
事業場でストレスチェック制度を効果的に活用するためには、まず多くの労働者に受検してもらうことが欠かせません。そのための第一歩は、事業場全体で制度の目的を明確にし、ていねいに周知することです。
ストレスチェックが「評価」だと誤解している従業員もいるため、決して評価ではなく「支援」のための制度であると説明することも大切です。
監修:監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
目次
ストレスチェックの目的とは
ストレスチェック制度の目的は、労働者自身にストレスへの気づきを促してメンタルヘルス不調となることを未然に防止し(一次予防)、ストレスチェックの結果を活用して職場環境の改善につなげることです。
しかし、労働者のなかには「ストレスチェックの結果が、評価に影響を与えるのではないか」などといった不安を持ち、受検をためらう人もいます。
しかしストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調のスクリーニングをする検査ではありません。
そこで、このような不安を払しょくし、ストレスチェックの受検率を向上させるためにも、そして適切に労働者がストレスチェック制度を活用できるようにするためにも、ストレスチェック制度の目的を正しく周知することが大切です。
ストレスチェック制度の目的については、厚生労働省では以下の4つをあげています。
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①労働者自身のストレスへの気づきを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させること
②ストレスチェック制度を通じてストレスの高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること ③ストレスチェックの検査結果を集団分析して、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境改善につなげることで、ストレス要因そのものを低減させること ④労働者のストレス状況の改善および働きやすい職場の実現を通じて、生産性向上につなげ、事業経営の一環としてストレスチェック制度の活用を推進すること |
(1)労働者自身のストレスへの気づきを促す
ストレスチェック制度(正式名称:心理的な負担の程度を把握するための検査及びその結果に基づく面接指導の実施等)は、労働者が自分自身のストレスに気づくことを目的とした制度です。日々の業務や人間関係の中で感じる心身の負担を“見える化”し、無理をしている状態や限界に近いサインを早期に把握することができます。こうした気づきが、休養や相談、環境調整といった次の行動につながり、メンタルヘルス不調の予防に効果があるとされています。
(2)高ストレス者の早期発見
ストレスチェック制度を通じて、ストレスが高いと判定された労働者がいた場合、その労働者が希望すれば、医師による面接指導を実施します。
そして事業者は、面接指導を実施した医師から、就業上の措置に関して意見を聴取します。そのうえで必要に応じて、就業場所の変更や作業時間の短縮、作業の転換などの適切な措置を講じ、深刻なメンタルヘルス疾患の発症を防ぐことを目的としています。
(3)集団分析を活用した職場環境改善
ストレスチェック制度の集団分析とは、職場を部署、課、グループなど一定規模の集団ごとに集計・分析することをいいます。
厚生労働省の指針によれば、その結果を確認し、労働者の実情を考慮したうえで、必要に応じて労働者のストレスを軽減するために適切な措置を講じるよう努めなければならないとしています。
ここで注意しなければならないのが、個人情報の取扱いです。
労働者個人のストレスチェックの結果は、労働者の同意がなければ実施者から事業者へデータを提供することは禁止されており、事業者は労働者の個別の結果を見ることができないしくみになっています。
しかし10人以上の一定規模の集団ごとに集計し分析した結果、もしくは10人を下回る場合には、個々の労働者が特定されるおそれのない方法で集計・分析を実施した結果については、実施者から事業者にデータを提供することが可能となっています。
そして、この集団分析のデータを活用し、職場環境の改善につなげることが望ましいとされています。
集団分析は現時点では努力義務ではありますが、職場環境の改善が労働者のメンタルヘルスによい影響を与えることは明らかですから、積極的に取り組むことが望まれます。
ストレスチェックの目的の周知方法

これまでご紹介したように、ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調のスクリーニングをする検査ではありません。
労働者に自身のストレスへの気づきを促し、高ストレス者がいれば医師の面接指導につなげてメンタルヘルス疾患を未然に防止し、あわせて集団分析のデータを職場環境の改善につなげることを目的とした制度です。
