
企業において、離職防止は非常に重要な課題です。従業員が辞めるたびに新たな採用や教育に多大なコストがかかりますし、離職が続けば企業のイメージや採用力にも影響し、優秀な人材確保がますます難しくなってしまいます。
この記事では、従業員が離職する主な原因や、ストレスチェックを活用したメンタルケアや働きやすい環境づくりなど、離職防止の取り組みについてご紹介します。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
なぜ離職防止が企業にとって重要なのか
企業にとって、「離職防止」は経営を安定させるうえで欠かせないテーマです。人材不足が深刻化する中、優秀な従業員が辞めてしまうことは採用コストや教育コストの損失だけでなく、職場の生産性低下やモチベーションの低下にも直結します。さらに頻繁な離職は企業のブランドイメージや採用力にも影響を与え、長期的な成長を妨げかねません。
そのため、働きやすい職場環境づくりやメンタルヘルス対策、キャリア支援など、従業員が安心して働き続けられる仕組みを整えることが今の時代に求められています。
離職によるコスト増のリスク
企業にとって離職が増えることは、単に人材を失うだけではなく、さまざまなコスト増のリスクを抱えることにつながります。
まず大きな影響が出るのが、採用コストです。求人広告や人材紹介会社への依頼費用、面接や選考にかかる時間的コストは決して小さくありません。
さらに採用後には教育・研修コストが必要になることもあります。新人が業務に慣れるまでの間はフォローが必要になることも多く、生産性の低下につながりかねません。
こうした直接的なコストだけでなく、離職が続くと残された従業員の負担が増し、モチベーション低下やメンタル不調を引き起こし、さらなる離職につながる悪循環が生まれることもあります。
また、定着率の低さは「働きやすい職場ではない」という印象を与え、企業の評判や採用力の低下にも影響します。結果として優秀な人材が集まりにくくなり、長期的には競争力を損なうリスクも高まります。
人材定着率の向上は生産性を高める
人材定着率の向上は、企業の生産性を高める上で極めて重要なポイントです。従業員が長く働き続けられる環境が整っていれば、業務知識やスキルが蓄積され、組織全体のパフォーマンスは自然と向上します。
逆に離職が多い職場では、経験豊富な人材が流出し、そのたびに採用や教育にコストをかけなければならず、育成途中で辞められてしまえば投資も無駄になります。
さらに人材の入れ替わりが頻繁だと、チームワークや社内コミュニケーションに支障をきたし、結果として生産性が落ち込むリスクが高まります。
一方で定着率が高い組織では、従業員が安心して働けるためモチベーションが維持され、挑戦意欲や主体性も高まりやすくなります。また、職場の雰囲気が安定することで新しい人材も馴染みやすく、採用面での魅力も増します。
従業員が離職する主な原因
従業員が離職する主な原因として多いのは、人間関係や職場環境に起因するストレスです。上司や同僚との不和、職場の雰囲気の悪さは、日々の働きにくさに直結します。また、長時間労働や給与・福利厚生への不満といった待遇面も大きな理由の一つです。業務内容が自分に合わない、成長を感じられないといった状況もモチベーション低下につながり、離職のきっかけになります。
人間関係や職場環境のストレス
従業員が離職する大きな要因の一つが、人間関係や職場環境に起因するストレスです。
人間関係のトラブルは日常的にストレスを生みやすく、上司のマネジメントスタイルが合わない、同僚とのコミュニケーションがうまくいかないといった問題は、業務そのものにやりがいを感じられなくなってしまい、モチベーションを下げる原因となります。
また、職場環境が整っていないことも離職につながります。たとえば、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが放置されている職場、意見を言いにくい閉鎖的な雰囲気、過度な競争を強いる社風などは従業員に大きな負担を与えます。さらに、こうした環境下ではメンタルヘルス不調を抱える従業員が増え、業務効率の低下や他の従業員への負担増加といった悪循環が起こることも少なくありません。
労働時間や待遇への不満
従業員が離職する原因の中でも多いのが、労働時間や待遇への不満です。
長時間労働が常態化している職場では、心身への負担が大きくなり、ワークライフバランスを保つことが難しくなります。過度な残業や休日出勤が続けば、疲労の蓄積だけでなく家庭やプライベートへの影響も避けられず、結果的に「続けられない」と判断してしまい、結果として離職につながります。
また、給与や賞与、福利厚生といった待遇面への不満も、重要な離職要因です。同業他社や市場水準と比較して処遇が低いと感じると、従業員は「自分を正当に評価してもらえていない」と受け止めやすく、やる気や忠誠心を失ってしまいます。
業務の内容
仕事の内容が自分の能力や適性と合わないと感じたり、やりがいや成長を実感できなかったりといった状況が続くと、従業員のモチベーションは低下しやすくなります。
たとえば、単調な作業が多くスキルアップにつながらない場合や、逆に過度に難しい業務を任されてサポートが不足している場合、従業員は「このまま働き続ける意味があるのか」と疑問を持ちやすくなります。
また、担当業務が不明確で役割が曖昧だと責任範囲が不透明になり、ストレスの原因となることもあります。
