ストレスチェックの目的「一次予防」とは何か

ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調となることを未然に防止する「一次予防」を強化することを目的とした制度です。
ストレスチェック制度を通じて、労働者が自分のストレスの程度を把握し、必要に応じて早期かつ適切なケアをすることで、メンタルヘルス不調となることを未然に防止することが期待できます。

ストレスチェックの目的「一次予防」とは

メンタルヘルスケアは、一次予防、二次予防、三次予防に区分されます。

①一次予防
メンタルヘルス不調になることを未然に防止する

②二次予防
メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応を行う

③三次予防
メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する

そしてストレスチェック制度は、上記のうち一次予防である「メンタルヘルス不調となることを未然に防止する」ことを目的として創設された制度です。

(1)一次予防とは「メンタルヘルス不調を未然に防止すること」

メンタルヘルスケアは、企業の重要課題となっています。
従来は、職場のメンタルヘルス問題は、労働者個人の健康管理の問題と考えられており、いかにメンタルヘルス不調で休職する従業員を減らすかといった、リスク管理の観点から捉えられる問題でした。

しかし、職場のメンタルヘルス問題は、「ヒト・モノ・カネ」という大切な経営資源のひとつである「ヒト」に関する問題であり、リスク管理の観点だけで解決できるようなものではありません。

さらに最近の研究では、従業員のメンタルヘルス不調が、企業の利益率を下げるリスクを持っていることも指摘されています。

このようにメンタルヘルスの問題は企業の利益率にも影響を与える重要課題ではありますが、仕事以外の要因が複雑に関連しているケースも多く、その予防は大変難しいものです。
さらに厄介なのが、労働者本人がストレスを溜めているにも関わらず、本人がそれに気づかない場合も多く、早期に適切なケアができないことがあるのです。

私たちの身体は、ストレスを感じてそれに押しつぶされそうになると、身体が警告を発して、頭痛、めまい、吐き気、下痢、便秘、微熱、不眠などの初期兆候があらわれます。しかし、ほとんどの場合このような兆候が出た原因をストレスと考えることなく「偏頭痛かな」「食べすぎたかな」「疲れているのかな」と自分で決めつけてしまい、見過ごしてしまいます。
しかし、メンタルヘルス不調の前段階としてあらわれる不調のサインは、まず身体面の兆候としてあらわれ、次に行動面の兆候があらわれるものです。

そこでストレスチェック制度を通じて、労働者自身が自らの身体面の変化や行動面の変化に気づき、どういった心身のストレス反応がメンタルヘルス不調の初期兆候と考えられるのか、また何らかの疾患につながるリスクがあるのかを労働者自身に認識してもらい、適切なケアを行うことが大切となるわけです。

(2)二次予防、三次予防とは?

先ほどご紹介したように、メンタルヘルスケアは一次予防、二次予防、三次予防に区分されます。
そこで、二次予防、三次予防の内容もあわせて理解しておくようにしましょう。

二次予防
二次予防は、メンタルヘルス不調を早期に発見して適切な対応を行うことをいいます。
ストレス反応は、一定のレベルを超えると病的な状態になってしまいます。そこで、メンタルヘルス不調である可能性が考えられた場合には、産業医の判断を受けて、必要に応じて精神科医を受診させるなどの適切な対処が必要です。そして、病的な状態であると判断された場合には、治癒が開始されます。

三次予防
三次予防とは、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援することをいいます。
厚生労働省の復帰支援手引では、職場復帰支援活動を5つのステップに分け、進めることを推奨しています。

①病気休業開始および休業中のケア
②主治医による職場復帰可能性の判断
③職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
④最終的な職場復帰の決定
⑤職場復帰後のフォローアップ

(3)ストレスチェック以外の一次予防

これまでご紹介したように、ストレスチェック制度はメンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」を目的として、実施されます。
しかし、ストレスチェック制度を実施するだけでは、この一次予防の目的に適切に対応するには不十分な場合があります。
なぜなら、ストレスチェックは労働者に受検が義務づけられているものではなく、さらにストレスチェックの結果は、労働者本人の同意がなければ、事業者側は見ることができず、メンタルヘルスの状況を確認できないからです。

