
ストレスチェック制度は、労働者のプライバシーを守るために、個人情報保護を極めて厳格に取り扱っています。
ストレスチェックの結果は、労働者本人の明確な同意がない限り、実施者から事業者へ提供することは法律で禁止されています。
また、個人が特定されない形式で行われる「集団分析」の結果であっても、事業場内での共有範囲は必要最小限にとどめることが求められています。
こうしたルールは、安心して受検できる環境を整え、制度の信頼性を高めるための重要な仕組みです。
なお、2028年度までに、ストレスチェック制度の実施義務は、すべての事業場を対象に拡大される予定です。
この記事では、ストレスチェック制度における個人情報保護の基本的な考え方と、運用時に注意すべきポイントについて解説します。
監修:公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ)
目次
ストレスチェックにおける個人情報保護
ストレスチェック制度では、労働者の健康情報が慎重かつ適切に扱われることが強く求められています。
実施に関わる者には、労働安全衛生法に基づき「業務上知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない」という厳格な守秘義務が課せられています。
この守秘義務は、実施者だけでなく、事務担当者や外部委託先などストレスチェックに関与するすべての関係者に適用されます。
また、情報の管理体制やアクセス権限の設定を明確にし、万が一にも個人情報が漏えいしないような仕組みづくりが求められます。
制度の信頼性を保ち、労働者が安心して受検できる環境を整備することが、ストレスチェックを効果的に機能させる第一歩です。
(1)ストレスチェックの結果提供は労働者の同意が必要
ストレスチェックの結果について、実施者は労働者の同意がなければ、事業者に提供することはできません。
そしてストレスチェック結果の開示に関する同意取得方法や、取得のタイミングまで厳格に管理するよう求められています。
まず、ストレスチェック結果の開示同意の取得は、以下の2通りの方法が推奨されています。
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①ストレスチェックを受けた労働者に対し、当該ストレスチェックの結果を通知した後に、事業者、実施者またはその他の実施事務従事者が、ストレスチェックを受けた労働者に対して、個別に同意の有無を確認する方法
②ストレスチェックを受けた労働者に対して、当該ストレスチェックの結果を通知した後に、実施者が医師による面接指導を受ける必要があると認めた労働者に対して、当該労働者が面接指導の対象であることを他の労働者に把握されないような方法で、個別に同意の有無を確認する方法 |
労働者が自分のストレスチェック結果をまだ確認していない段階で、「事業者に結果を提供すること」への同意を求めるのは不適切とされています。
そのため、事業者がストレスチェックの実施前や実施中に労働者の同意を取得することは認められていません。
これは、労働者の個人情報を守り、安心してストレスチェックを受検できる環境を確保するために欠かせない重要なポイントです。
| ストレスチェックの同意取得のタイミング | 可否 |
| ストレスチェック実施前 | × |
| ストレスチェック実施時 | × |
| ストレスチェックに関する包括同意(※①) | × |
| オプトアウト方式による同意取得(※②) | × |
| ストレスチェック結果を個々に通知後 | 〇 |
※①衛生委員会等で、労働者代表の同意を得ることで、労働者全員の同意を得たとみなす等の「包括同意」については、認められません。
※②全員に対して、期日までに不同意の意思表示をしない限り同意をしたものとみなす旨通知し、意思表示のないものは同意したものとみなす等の「オプトアウト方式による同意取得」は認められません。
ストレスチェックを受検した労働者が、事業者に対して面接指導を申し出た場合、その申し出をもって「ストレスチェック結果の提供に同意した」とみなすことができます。
これは、労働者が自ら希望して面接指導を求めているため、結果の共有が必要であるという合理的な判断に基づいています。
また、同意取得に関する書面や電子データなどの記録は、事業者に保存義務があり、労働安全衛生法に基づき5年間の保管が求められます。
(2)ストレスチェックの実施事務従事者の守秘義務の内容は
ストレスチェックの実施事務重視者には、以下の守秘義務が課せられます。
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①ストレスチェックの実施事務従事者は、労働安全衛生法104条によって、ストレスチェックの実施に関して知り得た労働者の秘密をもらしてはなりません。