離職防止のための取り組み
離職防止のためには、従業員が安心して働き続けられる環境づくりが欠かせません。リモートワークや時差出勤など柔軟な働き方を推進することで、ワークライフバランスを保ちやすくなります。また、努力や成果を正しく反映する人事評価制度の整備も重要です。さらに、パワハラやセクハラを防ぐための体制を整え、職場の安心感を高めることも求められます。
加えて、ストレスチェックを活用して従業員の心身の状態を把握し、早期にサポートすることで、離職防止につながります。
柔軟な働き方の推進
離職防止のための取り組みとして大きな効果を発揮するのが「柔軟な働き方の推進」です。従業員がライフステージや状況に合わせて働ける環境を整えることで、長期的に働き続けやすい職場になります。
たとえば、リモートワークや時差出勤制度を導入することで、通勤ストレスを軽減し、家庭や育児との両立を支援する企業が増えています。
あるIT企業では在宅勤務を基本とし、週に数回だけ出社する仕組みに切り替えた結果、通勤時間が削減され従業員のワークライフバランスが改善、結果として離職率が下がったという事例もあります。
また、子育てや介護を担う従業員には短時間勤務やフレックスタイム制を活用できるようにし、ライフイベントに応じて働き方を調整できる制度を設けたことで、キャリアを諦めずに働き続けられる環境が実現できたというケースもあります。
柔軟な働き方は単なる福利厚生ではなく、従業員のストレスを減らしエンゲージメントを高める離職防止の戦略的施策といえます。
適切な人事評価
離職防止のための取り組みとして欠かせないのが、「適切な人事評価」です。
努力や成果が正しく評価されないと従業員のモチベーションは下がり、「ここでは成長できない」「報われない」と感じてしまいます。逆に、透明性が高く公正な評価制度を整えることで、従業員は安心して仕事に打ち込むことができます。
たとえば、あるメーカーでは従来の年功序列型評価から成果とプロセスの両面を見る評価制度へと変更しました。具体的には、数値目標の達成度に加え、チーム貢献や業務改善への取り組みも評価項目に加えました。
その結果、従業員の納得感が高まり、社内アンケートでは「評価が以前よりも公正になった」と感じる従業員が増え、離職率の低下につながりました。
また、定期的なフィードバック面談を行い、キャリア形成やスキル向上の方向性を明確にすることも重要です。適切な人事評価は単なる処遇の基準ではなく、従業員のモチベーションを高め、長期的な定着と企業の成長を支えます。
ハラスメント対策など
職場におけるパワハラやセクハラ、マタハラといった問題は、従業員に深刻な精神的ストレスを与え、結果的に離職の大きな原因となります。
こうしたリスクを防ぐためには、企業として明確な方針を打ち出し、相談窓口の設置や研修を通じて従業員に周知することが不可欠です。
たとえば、ある大手企業では社内に匿名で相談できる窓口を設け、相談内容を第三者機関とも連携しながら迅速に対応する体制を構築しました。その結果、従業員が安心して声を上げられる環境が整い、早期対応によって深刻化を防ぐことができました。また、管理職に対してはハラスメント防止研修を定期的に行い、マネジメントスキルとともにコミュニケーションの質を高める取り組みを進めています。
こうした対策は「従業員を大切にする会社」という信頼感を醸成し、人材の定着率向上につながります。ハラスメント対策は単なるリスク回避にとどまらず、安心して働ける職場文化を築くうえで欠かせない施策です。
ストレスチェックの活用
「ストレスチェックの活用」は、従業員のメンタル不調を早期に把握し、適切に対応することで離職リスクを下げ、働き続けやすい環境を整えることができます。
早期発見とフォローアップ
ストレスチェックを定期的に実施することで、従業員が抱えるストレスを早い段階で把握できます。たとえば、あるIT企業では結果をもとに面談を実施し、必要に応じて産業医やカウンセラーと連携したところ、休職者が減少しました。
組織改善への活用
個人の状況把握だけでなく、部署ごとの集計結果を分析することで「業務量が偏っている」「上司とのコミュニケーション不足が多い」など組織的な課題を見つけられます。改善施策を導入した企業では、職場の満足度が上がり定着率向上につながった事例もあります。
安心感の醸成
ストレスチェックの実施は「従業員の健康を大切にしている」というメッセージにもなり、従業員の信頼感やエンゲージメントを高めます。
ストレスチェックを単なる義務として終わらせず、フォロー体制や組織改善に結びつけることが、離職防止に直結する鍵です。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
離職防止は、人材不足が深刻化する今の時代に企業が安定的に成長していくための重要なテーマです。
従業員の離職は採用や教育のコスト増だけでなく、生産性低下や企業イメージの悪化にも直結します。そのため、柔軟な働き方の推進や公正な人事評価、ハラスメント防止、そしてストレスチェックの活用など、多角的な取り組みが欠かせません。従業員が安心して長く働ける職場を整えることは、定着率を高めるだけでなく、組織全体の競争力を向上させる大きな鍵となります。
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