このストレスチェックの目的を適切に周知する手段として、厚生労働省の指針では、以下の手順が示されています。
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①ストレスチェック制度における基本方針の表明 事業者は、法、規則およびストレスチェック指針に基づき、ストレスチェック制度に関する基本方針を表明する。 ②衛生委員会における調査審議 |
(1)スクリーニング検査ではないことを明確にする
事業者は、ストレスチェックを実施する前に、制度運用に関する基本方針を明確に表明しなければなりません。労働者の中には、「ストレスチェックの結果が人事評価や処遇に影響するのではないか」と不安を抱く人も少なくありません。そのため、基本方針の中で、ストレスチェックの目的が「労働者一人ひとりのストレスへの気づきを促し、心身の負担を軽減すること」および「集団分析の結果をもとに職場環境の改善へつなげること」にあることを明示し、労働者が安心して受検できる環境を整えることが大切です。
(2)不利益な取扱いは受けないことを明確にする
ストレスチェック制度においては、ストレスチェックを受検しないことや、面接指導の申出をしたことを理由とした不利益な取扱いが禁止されています。
また、面接指導を実施しないで就業上の措置を講じることもできません。
したがって、労働者の不安を払しょくして受検率を向上させるためにも、基本方針では、「不利益な取扱いをしない」ことを明記する必要があります。
(3)個人情報が保護されることを明確にする
ストレスチェック制度においては、労働者の個人情報の保護が極めて重視されています。ストレスチェックの結果を知ることができるのは、労働者本人とストレスチェックの実施者のみです。
ただし、労働者本人が結果を知った後に開示同意した場合には、事業者も結果を知ることができます。
労働者の同意がない場合には、実施者はストレスチェックの結果を事業者に提供することはできません。また、人事権を有する人は実施事務従事者になることはできず、さらに実施事務従事者には守秘義務が課せられます。
個人情報の保護が重視され万全な体制でストレスチェックを実施するという点においては、前述した「不利益取扱いの禁止」とあわせて、基本方針に明記するべきでしょう。
(4)ストレスチェックの目的の周知方法
ストレスチェックの目的等を周知する際には、まず衛生委員会等においてストレスチェック制度の実施方法や実施状況、それを踏まえた実施方法の改善等について調査審議します。そしてそれを文書化して労働者に周知しなければなりません。
周知の方法は、就業規則などと同じく社内イントラネットや社内掲示板に掲載して表明する方法等が考えられます。
なお衛生委員会においては、以下の内容を調査審議します。
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①ストレスチェックの実施は誰が行うか ②いつストレスチェックを実施するか ③どのような質問票を使用するか ④どのような方法で「高ストレス者」を判定するか ⑤面接指導の申出は、誰に対して行うか ⑥面接指導は、どの医師に依頼するか ⑦集団分析は、どのような方法で行うのか ⑧ストレスチェックの結果保存は、どのような方法で行うか |
(5)ストレスチェックの目的【文例】
ストレスチェックの目的等に関する基本方針は、個々の事業者の状況に応じて作成するべきですが、以下に文例をご紹介しますので、参考にしてください。
| 従業員の皆様へ
令和〇年〇月〇日 ストレスチェック制度の実施について 当社は、労働安全衛生法第66条の10に定める「心理的な負担の程度を把握するための検査等(以下ストレスチェック制度とします)の具体的な推進方法を明確にし、適切に実施します。 記 ①ストレスチェックを実施する目的 ②個人情報の保護 ③集団分析について 以上 |
まとめ
以上、ストレスチェック制度の目的の周知方法、基本方針の文例等についてご紹介しました。
ストレスチェック制度を活用して労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、ストレスチェックの結果を活用して職場環境の改善につなげ、生産性を向上させるためには、前提として事業場内でストレスチェック制度が機能していることが大切であり、そのためには、多くの労働者に受検してもらう必要があります。
ストレスチェック制度の受検率を向上し、ストレスチェック制度を適切に活用するためにも、ストレスチェックの目的については適切に労働者に周知し、正確に理解してもらうことが大切です。
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監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

