コロナ禍で緊急避難的に導入されたテレワーク。
今後もこれまでのようにオフィスに出勤する働き方から、テレワークに代表される「新しい働き方」にシフトしていくことが予想されます。
しかし本格的にテレワークを導入するとなると、労務管理やセキュリティ対策、メンタルヘルスケアなど検討しなければならない事項が多岐にわたります。
この記事では、テレワークの導入で最低限おさえておきたい8つのポイントについてご紹介します。
目次
テレワークとは
テレワークとは、「テレ(Tele)=離れたところで」と「ワーク(Work)=働く」をあわせた造語で、時間や場所にしばられない柔軟な働き方のことをいいます。
単に自宅で仕事をする他にも、サテライトオフィスを利用するパターン、カフェや移動中の電車の中で仕事をするモバイル勤務と呼ばれる働き方などもあります。
(1)テレワークのメリット
テレワークを推進すると、企業は通勤手当を削減することができますし、オフィススペースを縮小化することで固定費を削減することが可能となります。
さらにいえば、テレワークを前提にペーパーレス化を進めれば、印刷コストの削減にもつながります。
総務省の調査データによれば、テレワークは従業員からもおおむね好評で、その理由としてよく聞かれるのが「オフィスへの通勤が不要になることで、通勤にかかっていた時間を有効活用できるようになった」という声です。今後テレワークがさらに定着すれば、育児や介護などを理由とする離職率が低下することも期待できるでしょう。
(2)テレワークのデメリット
テレワークは、コロナ禍で緊急避難的に導入した企業が多いことから、まだまだ多くの課題があります。
労働時間や仕事の進捗の管理体制を整備しなければなりませんし、情報セキュリティ面の対策も必要です。
また、「仕事とプライベートの切り分けが難しい」「長時間労働になりやすい」「コミュニケーションがとりづらくなる」などの課題も指摘されています。
テレワーク導入6つのポイント
企業からは「労務時間の管理が煩雑だ」「コミュニケーションがとりづらい」、従業員からは「プライベートとの切り分けが難しい」など、さまざまな課題が指摘されるテレワークではありますが、現代のICTを駆使すればこれらの課題はほとんど解決できるのではないでしょうか。
そしてこれらの課題を解決することができれば、テレワークはコスト面でもメリットのある制度ですから、「どうしてもテレワークに向かない」という職種でない以上は、ぜひ導入を検討したいところです。
そこで、テレワーク導入にあたり最低限、知っておきたい8つのポイントについてご紹介します。
(1)テレワークの推進チームをつくる
まずは、テレワークを推進するチームを整備します。
テレワークのメリットや課題をチームで検討し、テレワークの対象者や対象業務などを盛り込んだ基本方針を策定して従業員に周知します。
すべての従業員を対象とするのか、希望する者だけを対象とするのか、在宅勤務とするのかサテライトオフィス勤務とするのか、常時テレワークとするのか、非常時だけ実施するのかなどを細かくルール化していきます。
そして、チーム内で必要なICTツールの導入や情報セキュリティのルールを策定し、労務管理方法について検討していきます。必要に応じて研修や教育を実施するのもよいでしょう。
(2)情報セキュリティ対策は必須!