②ストレスチェックの実施事務は実施者(医師、保健師等)の指示により行うものであり、実施の事務に関与していない所属部署の管理監督者の指示を受けて、ストレスチェック実施の事務に従事することによって知り得た労働者の秘密をもらしてはなりません。 ③ストレスチェック実施の事務に従事したことによって知り得た労働者の秘密を、自らの所属部署の業務等のうち、ストレスチェック実施の事務とは関係ない業務に利用してはなりません。 |
(3)情報漏えいした場合は懲役または罰金刑の対象
前述したとおり、ストレスチェックの実施者および実施事務従事者には、労働安全衛生法104条によって秘密保持義務が課されています。
違反した場合には、罰則規定(労働安全衛生法119条1号)として6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金刑が定められています。
つまり、実施事務を担当する情報管理担当者は、医師と同等レベルの守秘義務を負っているといえます。
また、事業者は、労働者本人の同意を得て提供されたストレスチェックの結果であっても、健康保持のための就業上の措置に必要な範囲を超えて、上司や同僚に共有してはならないと定められています。
もし万が一、個人情報が漏えいし、従業員や会社に損害が発生した場合には、民事上の損害賠償責任に発展する可能性があります。さらに、この責任は使用者責任の対象にもなるため、企業も法的責任を負うリスクを抱えることになります。
したがって、個人情報を適切に保護・管理するための社内体制を整備し、アクセス権限の制限や情報取り扱いマニュアルの明確化を徹底することが、企業の信頼を守るうえで極めて重要です。
(4)ストレスチェックの集団分析でも注意が必要
ストレスチェックの集団分析は、個人が特定されるおそれがない方法で実施されますが、それでも結果の共有範囲には十分な配慮が求められます。
特に、分析対象となった集団の管理者にとっては、その結果が自身のマネジメント能力や職場環境づくりの評価につながる可能性があるため、無制限な共有は避けるべきです。
また、「心理的な負担の程度を把握するための検査および面接指導の実施ならびに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(2018年)では、10名未満の集団分析についても一定の条件下で実施を認めていますが、その場合には個人の特定リスクが高まるため、より厳格な個人情報保護体制が必要とされています。
さらに、労働者がストレスチェック結果の事業者開示に同意した場合であっても、結果や分析データを誰がどこまで閲覧できるかについては、事前に衛生委員会で慎重に審議し、明確な運用ルールを定めておくことが重要です。
ストレスチェックのその他の法的な注意事項
ストレスチェック制度においては、個人情報の保護が強く求められますが、その他にも留意すべき法的な注意事項があります。
(1)労基署への報告不備は罰則あり
ストレスチェックの実施について労働基準監督署に報告をしない場合には、50万円以下の罰則規定があります。また、ストレスチェックに関する法令違反は労働基準監督署による是正勧告の対象となる可能性もあります。
なお、また、2025年1月1日からは新たにストレスチェックの結果報告(心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告)について、原則としてe-Gove電子申請で提出することが義務化されましたので、その点についても注意が必要です。
厚生労働省/労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます
(2)安全配慮義務違反が問われる可能性がある
現行制度ではストレスチェックを実施しないことについて罰則規定はありませんが、ストレスチェックを実施していないことで、過労自殺などが発生した場合の労災認定の有無や、会社の安全配慮義務違反などの判断に影響する可能性があります。
(3)労基署から集団分析実施が求められることも
ストレスチェックの集団分析は、現行法では努力義務にとどまりますが、2019年4月から産業衛生機能強化が労働安全衛生法に盛り込まれたことによって、労働基準監督署による臨検の際に、集団分析を実施することおよび職場環境の改善のための対策が求められるケースが増加しています。
まとめ
ストレスチェック制度においては、個人情報の保護が強く求められます。ストレスチェッカーでは、個人情報の保護を徹底した方法で、安心してストレスチェック制度を実施していただくことができます。
さらにストレスチェックに関するデータを適切に管理するためにファイアウォールでサーバを保護しています。
さらに中立的な立場でテストと認定を行う機関である「ICSA Labs」の認定を取得するなど、適切に個人情報を管理する体制を整備しております。
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監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

