ストレスチェックの目的「一次予防」とは何か

ストレスチェック制度は、労働者が心身の不調に陥る前にその兆候を察知し、早期に対応することを目的とした「一次予防」を強化する制度です。
ストレスチェック制度を通じて、労働者が自身のストレスの程度を客観的に把握し、必要に応じて医師面談や職場のサポート体制を活用することで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことが期待されています。
また、個人だけでなく組織としても、集団分析によって職場全体のストレス要因を把握し、業務量や人間関係、職場環境の改善につなげることができます。
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法の改正により2028年5月をめどに段階的に全事業場を対象に義務化が進められる予定です。
事業者は、ストレスチェックの実施体制の整備や結果の活用方法の検討など、早めの準備が必要となります。

ストレスチェックの目的「一次予防」とは

メンタルヘルスケアは、一次予防、二次予防、三次予防に区分されます。

①一次予防
メンタルヘルス不調になることを未然に防止する

②二次予防
メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応を行う

③三次予防
メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する

そしてストレスチェック制度は、上記のうち一次予防である「メンタルヘルス不調となることを未然に防止する」ことを目的として創設された制度です。

(1)一次予防とは「メンタルヘルス不調を未然に防止すること」

メンタルヘルスケアは、企業にとって今や経営の中核課題の一つとなっています。
かつては、職場のメンタルヘルス問題は「個人の健康管理」の範囲とみなされ、休職者を減らすためのリスク管理的な取り組みが中心でした。
しかし現在では、メンタルヘルスは「ヒト・モノ・カネ」の中でも、最も重要な経営資源である「ヒト」に関わる課題として位置づけられています。
単なるリスク対策では決してなく、従業員が安心して働ける職場づくりを進めることが、企業の持続的な成長に直結します。
また、近年の研究では、従業員のメンタルヘルス不調が組織の生産性を低下させ、利益率や離職率にも影響を及ぼすことが示されており、心の健康を守ることが企業価値の向上につながる時代となっています。

このようにメンタルヘルスの問題は企業の利益率にも影響を与える重要課題ではありますが、仕事以外の要因が複雑に関連しているケースも多く、その予防は大変難しいものです。
さらに厄介なのが、労働者本人がストレスを溜めているにも関わらず、本人がそれに気づかない場合も多く、早期に適切なケアができないケースが多々あるのです。

私たちの身体は、強いストレスを感じて押しつぶされそうになると、まず身体的な警告サインを発します。頭痛、めまい、吐き気、下痢、便秘、微熱、不眠などがその初期兆候です。
しかし多くの場合、人はそれを「偏頭痛かな」「食べすぎたかも」「疲れているだけ」と自己判断し、原因をストレスとは結びつけずに見過ごしてしまいます。
こうした身体の不調は、メンタルヘルス不調の前段階として現れることも多く、次第に集中力の低下、遅刻や欠勤の増加、人間関係のトラブルなど行動面の変化へと発展していきます。
つまり、身体の小さな異変こそが心のSOSであり、早期に気づいて対応することが、深刻なメンタル不調を防ぐ第一歩となるのです。

そこでストレスチェック制度を通じて、労働者自身が自らの身体面の変化や行動面の変化に気づき、どういった心身のストレス反応がメンタルヘルス不調の初期兆候と考えられるのか、また何らかの疾患につながるリスクがあるのかを労働者自身に認識してもらい、適切なケアを行うことが大切となるわけです。

(2)二次予防、三次予防とは?

先ほどご紹介したように、メンタルヘルスケアは一次予防、二次予防、三次予防に区分されます。
そこで、二次予防、三次予防の内容も合格わせて理解しておくようにしましょう。

二次予防
二次予防は、メンタルヘルス不調を早期に発見して適切な対応を行うことをいいます。
ストレス反応は、一定のレベルを超えると病的な状態になってしまいます。そこで、メンタルヘルス不調である可能性が考えられた場合には、産業医の判断を受けて、必要に応じて精神科医を受診させるなどの適切な対処が必要です。そして、病的な状態であると判断された場合には、治癒が開始されます。

三次予防
三次予防とは、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援することをいいます。
厚生労働省の復帰支援手引では、職場復帰支援活動を5つのステップに分け、進めることを推奨しています。

①病気休業開始および休業中のケア
②主治医による職場復帰可能性の判断
③職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
④最終的な職場復帰の決定
⑤職場復帰後のフォローアップ

(3)ストレスチェック以外の一次予防

これまでご紹介したように、ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」を目的として実施される仕組みです。
しかし、ストレスチェックを実施するだけでは、この一次予防の目的を十分に果たせない場合があります。
その理由として、ストレスチェックは労働者に受検義務がないこと、さらに結果は本人の同意がなければ事業者が閲覧できないことが挙げられます。つまり、受検率が低い場合や本人の同意が得られない場合、職場のメンタルヘルス状況を正確に把握することが難しくなります。
そのため、事業者はストレスチェックの実施に加えて、日常的なコミュニケーションの促進や相談体制の整備など、労働者がメンタルヘルス不調に陥る前にサポートできる体制づくりを進めることが求められます。

