
ストレスチェックとは、社員のストレス状態を定期的に把握するための制度で、平成27年(2015年)12月1日に施行されました。スタート時は「常時50人以上の労働者がいる事業場」で実施が義務づけられていますが、労働安全衛生法の改正により、50名未満の事業場にも対象が拡大される見通しです。
ストレスチェックは「不利益取扱いの禁止」が非常に重要なポイントです。たとえば、ストレスチェックを受けなかったことを理由に評価を下げる、異動させる、昇進を制限する、といった行為は禁止されています。同様に、面接指導の申出をした社員、または申出をしなかった社員に対し、不利な扱いをすることも禁じられています。
さらに、明記されていなくても、ストレスチェック結果を理由に本人や上司に責任追及をするような運用は避けるべきです。たとえば、管理職に対し「部下の高ストレス者が多い=マネジメント能力不足」と評価するのは不適切です。制度の目的は評価や序列づけではなく、職場環境の改善と社員の健康保持にあるため、企業側は安心して受検できる体制づくりと、守秘義務を徹底した運用が求められます。
監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
目次
ストレスチェックにおける不利益取扱いの禁止
ストレスチェック制度では、受検する社員が安心して制度を利用できるよう、受検者の保護が強く求められていて、「不利益取扱いの禁止」では、ストレスチェックを受けなかったことや、結果として高ストレスと判定されたこと、また医師による面接指導が必要と判断されたにもかかわらず本人が申出をしなかったこと――こうした理由をもって、配置転換、人事評価の引き下げ、昇進停止などの不利益な扱いをすることは、制度上明確に禁止されています。
ストレスチェック制度は社員を評価する仕組みではなく、働く人の健康と職場環境改善を目的とした仕組みである、という認識を組織全体で共有することが重要です。
(1)受検しないことを理由とした不利益取扱いの禁止
事業者は、ストレスチェックを受けない社員に対し、その理由だけで不利益な扱いをすることが法律で禁止されています。
たとえば、就業規則でストレスチェックの受検を義務化したり、受検しない社員に懲戒処分・評価減点・昇進停止などを行うことは認められていません。
また、ストレスチェックの結果を事業者へ提供することについて、本人が同意しなかった場合でも、「協力的ではない」「管理職に不向き」と判断するなど、不利益取扱いにつながる対応もNGです。
ストレスチェックはあくまで社員の健康保持を目的とした仕組みであり、結果を人事評価や管理判断に直接結びつけてしまうと制度そのものへの不信感にもつながります。
(2)面接指導の申出をしないことを理由とした不利益取扱いの禁止
ストレスチェックの結果、医師による面接指導が必要と判断された社員については、実施者が面接指導の申出を促すことになっています。ただし、社員がその申し出をしなかった場合に、「協力姿勢が足りない」「評価を下げる」といった不利益な扱いをすることは認められていません。
また逆に、社員が面接指導を申請した場合でも、その行動を理由として配置転換や昇給停止、昇進見送りなどの不利益措置をとることも禁止されています。
(3)面接指導の結果を理由とした不利益取扱いの禁止
面接指導が必要とされた労働者が希望した場合には、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。
医師による面接指導や指導結果に基づく必要な措置について、医師の意見を聴取せずに、就業上の措置について不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
禁止されている「面接指導の結果を理由とした不利益取扱い」としては、以下のようなものがあります。
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・解雇すること ・期間を定めて雇用される者について、契約更新をしないこと ・不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換、または職位の変更を命じること ・退職勧奨を行うこと ・その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること |
(4)面接指導を経ずに就業上の措置を講じることもNG
医師による面接指導が実施された後は、事業者は面接指導を実施した医師から、就業上の措置に関する意見を聴取します。そして、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換など適切な措置を講じます。
事業者が面接指導の結果を踏まえて就業上の措置を講じる場合は、面接指導を実施した医師の意見を勘案し、労働者の実情も考慮した必要な措置を講じる必要があります。
講じる措置のなかには、労働者にとって不利益となりうるものの、必要性の高さなどから合理的な取扱いとなる場合もありますが、基本的には面接指導を経ずに以下のような就業上の措置を講じることは禁止されています。
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・労働者本人の同意によって、事業者に提供された個人のストレスチェックをもとに、医師の面接指導を行わずに事業者が配置転換、職位の変更などの就業上の措置を講じること
・労働者個人のストレスチェックの結果をもとに、保健師、看護師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、臨床心理士などによる相談対応を行った場合には、その結果をもとに医師の面接指導を行わずに、事業者が配置転換職位の変更などの就業上の措置を講じること |
(5)ストレスチェックの集団分析結果の取扱いも注意が必要
これまでご紹介したように、労働者個人のストレスチェックの受検の有無や結果を理由として不利益な取扱いをすることは、全面的に禁止されています。
同様にストレスチェックの集団分析についても、不利益な取扱いの問題は起こらないよう注意が必要です。
たとえば、集団分析の結果について、管理職のマネジメント能力不足と判定して、その管理職に対して不利益な取扱いを行ったり、ワークエンゲイジメントの低い部署について「愛社精神が低い」として、部署全体の人事評価を下げたりすることも、やはりストレスチェック制度の趣旨に反すると考えられます。
集団分析は職場改善のために行うものであり、管理職のマネジメント能力や愛社精神のスクリーニングを目的としたものではありません。したがって、受検結果を用いて罰するようなことは、行うべきではないでしょう。
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ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
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まとめ
ストレスチェックの主な目的は、うつ病等のメンタルヘルス疾患のスクリーニングではなく、一次予防にありますが、それでもなお「ストレスチェックの結果によって、うつ病と診断されてしまうのではないか」といった不安をもつ労働者が見受けられます。
このような不安は労働者にストレスチェックの本来の目的や不利益扱いの禁止について適切に周知することで払拭できるかもしれません。また自身のストレスへの気づきを深めるためにも、1人でも多くの労働者にストレスチェックを受検してもらうことが大切です。
事業者はストレスチェックの結果をもとに、合理的な理由なく不利益な取扱いをすることがないという点について、労働者に周知すると同時に遵守することが強く求められています。
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監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

