
GRIT(グリット)とは、「やり抜く力」と訳される心理学の概念で、困難や失敗を前にしても粘り強く努力を続ける力を指します。才能やIQよりも、長期的な成果を左右するのはこのGRITであると言われ、近年はビジネスや教育の分野でも注目されています。
職場など変化やプレッシャーが多い環境でも、GRITが高い人ほどストレスに柔軟に対応し、前向きに課題へ取り組める傾向があります。
この記事では、GRITの意味や構成要素、ストレス耐性との関係、さらに企業が従業員の「やり抜く力」を育てるためのポイントについて解説します。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
GRITとは? やり抜く力の意味
GRIT(グリット)とは、困難に直面しても粘り強く努力を続ける「やり抜く力」を表す言葉です。
英語の Guts(度胸)・Resilience(復元力)・Initiative(自発性)・Tenacity(執念)の頭文字を取ったもので、心理学者アンジェラ・ダックワースによって提唱されました。
これら4つの要素は、才能や学力よりも長期的な成果や成功を左右する要因とされ、努力や経験を通して育むことができると考えられています。ビジネスや教育、スポーツなどあらゆる分野で注目されており、特に職場ではストレスに負けず挑戦を続ける力として、メンタルヘルスとの関連も重視されています。
4つの要素で構成されるGRIT
GRIT(グリット)とは、「やり抜く力」を意味し、Guts(度胸)・Resilience(復元力)・Initiative(自発性)・Tenacity(執念)の4つの要素で構成されています。
この4つが組み合わさることで、長期的な目標を達成する原動力になります。GRITは生まれ持った才能ではなく、意識と経験の積み重ねで育てられるものとされ、ビジネスや教育の現場でも注目されています。
度胸(Guts)
Guts(度胸)とは、GRITを構成する4つの要素の中でも「挑戦への第一歩」を象徴する力です。困難な状況に直面しても恐れず立ち向かう姿勢を指し、たとえ失敗する可能性があっても、自分の信念や目標に基づいて行動できる強さを意味します。度胸のある人は、未知の課題やリスクを避けず、学びや成長の機会として受け止める傾向があります。これは、単なる「勇気」ではなく、恐れを感じながらも前に進む実行力です。
職場においては、新しいプロジェクトへの挑戦や改善提案、慣れない業務への取り組みなど、日常的にGutsが問われる場面があります。
また、Gutsはチーム全体にも良い影響を与え、挑戦を歓迎する前向きな職場文化をつくる原動力にもなります。
こうした「挑戦する力」は、才能や経験よりも、意識的な訓練や成功体験の積み重ねで高められるものです。日々の業務の中で少しずつ難易度の高い課題に取り組み、自信を育てることで、ストレスに強く、柔軟に対応できるようになります。
復元力(Resilience)
Resilience(復元力)とは、GRIT(やり抜く力)を支える重要な要素のひとつで、「逆境から立ち直る力」を意味します。困難や失敗、プレッシャーの中でも感情をコントロールし、再び前を向いて行動できる能力です。たとえ挫折しても、「これで終わり」とは考えず、経験から学び、次の行動へつなげられるのがResilienceの特徴です。
職場では、ミスやトラブル、目標未達など思うようにいかない場面が少なくありません。その時に落ち込みすぎず、冷静に原因を分析して立て直す人は、復元力が高いと言えます。
Resilienceは生まれつきの性質ではなく、日々の経験を通して高めることができます。たとえば、うまくいかなかったときに「自分はダメだ」と思うのではなく、「どうすれば次はうまくいくか」と建設的に考える習慣を持つことです。この思考の切り替えを積み重ねることで、ストレスに強く、継続して成果を出せるしなやかなメンタルを育むことができます。
自発性(Initiative)
Initiative(自発性)とは、「自ら動く力」を指します。与えられた指示を待つのではなく、自分で課題を見つけ、目標を立て、行動に移す姿勢のことです。自発性の高い人は、現状を受け身でとらえるのではなく、「どうすればより良くできるか」を常に考え、主体的に取り組む特徴があります。
職場では、業務改善の提案をしたり、新しいプロジェクトに手を挙げたりといった行動に自発性が現れます。こうした行動は、個人の成長だけでなく、組織の活性化にもつながります。