テレワークでは、情報セキュリティ対策は必須です。
情報資産を社内のファイルサーバなどで管理する場合、電子データを保存するフォルダにアクセス制限やハードディスクの暗号化などは最低限実施し、PCには常に最新のウィルス対策ソフトを入れておくようにしましょう。
モバイル勤務の場合には、ウィルス感染や盗聴の危険性のある公衆Wi-Fiは使用しないようにして、通信キャリアが提供するモバイルルータを使用するといったルールも徹底しましょう。
さらに、PCのモニター画面ののぞき見防止フィルターの装着、電話をする場合には外部に声が漏れない場所で行うなど、物理的なセキュリティ対策もしっかり指導することも大切です。
(3)労働時間の管理方法を決める
テレワーク導入でよく課題としてあげられるのが、労働時間の管理です。
厚生労働省の「テレワーク モデル就業規則」では、Eメールや電話による報告、勤怠管理ツールの活用などが推奨されています。
最も多く利用されているのはEメールで、使い慣れている方も多く、勤怠管理と同時に業務報告ができ、記録を共有できるなどのメリットがあります。
いずれの方法で管理するにせよ、客観的な記録に基づいて確認できる方法で自社の事情に合った方法を選択するようにしましょう。
(4)テレワークの労働時間制度を決める
労働基準法では、原則として「労働者に休憩時間を除いて1日につき8時間、1週間につき40時間を超えて、労働させてはならない」と規定されています。ただし一定の要件を満たして必要な手続きを行えば、変形労働時間制や事業場外みなし労働時間制、などの労働時間制度を適用することもできます。
変形労働時間制 業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的とした制度。 フレックスタイム制 事業所外みなし労働時間制 裁量労働制 |
これらの変形的な労働時間制度のうち、テレワークと親和性が高いのは、働く場所や時間帯に柔軟に対応することができるフレックスタイム制と事業場外みなし労働時間制です。
現在、通常の労働時間制度を適用している事業場でも、テレワーク導入を機にフレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
(5)就業規則を見直す
これまでと異なる労働時間制度を採用せず、従来のオフィス勤務の時と同じ労働時間制度である場合でも、従業員に通信費用を負担させるなどテレワーク勤務特有のコストが発生する場合には、就業規則の変更が必要となります。
費用の負担 規定例 第〇条 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。 2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。 3 業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。 4 その他の費用については在宅勤務者の負担とする。 |
下記の厚生労働省の「テレワーク モデル就業規則」で、テレワーク勤務規定のモデル事例等が紹介されていますので、参考にしてみてください。
(6)テレワークのメンタルヘルスケア
テレワークの課題や悩みとしてあげられるのが「仕事とプライベートの切り分けが難しい」「つい長時間労働になってしまう」「孤独を感じる」といった生活やメンタルに関わるものです。
このような悩みを解決できずにメンタルヘルス不調となってしまっても、テレワークでは上司が気づきづらいため、対応が遅れてしまうケースもあります。
特に自宅でのテレワークは、オンとオフの切り替えが難しいので、終業時間を徹底するなど、長時間労働にならない工夫が必要です。またテレワークが孤独なものにならないよう、コミュニケーションの方法やツールも整備しておくことが望ましいです。
また50人以上の事業場に年1回以上の実施が義務づけられているストレスチェックの回数を増やしたり、オンラインランチ会等を定期的に開催したりして、不調に気づきやすい体制をつくることも大切です。
(7)テレワークを取りやめる時の方法
コロナ禍では「3密を避けるため」という目的が明確であったことから、テレワーク導入に不満を唱えなかった人でも、本格的なテレワーク運用が開始されると「ずっと自宅で仕事するのはキツイ」といった声が出ることは予想できますし、出勤が必要な人からは「テレワークの対象者は本当に仕事しているのか」や「電話応対で会社にいる人に負担が偏る」などの不満が出る予想されます。
このような問題に配慮した結果、テレワークを取りやめるとなれば、今度はテレワークのメリットを感じている従業員から「テレワークを続けたい」という声が寄せられるでしょう。
もしもこうした状況になった時には、再度テレワークを導入する意義を見直して、従業員に納得してもらえるよう丁寧に説明することが大切です。
テレワーク導入後の労働生産性、従業員のモチベーションの状態、事業継続が可能であることなどを数字で示して説明します。そのうえで従業員が働きやすい仕組みづくりを検討し、不公平感や不満の解消につなげる努力が必要となります。
(8)テレワークとダイバーシティ
テレワークの導入によって、朝会社に出社して夜帰宅するという働き方から、さまざまな働き方が選択できるようになりました。
仕事と育児や介護の両立が難しく退職せざるを得なかった従業員もテレワークという選択肢があれば、離職率を改善できる可能性もあります。
とくに介護離職は、高齢社会である日本全体の課題です。
法律でも介護休業制度、介護休暇制度などがありますが、それらを利用しやすい環境づくりにテレワークが加われば、仕事と介護の両立がより可能になります。
まとめ
テレワークのメリットやデメリット、導入する際に知っておきたいポイントについてご紹介しました。
テレワークは多くのメリットがありますが、労働時間の管理方法や制度の見直しが必要になる場合もありますし、セキュリティ対策を徹底するなどの施策も必要です。
また人は環境の変化によって少なからずストレスを感じるものですから、慣れないテレワークに戸惑いを感じる人もいるでしょうし、24時間家族といることにストレスを感じる人もいるでしょう。
したがってテレワークを導入する時には、労務管理やセキュリティ対策だけでなくメンタルヘルスケアがますます大切になっていくことは間違いありません。
従業員がテレワークでも安心して働くことができる仕組みの構築は、企業にとって急務といえます。
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【監修】 公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ) 大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。 |