モンスター社員(問題社員)の課題は、従来から企業の経営者、管理職の頭を悩ませてきました。「無断欠勤を繰り返す」「パワハラをする」「反抗的である」「SNSで、会社の誹謗中傷を繰り返す」…このようなモンスター社員(問題社社員)については、最終的には解雇を検討せざるを得ないケースが多いものです。しかし、後々不当解雇と判断されないためには、おさえておくべきポイントがあります。
目次
モンスター社員(問題社員)とは
モンスター社員(問題社員)(以下モンスター社員)とは、その文字のとおり「問題のある社員」のことです。たとえば、能力が不足している社員、勤務態度が不良である社員、健康に不安がある社員、私生活が不安定である社員、服務規程違反を繰り返すといった社員が、モンスター社員と呼ばれることがあります。
なお、ここでいう社員について、通常は正規雇用の社員を指すものとします。
正規雇用の社員の解雇は、非正規雇用の社員と比較すると厳格に規定されていて、解雇する際に客観的合理性および社会的相当性を備えているかについて厳しく判断されるからです。
もちろん、非正規雇用の社員についても雇止めが適用されるケースもありますが、通常は契約期間が満了となれば契約が終了するのが原則です。正規雇用社員に対する雇用保障と同レベルとまでは言えないため、後々の労働トラブルに発展するリスクについては大きな差があります。
(1)モンスター社員(問題社員)の類型
モンスター社員(問題社員)にはさまざまなケースがありますが、過去の裁判例を参照すると、大きく以下の5つに区分することができます。
①能力不足である者 「通常の業務すら、こなせない」「重大なミスを繰り返す」といった能力不足を理由とした解雇は、主張・立証が難しく会社の教育不足が指摘されやすいので、注意が必要です。 ②勤務態度が不良である者 ③健康に不安がある者 ④私生活が不安定である者 ⑤服務規律違反・企業秩序違反がある者 |
(2)モンスター社員(問題社員)のリスク
使用者(会社など)と労働者は、労働契約を締結しています。
そして労働者は労務提供義務を負い、使用者はそれに対して賃金支払義務を負っています。したがって、労働者が契約内容に従っていなければ、それは債務不履行ということになります。
モンスター社員に対して取り得る対応としては、注意指導、普通解雇、懲戒処分、懲戒解雇などさまざまな方法が考えられますが、それらの対応次第で後々「不当解雇だ」と訴えられるなど、トラブルに発展するリスクがあります。
また、モンスター社員は個人レベルの問題だけでなく、周りの社員にも影響を与え、いずれ組織全体にも影響を与えてしまいます。「たかが一人の社員の問題である」と放置してしまうと、それが結果的に組織に大きな影響を与え、優秀な人材の離職や離脱といった結果につながることもあります。
さらに、モンスター社員自身に原因があるのではなく、周りの上司、同僚、組織のあり方に本当の原因があるケースも考えられますので、何が起きているのか、どうしてそのような状況になっているのかといった事実確認は慎重に行うことが求められます。
モンスター社員(問題社員)への対応
モンスター社員への適切な対応を誤ったため、後々重大な法的トラブルに発展したり、モンスター社員がSNS等を利用した風評被害などのトラブルにも発展したりして、会社の存続が危うくなるケースもあります。
したがって、モンスター社員については、これからの対応次第で、どのようなリスクがあるのかを慎重に見積りながら対応することが重要です。
(1)能力不足である場合
独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った調査では、従業員に解雇を実施した企業のうち28%が、「仕事に必要な能力の欠如」を解雇理由として挙げています。
能力不足を理由とする解雇は、従業員との裁判トラブルに発展するリスクが大きく、慎重な対応が求められます。
能力不足の判断は、主張も立証も難しいため、過去の裁判では、その社員のミスが本人のものと立証できるか、能力不足は会社の教育不足が原因ではないのかと言ったポイントがチェックされ、結論として普通解雇が無効と判断されたケースがあります。
たとえば、セガ・エンタープライズ事件(東京地方裁判所決定 平成11年10月15日)では、会社が社員を解雇した理由として「当該社員には、業務を担当するために必要な英語力が不足していた」「取引先からの苦情が多かった」などを主張しましたが、裁判所では「十分な教育・指導が行われていれば、能力向上の余地合あった」とし、不当解雇と判断されました。