自発性を高めるには、自分の仕事を「任されているもの」ではなく「自分が選んで取り組むもの」と捉える意識の切り替えが大切です。小さな成功体験を積み重ねることで、「自分の行動で状況を変えられる」という自己効力感が育ち、ストレスの多い環境でも前向きに挑戦を続けられるようになります。
執念(Tenacity)
Tenacity(執念)とは、GRIT(やり抜く力)の中でも「最後までやり抜く意志の強さ」を表す要素です。困難な状況や時間のかかる課題に直面しても、途中で投げ出さず、粘り強く努力を続ける力のことを指します。Tenacityの高い人は、目先の結果に一喜一憂せず、長期的な視点で物事を捉え、少しずつでも前進を重ねていきます。
職場では、プロジェクトの停滞やトラブル、評価が得られにくい時期など、忍耐を求められる場面が多くあります。そのような中でも、Tenacityを持つ人は「うまくいかない時こそ成長のチャンス」と考え、諦めずに改善を続けます。
一方で、Tenacityは単なる根性論ではなく、目標を明確にし、柔軟に戦略を見直しながら継続する力です。成果がすぐに出ないときでも、小さな達成を積み重ねることで自己効力感が育ち、ストレスに対する耐性も高まります。
GRITが高い人に共通する特徴
GRIT(グリット)が高い人には、いくつかの共通した特徴があります。まず挙げられるのは、「関心を持ち続け、努力を継続できる」という点です。長期的な目標を達成するには、短期的な成果に左右されず、粘り強く行動を続ける姿勢が欠かせません。グリットが高い人は、自分の掲げた目標に強い関心を持ち続け、モチベーションを維持しながら高いレベルの努力を積み重ねることができます。
また、心身の健康が良好であることも特徴の一つです。研究では、グリットが高い人ほど心理的ストレスへの耐性が強く、健康的な生活習慣を維持しやすい傾向があると報告されています。努力の積み重ねによって得られる達成感や自己肯定感は、心の安定や幸福感につながり、それが身体面にも良い影響を及ぼすと考えられます。
さらに、周囲に対する貢献意識が高い人は、自分の成功だけでなく「誰かの役に立ちたい」「社会をより良くしたい」という使命感を持って行動します。この意識が、困難に直面したときの支えとなり、粘り強く取り組む力を後押しします。
感情のコントロールが上手い
GRITが高い人に共通して見られる特徴の一つが、感情のコントロールが上手いという点です。失敗や批判に直面した際にはネガティブな感情を完全に排除するのではなく、それを受け止めた上で前向きに変換できる柔軟さを持っています。
また、自己肯定感が高く、自分の感情を客観的に捉える力(メタ認知)があるため、焦りや怒りに支配されにくい傾向があります。
心身ともに健康である
GRIT(グリット)が高い人に共通する特徴のひとつに、「心身ともに健康である」という点があります。やり抜く力を発揮するためには、単に精神的な強さだけでなく、安定した心と体のバランスが欠かせません。
GRIT(グリット)が高い人は、健康的な生活習慣を大切にしており、適度な運動や十分な睡眠、バランスの取れた食事を意識する傾向があります。さらに、心の健康面では、ネガティブな出来事が起きても前向きに捉える「楽観性」や、自分を追い込みすぎない「セルフコンパッション(自分への思いやり)」を持っています。
GRITとストレス耐性の関係
GRIT(グリット)は、困難に直面しても粘り強く目標に向かう「やり抜く力」を指し、ストレス耐性を高める重要な要素です。
GRITを高めるには、①明確な目標設定②小さな成功体験の積み重ね③自己管理④前向きな思考⑤支え合える人間関係がポイントです。さらに、ストレスチェックの結果をもとに、個人の強みや課題を見える化し、GRIT向上施策と連動させることで、組織全体のストレス耐性を高めることが可能です。
GRITを高めるための5つの方法
GRIT(グリット)を高めるには、意識的な習慣づくりと継続的な努力が大切です。
1.興味のあることを見つける・深める
GRITを高める第一歩は、「自分が本当に興味を持てること」を見つけることです。人は好きなことに対して、自然と粘り強く努力できる傾向があります。遊びや日常の中でワクワクする瞬間を大切にし、自分の「好き」を掘り下げてみましょう。たとえば、趣味や副業、学びの分野など、少しでも興味を持てることを継続的に追求することで、「やり抜く経験」を積むことができます。また、周囲の評価や成果よりも「自分が成長を感じられるか」を重視することで、内発的なモチベーションが強化され、継続力が養われます。
