリストは、下記東京大学大学院医学系研究科のホームページからダウンロードすることができます。 |
(4)ワークショップの実施
ワークエンゲイジメントを高めるワークショップとして知られているものの1つに「アプレシエィティブ・インクワイアリー(AI)」があります。
AIは、1980年代にアメリカで誕生した組織開発手法のひとつで、従業員や会社の長所を引き出し、それを伸ばして成果をあげるという手法です。この手法は、組織の課題を解決するためには、人を伸ばすためには短所を指摘するより長所を見つけて延ばす方が成果は上がるという考え方に基づいています。
たとえば、雨が降っているという事実に対し、「今日は天気が悪い」ということもできますが、これを「恵みの雨」と表現することも可能なはずです。このように、ひとつの事実を別の見方をする過程を設けその過程を通じて、個々がそれまで気づかなかった組織の潜在的な可能性を発見し自信や信頼感、希望を持てるようになり、自律的・積極的に組織の改善に取り組むことが期待できるのです。
甲南大学経営学部・「経営学の視点からの職場環境改善の進め方 」
(5)ストレスチェックの集団分析を活用する
平成27年(2015年)に50人以上の事業場に義務づけられた制度であるストレスチェックは、実施するだけでなく集団分析結果に基づいた職場環境改善につなげることで、従業員のストレス度の改善や職場の生産性向上などの効果が得られるという研究結果が出ています。
平成27年度労働安全衛生総合研究事業・「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境の改善効果に関する研究」
このストレスチェックの結果のフォロー方策は、ワークエンゲイジメントを高める取り組みとして活用することができます。
たとえば、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「仕事に誇りを感じる」といったワークエンゲイジメントに関連する項目に着目し、具体的にどのようなことを行うとこの項目が向上するのか、そのなかで実際にできそうな改善方法は何かについて、部署やグループで話し合ってみます。
また、特に伸ばしたい強みに関する項目を決定し、その強みをさらに伸ばすとどうなるか、延ばすためにはどうするべきかを話し合い、理想の職場を実現するための具体的な活動について計画を立て実施していきます。
ストレスチェッカーでは、ストレスチェックの集団分析や集団分析へのコンサルティング、集団分析のカスタマイズなども行っており、ワークエンゲイジメントを高める研修に取り入れていただくことができます。
まとめ
以上、ワークエンゲイジメントの意味やワークエンゲイジメントを高めるポイントなどについてご紹介しました。
アメリカのギャラップ社の調査によれば、世界各国の企業を対象にした従業員のエンゲイジメント調査では、日本は「熱意あふれる従業員」の割合が6%しかおらず、これは調査対象となった139か国の中で132位でした(アメリカは32%)。
同様の結果を示すのは、上記ギャラップ社調査だけではありません。日本企業の従業員のワークエンゲイジメントの低さは、さまざまな調査で指摘されています。
これまでご紹介したように、人がいきいきと働くことができれば、結果的に健康の増進と労働生産性の向上を同時に実現することが期待できるのであり、そのカギのひとつが「ワークエンゲイジメントの向上」にあるならば、企業は積極的にワークエンゲイジメントを高める施策を講じることが求められるといえるでしょう。
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