> 労働事件 裁判例集「事件名セガ・エンタープライゼス解雇」
また、松筒自動車学校事件(大阪地方裁判所判決 平成7年4月28日)では、レジ担当の女性事務員を解雇した理由として、「レジの記録と現金の実際の額との食い違いが、半年間で53回も発生した」ことを主張しましたが、裁判においてはすべての食い違いを女性事務員のミスということを立証できず、「証拠において、この女性事務員のミスと認定できるのは、53回のうち6回に過ぎない」とされ、不当解雇と判断されました。
> 公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「松筒自動車学校事件」
したがって、人事考課制度等で適切に能力評価を行っていくとともに、適切な教育・指導を行ったのか、その社員以外の社員がミスに関与している可能性がないか、ミスについて本人の言い分を聞いたか、など、きちんと立証できるよう準備しておくことが大切です。
なお新卒採用者については、即戦力として期待されていないため、能力不足=債務不履行とはならず、普通解雇は難しいことには留意が必要です。
(2)勤務態度が不良の場合
「協調性がない」「無断欠勤を繰り返す」といった勤務態度の不良も、重大な普通解雇事由になります。
単なるサボりや詐病によって頻繁に無断欠勤を繰り返す社員については、まず改善を促し、それでも改善されないような場合には、客観的合理性と社会的相当性があるとして普通解雇が認められる可能性は十分にあります。
しかし実は、たとえ無断欠勤を繰り返すこと理由として従業員を解雇したケースでさえも、会社が不当解雇であると訴えられて敗訴するケースも少なくありません。
過去の裁判から見ると、2週間以上無断欠勤が続くと、無断欠勤による解雇が、裁判所で正当と判断される可能性が高くなります(開隆堂出版事件 東京地方裁判所判決 平成12年10月27日)。ただし、6日程度の無断欠勤で解雇したケースでは、ほとんどが不当解雇と判断されます。
なお、社内のハラスメントやいじめが無断欠勤の原因になっていたり会社の命令に対する反発や対立的な感情が原因で無断欠勤となってたりする場合には、2週間以上無断欠勤が続いても、解雇が認められないケースもあります。
また、うつ病などの精神疾患が原因で連絡ができない状態になっていることも考えられます。その場合には、医師の診断書を提出することを本人に促すなどの対応が必要です。
そのうえで、なお無断欠勤が続くような場合には、懲戒解雇を検討することになります。
日本ヒューレット・パッカード事件(平成23年1月26日東京高等裁判所判決)では、裁判所では、社員に精神疾患の兆候が出ていたことに着目し、社員の無断欠勤を理由とした解雇について不当解雇と判断し、会社は約1,600万円の支払いを命じられました。
> 公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「日本ヒューレット・パッカード事件」
したがって、まずその問題を社内で解決することができないか、本人が出勤できる環境に整備することができないかについて十分に検討し、そのうえで退職届の取り付けを行い、そのうえで解雇通知を行うなど適切に手続きを進めることが大切です。
(3)健康に問題がある場合
社員がうつ病などの精神疾患で勤務ができない場合には、いきなり解雇をすることは許されず、まずは休職して治療をさせることが必要です。就業規則には、休職を認める期間について規定をしておき、まずはその期間を休職させ、その期間を経過しても業務に復帰できない場合は、解雇について検討します。
なお、精神疾患が疑われる場合に、社員に受診を勧めても社員が拒否をする場合があります。「会社が社員に受診を命じることができるか」については、過去の裁判において「就業規則に受診命令権等の規定がなくても、信義則ないし公平の観点に照らして、合理的かつ相当な理由のある措置として、指定医の受診を命ずることができる」と判断しています(京セラ事件 東京高裁 昭和61年11月13日判決)。
また、精神疾患の原因が、長時間労働やハラスメントなど、業務上のストレスによるケースや、主治医が復職について可能であると判断しているケースでは、原則として従業員が復職できるまで待つことになります。
