
現代のように、市場環境や働き方が急速に変化し、かつ先行きが見通しにくい時代は「VUCA時代」と呼ばれています。業績や人材の不確実性が高まる中、従業員一人ひとりの心理的負担も複雑化・深刻化しやすく、従来の感覚的なマネジメントだけでは限界があります。
こうした環境下で注目されるのがストレスチェック制度です。ストレスチェックとは、従業員の心理的な負担の状態を質問票により把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための制度です。個人のセルフケアに加え、集団分析によって職場全体のリスクを可視化することができます。
VUCA時代で組織を持続させるためには、ストレスチェックを「形式的な義務」ではなく、経営判断や職場改善に活かす仕組みとして機能させることが重要です。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
VUCAとは
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、変化が激しく、先行きの予測が難しい現代のビジネス環境を表します。
もともとは軍事分野で使われていましたが、グローバル化やIT・AIの進展、感染症の流行や国際情勢の不安定化などを背景に、企業経営の文脈でも広く用いられるようになりました。
VUCAを構成する要素は、①変化のスピードが速い「変動性」、②将来が読めない「不確実性」、③要因が絡み合う「複雑性」、④正解が一つに定まらない「曖昧性」です。こうした環境では、従来の成功体験や固定的な判断基準が通用しにくくなります。企業には、迅速な情報把握や柔軟な意思決定に加え、従業員の心理的負担を含めたリスクを把握し、組織として持続的に対応する力が求められています。
なぜ「VUCA」が重視され続けるのか
VUCAが今も重視され続けている背景には、ビジネス環境の変化が一過性ではなく、むしろ加速し続けている現実があります。
AIやIoTなどの技術革新は、従来のビジネスモデルや職種を急速に変化させ、新たな価値を生む一方で、既存の仕事を短期間で陳腐化させています。
さらに、グローバル化による競争激化やサプライチェーンの複雑化、地政学リスクや自然災害は、世界経済に瞬時に影響を及ぼし、不確実性を高めています。コロナ禍は、こうした予測不能な事態に対し、リモートワークやDXなど柔軟に対応できる力が企業の存続に直結することを明確にしました。
もはや「一度身につけた知識や成功体験」は通用せず、学び直しを前提に変化へ適応できる人材が求められているといえるのです。
一方で、VUCAはリスクだけでなく、新たなサービスや市場を生み出す機会でもあります。だからこそ企業には、主体的に考え行動できる人材と、迅速で柔軟な意思決定ができる組織づくりが今なお重要視されているのです。
変化の激しさと心理的負担の増幅
VUCAが重視され続ける大きな理由の一つが、環境変化の激しさによって、働く人の心理的負担が以前にも増して大きくなっている点です。AIやデジタル技術の急速な進展、ビジネスモデルの変化、組織再編や評価制度の見直しなどが常態化し、「このやり方が正しい」「この先は安定している」と言い切れる状況はほとんどありません。
将来が見通せない状態が続くと、人は常に判断や選択を迫られ、無意識のうちに緊張状態を保つことになります。その結果、失敗への不安や評価への過度な意識が高まり、ストレスが蓄積しやすくなります。
また、変化に適応し続けること自体が負荷となり、「追いつかなければならない」「取り残されるかもしれない」という焦りが、心身の疲弊を招くケースも少なくありません。
ストレス要因が複雑化・見えにくい
職場におけるストレス要因は、従来よりも複雑化し、非常に見えにくくなっていると指摘されています。従来は、長時間労働や業務量の多さなど、原因が比較的明確なストレスが中心でした。しかし現在は、業務の変化スピード、役割の曖昧さ、評価基準の不透明さ、リモートワークによる孤立感など、複数の要因が重なり合ってストレスを生み出しています。
これらは一つひとつが小さく見えても、同時に発生することで心理的な負担を大きく増幅させます。さらに、本人も「何がつらいのか」を言語化しにくく、周囲や管理職も気づきにくい点が問題です。表面的には業務が回っているように見えても、水面下では不安や疲弊が蓄積しているケースも少なくありません。
VUCA × ストレスチェック
VUCA時代では、テクノロジーの進化やグローバル化、予測不能な社会情勢の変化により、従業員の心理的負担はこれまで以上に高まっています。ストレス要因も、業務量や裁量といった従来の視点に加え、変化への適応力や情報の取捨選択といった新たな要素が重なり、より複雑化しています。
こうした環境下では、ストレスチェックを通じて高ストレス者の把握だけでなく、組織全体の傾向を可視化し、上司や同僚による支援体制を強化することが重要です。
ストレスチェッカーとは
「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
ストレスチェックは、自分の心身の状態を客観的に把握するための制度です。数値として現れる結果は、「休んだほうがいいサイン」に気づくヒントになり、必要に応じて休息や相談を取り入れることで、重い不調や長期休職を防ぐことができます。
複雑なストレス要因を可視化する
VUCA時代では、変化のスピードが速く、不確実性や複雑性が高まることで、従業員が感じるストレス要因も一層見えにくくなっています。業務量や人間関係といった従来型のストレスに加え、急な方針転換、役割の曖昧さ、情報過多による判断疲れなど、複数の要因が同時に重なり合っています。
このような状況では、表面的な不調や個人の訴えだけでは、職場に潜む本質的な課題を把握することが難しくなります。ストレスチェックは、こうした複雑なストレス要因を数値として可視化し、個人レベルだけでなく部署や組織全体の傾向を捉えるための有効な手段です。結果を分析することで、「どこに」「どのような負荷が集中しているのか」を客観的に把握でき、思い込みや感覚に頼らない対策が可能になります。VUCA時代だからこそ、見えにくいストレスを構造的に整理し、早期に気づく仕組みとしてストレスチェックを活用することが、持続的な組織運営に欠かせません。
