高度プロフェッショナル制度は、2019年に施行された「働き方改革」関連法案により創設された新しい働き方の仕組みです。高度の専門知識を有し、一定水準以上の年収の労働者が労働法の規定適用除外となります。
目次
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは、一定の要件を満たした労働者に対して、労働法が規定する労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金などに関する規定の適用を除外するものです。
これはアメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」を参考にした制度といわれています。アメリカではメリハリのある効率的な働き方を実現させることを目的に、高額の年収を得るアナリスト、コンサルタント、研究開発者などの専門職を対象とした制度となっています。
ただし健康面などでリスクがあることから、制度を導入するためには一定の年収要件など、いくつかのハードルが設けられています。
(1)導入には労使委員会の決議と本人の同意が必要
高度プロフェッショナル制度を導入するためには、要件を満たす労使委員会を設置し、以下の①から⑩までの内容について、委員の5分の4以上の多数によって、決議しなければなりません。また、その決議については労働基準監督署に届け出る必要があります。
①対象業務 ②対象労働者の範囲 ③健康管理時間の把握 ④休日の確保 ⑤選択的措置 ⑥健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置 ⑦同意の撤回に関する手続 ⑧苦情処理措置 ⑨不利益取扱いの禁止 ⑩その他厚生労働省令で定める事項 |
(2)対象となる労働者は年収1,075万円以上
対象となる労働者は、年収1,075万円以上が見込まれる者です。労働者の勤務成績、成果等に応じて支払われる賞与や業績給等、その支給額があらかじめ確定されていない賃金はこれに含まれません。
さらに、使用者と対象労働者の間で書面等による個別の合意も必要となります。
対象労働者の要件
①使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること(使用者は業務の内容、責任の程度、求められる成果を明らかにしたうえで合意を得なければならない) ②使用者から確実に支払われると見込まれる1年間当たりの賃金の額が少なくとも1,075万円以上であること |
(3)対象となる業務範囲は限定されている
高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、対象業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けて行うものは含まれません。具体的には、以下の5つが対象業務とされています。
①金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 ②資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務 ③有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務 ④顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務 ⑤新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務 厚生労働省「高度プロフェッショナル制度」 |
(4)割増賃金が適用除外となる
高度プロフェッショナル制度が適用された労働者には、労働時間、休憩、休日、深夜などの規定が適用されません。したがって、会社側は制度が適用された労働者に対して時間外勤務や休日勤務などの割増賃金の支払義務は適用除外となります。ただし、「使用者は、労働者を高度プロフェッショナル制度の対象とすることで、その賃金の額が対象となる前の賃金の額から減ることにならないようにすることが必要である。」という厚生労働省の指針がありますので注意が必要です。
(5)就業規則も見直しが必要
高度プロフェッショナル制度を導入するためには、労使委員会で決議された事項を就業規則でも規定しておく必要があります。就業規則の規定例は厚生労働省が作成した「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」の中に掲載されているので、そちらを参考にするのも良いかもしれません。
高度プロフェッショナル制度導入の注意点
高度プロフェッショナル制度を導入するためには、まず運営規程を定めた労使委員会を設置し、決議すべき事項について委員の5分の4以上の多数による議決が必要であり、その決議を労働基準監督署長に届け出なければなりません。また、対象労働者へは制度の適用となることについて、個別に合意を得る必要があります。
(1)健康管理時間の把握
高度プロフェッショナル制度の適用労働者は、労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金などに関する規定が適用除外とされますから、タイムカードなどで労働時間の把握をする必要はないと思われるかもしれません。しかし、労働時間を把握しなければ長時間労働につながる恐れもあります。
そこで労働者の健康管理を行うために、労働者が会社にいた時間と社外で労働した時間の合計時間(健康管理時間)を把握できる客観的な方法を労使委員会で定め、それを会社が実施しなければならないとされています。
客観的な方法とは、タイムカードやパソコンの起動時間等を基礎とした出退勤時刻または入退室時刻の記録が該当します。ただし、やむを得ない理由がある場合には労働時間の自己申告が認められることもあります。
(2)一定期間の休日付与
高度プロフェッショナル制度の適用労働者に対しては、1年間を通じて「104日以上」かつ「4週間を通じて4日以上の休日」を労使委員会の決議および就業規則(その他これに準ずるもの)で規定して会社が付与しなければなりません。
これは労働法の休日に関する規定が適用されないことから、労働者の健康に配慮したもので、労使委員会の決議では休日の取得の手続を具体的に明らかにすることが必要とされています。
(3)選択的措置
高度プロフェッショナル制度の適用労働者に対しては、以下のいずれかに該当する措置のうち、少なくとも1つ以上を選択して委員会の決議および就業規則(もしくはそれに準ずるもの)で規定して、会社が実施しなければなりません。
①健康管理時間の上限措置 健康管理時間の上限として、1週間当たり40時間を超えた分の健康管理時間を1か月で100時間以内または3か月で240時間以内とすること。 ②勤務間インターバルの確保 ③連続2週間の休暇 ④臨時の健康診断の実施 |
(4)産業医による面接指導が必要なケースも
高度プロフェッショナル制度の適用労働者が厚生労働省令で定める時間を超える労働を行った場合には、医師による面接指導を行うよう義務づけています。長時間労働に該当するか否かは「健康管理時間」で判断します。
(5)行政官庁への報告義務がある
高度プロフェッショナル制度に関する決議の届出をした会社は、厚生労働省令で定めるところにより、措置の実施状況について行政官庁に報告しなければなりません。
届出がない場合には、制度は適用されません。
まとめ
以上、高度プロフェッショナル制度の導入にあたって必要な要件や対象となる労働者や業務、健康管理などについてご紹介しました。
高度プロフェッショナル制度を導入していない事業場でも、50人以上の事業場にはストレスチェックが義務づけられており、高ストレス者と判定された従業員が希望する場合には医師による面接指導を実施することが必要です。
これらのメンタルヘルスケアを実施しないことで、後々安全配慮義務を問われるなどのトラブルに発展するケースも増えています。
メンタルヘルスケアは、国をあげて力を入れている重要施策であり、会社として社会的な責任を負っていることを忘れずにいたいものです。
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