2.挑戦する目標を立てる
GRITを育てるには、「少し背伸びをする」挑戦も必要です。大きすぎる目標は挫折につながるため、「今より少し難しいこと」に取り組むのがポイントです。
たとえば、資格取得や業務改善、スポーツの記録更新など、現実的で達成可能なレベルの挑戦を積み重ねるとよいでしょう。目標を細分化し、短期・中期・長期のステップに分けることで、小さな成功を積み重ねやすくなります。「やればできる」という自己効力感が高まることで、困難に立ち向かう粘り強さが育ちます。
3.成功体験を積み重ねる
どんなに小さなことでも「できた」という経験を重ねることが、GRITを高める大きな原動力です。たとえば、毎日のタスクをやり切る、苦手なことに少しずつ挑戦するなど、日常の中に成功体験を増やしましょう。失敗したときは「なぜできなかったのか」ではなく、「次はどうしたらできるか」を考える視点を持つことが大切です。この思考の切り替えが、挫折に強く、前向きに行動し続ける力につながります。また、成功を他人と比較せず、過去の自分との成長を評価することで、自尊感情とモチベーションが持続します。
4.長期的な視点を持つ
GRITの本質は「一貫して努力を続ける力」にあります。短期的な結果に一喜一憂するのではなく、長期的な目標を設定することが重要です。
たとえば、「3年後にこのスキルを仕事に活かす」「5年後に独立する」など、未来を見据えた目標を明確にすると、日々の努力がブレにくくなります。また、自分の行動が「社会にどう役立つのか」という目的意識を持つことも大切です。仕事であれば「お客様の笑顔のために」「地域の発展のために」といった視点を持つことで、モチベーションを長期的に保ちやすくなります。
5.周囲から良い影響を受ける
GRITは一人で磨くものではありません。粘り強く努力している人や、前向きに挑戦している人と関わることで、自分の意識も自然と高まります。たとえば、同じ目標を持つ仲間と勉強会を開く、職場で尊敬できる先輩に相談するなど、ポジティブな影響を受ける環境をつくることが効果的です。
人との関わりはモチベーションを維持するだけでなく、自分では気づけなかった成長や課題を客観的に見つめるきっかけにもなります。SNSなどで同じ志を持つ人をフォローすることも、良い刺激になるでしょう。
ストレスチェックとGRITの活かし方
ストレスチェックは、従業員のメンタルヘルスを守るための重要な制度です。
ストレスチェックの結果を分析することで、社員がストレスを感じやすい環境や状況を可視化し、GRITを育てるための具体的な支援策を立てることができます。
たとえば、ストレスチェックの結果で「プレッシャーが多い」「上司との関係に不安がある」といった傾向が見えた場合、それを放置せず、GRITを育む研修や1on1面談に結びつけます。従業員がストレスの原因を客観的に理解し、困難をどう乗り越えるかを考える機会にするのです。具体的には、「短期的な成果ではなく長期目標を設定する」「達成までの小さな成功体験を積み重ねる」など、GRIT向上のための実践が有効です。また、管理職向けには、部下の努力をプロセスごと評価する仕組みを導入することで、挑戦し続ける風土を作ることができます。ストレスチェックとGRITを掛け合わせることで、従業員の「心の健康」と「挑戦する力」を同時に育む、持続的な組織づくりの実現が期待できます。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
GRIT(やり抜く力)を育てるためには、挑戦を恐れず継続的に努力できる環境づくりが欠かせません。企業としては、失敗を許容する文化や、努力のプロセスを評価する制度を導入することが効果的です。また、目標設定やフィードバック面談を通じて、従業員一人ひとりの「達成体験」を積み重ねる支援も重要です。加えて、ストレスチェックを活用すれば、挑戦の過程で生じる心理的負担を早期に把握し、過度なストレスでモチベーションを失わないようサポートできます。組織全体で心の状態を定期的に可視化し、GRITを持続的に発揮できる環境を整えることが、成果と人材育成の両立につながります。
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