ただし、治療開始後3年を経過しても、病気が治らない場合は、会社から平均賃金の1200日分を打切補償として支払うことを条件に、解雇が認められています(労働基準法第81条)。
なお、社員が「業務上のストレスで体調を崩し、慰謝料を支払うべきだ」と要求してくることがありますが、この場合に会社が業務災害か否かについて判断するのは困難です。したがって、会社としては、あくまで私傷病として対応し、欠勤、休職、治癒しなければ退職するよう対応をせざるを得ないわけですが、会社は労働基準監督署に判断をゆだね、文書を作成して申請書と併せて提出しておく方がよいでしょう。そして、労働基準監督署が、後日業務災害であると判断した場合には、会社はさかのぼって私傷病から業務災害に取り扱いを変更するようにします。
(4)私生活が不安定である者
私生活上の非行は、原則として不問に付します。たとえ「社員が痴漢で逮捕された」「違法薬物を使用した」といったケースにおいても、不問に付すのが原則です。
社会一般の感覚だと、痴漢で逮捕されたり違法薬物の使用で逮捕されたりすれば、当然に解雇だと考えられると思いますが、法律上は、使用者と労働者は労働契約でつながっていて、私生活は本来自由であり、原則として不問に付します。
ただし例外的に、私生活上の非行であっても企業の社会的評価の毀損をもたらしたり、事業活動に直接関連して企業の利益を害したりして、それが企業の労務提供に支障をもたらすような場合は、企業秩序違反として懲戒対象となります。
過去の事案では、貨物自動車運送業者の運転手が酒帯び運転で行政処分に処せられた事案において、「企業の円滑な運営に支障をきたすおそれが強く、その評価の低下毀損につながるおそれがある」とし「職場外でされたものであっても、規制の対象とすることは許される」として、懲戒解雇が有効とされた裁判例があります(ヤマト運輸懲戒解雇事件 東京地裁判決 平成19年8月27日)。
(5)服務規律違反・企業秩序違反がある者
服務規律とは、セクハラ・パワハラの禁止、副業(兼業)の可否、会社に対する誹謗・中傷の禁止など、企業秩序とは、身だしなみに関する規制などをいいます。
職場のパワハラやセクハラなどのハラスメント(嫌がらせ)は、人権に関わる許されない行為であるとともに、企業にとっても経営上の損失につながりかねない行為です。
しかし、ハラスメントに該当する行為であるかの事実認定は、非常に難しいものですし、パワハラに関していえば、パワハラを理由に解雇できるのは、原則としてどのように指導してもパワハラを繰り返す場合です。たとえ、パワハラが原因で多数の部下が退職している、被害者が精神科を受診しているという場合でも、その事情だけに着目して解雇すると不当解雇となる可能性があります。
実際、ハラスメントを理由に社員を解雇したケースでも、後日裁判で不当解雇と判断され、会社側が敗訴しているケースもあります。
また、昨今増えているのがSNSで会社批判や上司への誹謗中傷を繰り返す社員です。SNSは原則として私生活上の行為であることが多いことから、会社は企業秩序違反行為として懲戒処分をすることはできませんが、会社批判や誹謗中傷は、会社の名誉や信用を侵害する場合には、懲戒処分の対象となります。
またいわゆる兼業については、昨今の働き方改革の促進もあり懲戒処分の対象とはなりませんが、競合企業で就労したりする場合には、例外的に懲戒処分の対象となることがあります。
労働者の身だしなみについて一律に制限・禁止する命令は無効ですが、当たり前の命令に対して労働者が従わない場合には、懲戒処分を検討せざるを得ないケースもあります。
まとめ
モンスター社員の存在は、周囲の社員にも大きな影響を及ぼすリスクがあります。なかには体調不良による遅刻、欠勤が発生したりメンタルダウンや離職を引き起こしたりするケースもあります。
モンスター社員を指導によって改善できれば一番いいのですが、それは簡単にできることではなく取り組みに時間を要することもあります。また、そもそもモンスター社員の存在に気づくことさえ難しい場合もあります。
具体的な施策としては、管理職による現場観察、心身健康を確認するためのストレスチェックの実施、産業医面談の実施などを通して、モンスター社員の存在や周辺社員への影響を早期に把握することが大切です。
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