そして、このようなストレスチェック以外の一次予防の施策として、4つのケアがあります。

①セルフケア
適切な支援のもと、労働者自らがストレスに気づき、これに対処する方法を身につけ、積極的に実施し、自発的な健康相談を行うこと
②ラインケア
労働者に日常的に接する現場の管理監督者が行う、以下の4つのケア
・職場環境等の問題点の把握と改善
・「いつもと違う」ことに気づき、対応する
・部下からの相談への対応
・メンタルヘルス不調の部下の職場復帰支援
③事業場内の産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフとは、産業医、衛生管理者、衛生推進者、安全衛生推進者、事業場内の保健師等、および事業場内の心の健康づくり泉温スタッフ(精神科・心療内科等の医師、心理職等)、人事労務管理スタッフを指します。
これらのスタッフ等が、職場環境等の評価および改善を行い、管理監督者からの相談や労働者からの相談に対応し、職場適応、治療、職場復帰支援等を行うことをいいます。
④事業場外資源によるケア
事業場外資源とは、健康保険組合や都道府県産業保健総合支援センター、民間のコンサルティングサービスなどをいいます。これらの資源を活用し、人的な支援を受けることをいいます。

ストレスチェックの目的である「一次予防」を実現するには

ストレスチェック制度の本来の目的である「一次予防」を実現するためには、まず制度の意義や役割を正しく理解し、労働者一人ひとりに丁寧に周知することが重要です。
ストレスチェックを単なる形式的な検査としてではなく、「自分のストレスに気づき、早期に対処するためのツール」として浸透させることが、効果的な運用の第一歩となります。
また、事業場内で制度を十分に機能させるには、多くの労働者に受検してもらうことが欠かせません。受検率が高まるほど、職場全体のストレス傾向を正確に把握でき、集団分析による職場環境の改善や、組織的な予防策の立案にもつながります。そのため、安心して受検できる環境づくりや目的の共有が大切です。

(1)メンタルヘルス不調の労働者を見つけ出す検査ではない

まず理解しておくべきことは、ストレスチェック制度は「メンタルヘルス不調者を特定するための検査」ではないという点です。
実際、労働者の中には「ストレスチェックの結果や面接指導の申出が人事評価に影響するのでは」「受検したことでメンタル疾患と診断されてしまうのでは」といった不安を抱く人が少なくありません。
しかし、ストレスチェックの結果を理由に不利益な扱いをすることは、労働安全衛生法により厳格に禁止されています。
ストレスチェック制度の目的は、労働者自身が自分のストレスに気づき、早期にケアへつなげることにあります。したがって、労働者に安心して受検してもらうためにも、制度の趣旨や法的保護の内容を明確に説明し、「評価や処遇には一切関係しない」というメッセージを事業場全体で共有することが大切です。

> ストレスチェックの目的の周知方法

(2)労働者にストレスへの気づきを促すこと

ストレスチェック制度の目的は、労働者が自らのストレス状態に気づき、心身の不調を未然に防ぐことにあります。
そのためには、現在どのような兆候があるのか、メンタルヘルス不調の初期段階ではどのようなサインが現れるのか、そしてそれが放置されるとどのようなリスクにつながるのかを、労働者自身が理解できるように支援することが大切です。
企業としては、ストレス反応の正しい見方や、効果的なセルフケアの方法をわかりやすく伝えることで、労働者の「気づき」を促すことができます。
メンタルヘルス不調は、早期に対処できれば短期間の休養や十分な睡眠で改善するケースも多く、深刻化を防ぐことが可能です。
つまり、初期兆候があらわれている状態でそのことに気づき、十分な休養をとり良質な睡眠をとることが、メンタルヘルス不調の未然防止に大きな効果をあらわすことになります。

(3)高ストレス者に面接指導等につなげること

ストレスチェック制度は、自己回答式の調査票を用いるため、結果は労働者の主観に基づく評価となるという課題があります。
そのため、ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定され、かつ面接指導が必要と実施者が判断した場合には、医師による面接指導を行い、客観的な視点から就業上の措置が必要かを慎重に判断することが求められます。
こうした面接指導は、ストレスチェック制度の副次的な効果として位置づけられる「二次予防(メンタルヘルス不調の早期発見)」の役割を果たします。早期に兆候を把握し、業務量や職場環境、人間関係などに起因するリスクを適切に管理することで、重大なメンタルヘルス不調を未然に防ぐことができます。結果として、労働者の健康保持だけでなく、組織全体の安定的な運営にも寄与する重要なプロセスといえるでしょう。

(4)職場改善を行い、ストレス要因そのものを低減させる

ストレスチェックの個人結果は、本人の同意がなければ事業者が閲覧することはできませんが、一定の要件を満たしたうえで実施者から提供を受ける「集団分析データ」は、職場環境の改善に役立てることが可能です。
この集団分析とは、ストレスチェックの結果を部署や職種などの単位で集計・分析し、職場全体のストレス傾向やリスク要因を把握する手法です。
たとえば「ストレス要因も反応も高い職場」では早急な改善が必要であり、「要因は高いのに反応が低い職場」では過度な我慢や抑圧が潜在的なリスクになっている可能性もあります。
こうした分析結果を踏まえ、職場の体制や業務内容、人間関係の改善に取り組むことで、メンタルヘルス不調の予防や離職防止、生産性向上につなげることができます。
集団分析の実施は努力義務とされていますが、企業の持続的な成長と安全衛生管理の観点からも、積極的な活用が望まれます。

まとめ

ストレスチェック制度を活用するためには、いかに制度の目的である一次予防「メンタルヘルス不調の未然防止」につなげていくことができるかを、意識することが大切です。
ストレスチェック制度は、常時50人以上を雇用する事業所(産業医を選任する事業所)において義務づけられている制度ですが、義務だから単に実施するというだけでは、効果を実感することは難しいでしょう。
せっかく実施するのですから、ストレスチェック制度を活用してメンタルヘルス不調を未然に防止し、職場環境の改善につなげることで、生産性向上の効果まで実現させたいものです。

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