そこでストレスチェック以外にも、労働者がメンタルヘルス不調となることを防止するための施策が必要となります。

このようなストレスチェック以外の一次予防の施策として、4つのケアがあります。

①セルフケア
適切な支援のもと、労働者自らがストレスに気づき、これに対処する方法を身につけ、積極的に実施し、自発的な健康相談を行うこと
②ラインケア
労働者に日常的に接する現場の管理監督者が行う、以下の4つのケア
・職場環境等の問題点の把握と改善
・「いつもと違う」ことに気づき、対応する
・部下からの相談への対応
・メンタルヘルス不調の部下の職場復帰支援
③事業場内の産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフとは、産業医、衛生管理者、衛生推進者、安全衛生推進者、事業場内の保健師等、および事業場内の心の健康づくり泉温スタッフ(精神科・心療内科等の医師、心理職等)、人事労務管理スタッフを指します。
これらのスタッフ等が、職場環境等の評価および改善を行い、管理監督者からの相談や労働者からの相談に対応し、職場適応、治療、職場復帰支援等を行うことをいいます。
④事業場外資源によるケア
事業場外資源とは、健康保険組合や都道府県産業保健総合支援センター、民間のコンサルティングサービスなどをいいます。これらの資源を活用し、人的な支援を受けることをいいます。

ストレスチェックの目的である「一次予防」を実現するには

ストレスチェックの目的である「一次予防」を実現するためには、ストレスチェックの目的や役割を正しく理解し、労働者に適切に周知することが大切です。
事業場内でストレスチェック制度が機能するためには、実際に多くの労働者に受検してもらうことが必要だからです。

(1)メンタルヘルス不調の労働者を見つけ出す検査ではない

まず、ストレスチェック制度はメンタルヘルス不調者を見つけ出す検査ではないことを明確に提示します。
よく労働者からは、「ストレスチェックの結果や、面接指導の申出が、人事評価に影響を与えるのではないか」「ストレスチェックを受検することや面接指導を受けることで、メンタルヘルス疾患と診断されてしまうのではないか」といった不安の声を耳にします。
しかしストレスチェック制度を通じてこうした不利益な取扱いをすることは、法の規定によって厳に禁止されています。
したがって、労働者に安心して受検してもらうためにも、ストレスチェックの目的は適切に周知するようにしましょう。

> ストレスチェックの目的の周知方法

(2)労働者にストレスへの気づきを促すこと

ストレスチェック制度の目的は、労働者に自身のストレスへの気づきを促すことにあります。
そこで、現在どのような兆候があるのか、メンタルヘルス不調の初期兆候としてどのようなものがあるのか、その兆候が何らかの疾患につながるリスクがあるものなのかを、労働者に適切に促すためにも、メンタルヘルス不調の未然防止に役立つストレス反応の見方と対処法を、適切に提供することが大切となります。

メンタルヘルス不調は、初期の段階に適切に対応すれば、完全にストレスから解放された状況で3日程度の休養をとることで、症状を改善させることも可能なのです。
つまり、初期兆候があらわれている状態でそのことに気づき、十分な休養をとり良質な睡眠をとることが、メンタルヘルス不調の未然防止に大きな効果をあらわすことになります。

(3)高ストレス者に面接指導等につなげること

ストレスチェック制度は、自己式の調査票で検査するものですから、労働者の主観による評価であるという限界が存在します。そのため、ストレスチェックの結果、高ストレス者と判断されかつ面接指導が必要であると実施者が認めた労働者に対しては、面接指導を実施し、就業上の措置の有無を客観的に判断していく必要があります。
面接指導等は、ストレスチェック制度の副次的な効果として期待されている二次予防「メンタルヘルス不調の早期発見」を見落とさず、適切なリスク管理を行っていくための機能を高めるものでもあります。

(4)職場改善を行い、ストレス要因そのものを低減させる

ストレスチェックの個々の結果は、労働者の同意がなければ事業者は見ることができませんが、要件を満たした集団分析のデータは、実施者から提供を受けることができます。
ストレスチェック制度においては、結果を集団ごとに集計・分析する「集団分析」を職場環境改善につなげることが期待できます。

集団分析の結果を活用し、職場における心の健康問題を減らしていくためには、労働者一人一人の努力だけでなく、職場のリスク要因を抽出し、メンタルヘルス不調につながる要因を刈り取ることが大切です。

集団分析では、「職場のストレス要因が大きく、かつ心身のストレス反応も大きい職場」や「職場のストレス要因が大きいにもかかわらず、心身のストレス反応は小さいのか」などといった、職場の特性を分析することができます。

そこで、このような特性に応じて実際の状況を確認し、職場環境等の改善を図ります。
この集団分析は努力義務ではありますが、職場のストレスを低減し、メンタルヘルス不調を未然に防止するためにも、できるだけ実施することが望まれます。

まとめ

ストレスチェック制度を活用するためには、いかに制度の目的である一次予防「メンタルヘルス不調の未然防止」につなげていくことができるかを、意識することが大切です。
ストレスチェック制度は、常時50人以上を雇用する事業所(産業医を選任する事業所)において義務づけられている制度ですが、義務だから単に実施するというだけでは、効果を実感することは難しいでしょう。
せっかく実施するのですから、ストレスチェック制度を活用してメンタルヘルス不調を未然に防止し、職場環境の改善につなげることで、生産性向上の効果まで実現させたいものです。

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