集団分析で組織の歪みを捉える
職場のストレスは個人の問題としてではなく、組織構造や業務設計の歪みとして表面化しやすくなります。こうした歪みは、特定の部署に業務が集中していたり、役割や評価基準が曖昧であったりしても、日常業務の中では見過ごされがちです。
ストレスチェックの集団分析は、個々の数値を超えて、部署別・職種別・年代別などの傾向を把握できる点に大きな意義があります。集団としての結果を見ることで、「個人の耐性の問題」と誤解されやすい不調の背景に、業務負荷の偏りやマネジメントの課題、支援体制の不足といった組織的な要因が存在することが明確になります。
現代の企業経営に求められるのは、問題が顕在化してから対処するのではなく、兆候の段階で組織の歪みに気づき、改善につなげる視点です。集団分析を活用することで、感覚や経験則に頼らない客観的な判断が可能となり、変化に強い組織づくりが可能になります。
高ストレス者への早期フォロー
業務の変化や不確実性が常に続くと、従業員は自覚のないまま心理的負担を蓄積しやすくなります。その結果、ある時点を境に急激にパフォーマンスが低下したり、突然の休職や離職につながったりするケースも少なくありません。
このような従業員は、ストレスチェックで「高ストレス者」と判定される場合があります。高ストレス状態は「本人の弱さ」ではなく、環境とのミスマッチや負荷の過多が要因であることが多く、放置すれば心身の不調が深刻化するリスクがあります。早い段階で面談や産業医へのつなぎを行うことで、業務調整や支援策を検討する余地が生まれ、回復可能なタイミングでの対応が可能になります。また、早期フォローは当事者だけでなく、周囲の従業員にとっても「会社が見てくれている」という安心感につながり、組織全体の信頼性やエンゲージメントの向上にも寄与します。
VUCA × 連携施策
VUCA時代では、ストレスチェック単体ではなく、周辺施策との連携が重要になります。高ストレス者が確認された場合は、速やかに産業医面談やEAPにつなげ、個人の状態に応じた専門的な支援を行うことで、深刻化を防ぐことができます。同時に、集団分析の結果を活用し、業務負荷や人間関係、評価制度など職場環境の改善につなげることで、再発防止にも効果を発揮します。
さらに近年の法改正により、企業規模を問わずストレスチェックへの対応が求められる流れが進んでいます。制度を形骸化させず、連携施策として機能させることが、これからの企業経営にとって不可欠です。
産業医面談・EAP・職場改善との連携
ストレスチェックで高ストレス者が複数確認された部署があった場合、個別に産業医面談を実施することで、本人も気づいていなかった不安や疲弊が明らかになることがあります。その情報を匿名性に配慮したうえで集団分析と照らし合わせると、業務量の偏りや上司とのコミュニケーション不足といった職場課題が浮き彫りになります。
さらにEAPを併用すれば、職場外の悩みも含めた早期支援が可能となり、休職や離職を防げるケースも少なくありません。こうした流れで職場改善まで結び付けることで、ストレスチェックは「測るだけの制度」から、VUCA環境に対応する実践的なリスクマネジメントへと進化します。
心理的安全性と組織レジリエンスの醸成
心理的安全性とは、「不安や違和感を口にしても不利益を受けない」という職場の安心感を指します。たとえば、業務の進め方に疑問を感じても発言しづらい職場では、小さなストレスが蓄積し、突然の不調や離職につながりがちです。一方、ストレスチェックの結果を踏まえて上司と定期的に対話の場を設け、「困っていることを共有してよい」というメッセージを出した企業では、早い段階で負荷調整や支援が行われ、深刻化を防げた事例もあります。
こうした取り組みは、個人の回復力を高めるだけでなく、変化に耐え、立て直せる組織レジリエンスの強化にも直結します。
最新の法改正と企業に求められる対応
2025年5月の法改正により、従業員50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化されることが決定しました。遅くとも2028年5月までに施行される予定で、これまで努力義務にとどまっていた小規模事業場も、規模に関わらず実施が義務となります。
小規模の事業場においても、早期に外部委託やクラウド型サービスを導入し、厚生労働省のマニュアルに沿って準備を進めれば、スムーズに制度を運用できますし、従業員の相談体制強化にもつながります。最新の法改正を単なる義務対応で終わらせず、産業医面談や職場改善と連携させることで、VUCA環境に強い組織づくりへと発展させることができます。
厚生労働省のマニュアルに沿ってストレスチェックの準備を進めれば、制度を無理なく導入・運用でき、従業員が相談しやすい体制づくりにもつながります。特に小規模事業場では、一人ひとりの負荷が見えにくくなりやすいため、ストレスチェックを起点に課題を可視化し、早めに手を打つことが重要です。むしろ小規模事業場だからこそ、柔軟で実効性のあるメンタルヘルス施策が、組織の持続力を左右するとも言えるのです。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
VUCA環境では、変化の激しさや不確実性の高まりにより、従業員一人ひとりのストレス要因が複雑化・見えにくくなっています。こうした時代だからこそ、ストレスチェックを単なる法令対応で終わらせず、ストレスチェックを「制度としての予防」に位置づけることが、VUCA環境に強い、持続可能な組織づくりにつながります。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。
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