
退職代行サービスの利用者は、20代・30代の若手従業員を中心に「職場に直接言いづらい」「上司に相談しづらい」といった理由から、年々増加しています。
背景には、職場内コミュニケーションの希薄化や、心理的安全性の欠如、過重労働による心身の疲弊など、組織の構造的な課題が隠れています。
この記事では、人事・総務担当者向けに、退職代行を使われないための職場づくりをテーマに、ストレスチェックの活用方法や産業医との連携による予防的アプローチを具体的に紹介します。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
退職代行とは
「退職代行」とは、「トラブルなく辞めたい」「顔を合わせずに退職したい」という従業員が、自ら退職の意思を会社に伝えず、代わりに第三者の業者が退職の手続きを代行するサービスのことです。本人が直接上司や人事に「辞めたい」と言いづらい状況で利用されるケースが多く、ここ数年で急速に広がっています。
企業側から見ると、退職代行の利用は、職場での「相談しづらさ」や「意思疎通の難しさ」が背景にある場合も多く、
従業員が声を上げにくい環境が生まれていないかを見直すきっかけとなります。
つまり、個人の問題として片付けるのではなく、職場のコミュニケーションやマネジメント体制を再点検するサインと捉えることが重要です。
退職代行の仕組みと利用の流れ
退職代行の利用者は、まず退職代行業者に連絡して退職希望日や雇用形態、給与・有給の残日数などを伝えます。その後、業者が代理人として勤務先へ退職の意思を正式に通知し、出社せずに退職を完了させます。
弁護士が対応するケースもありますが、民間企業が対応するケースがほとんどです。
一般的には、申し込みから最短即日で退職可能なケースもあり、連絡以降は本人が職場と直接関わらずに済みます。その手軽さやスピード感から利用者が増えています。
退職代行が増えている背景
退職代行の利用が増えている背景には、現代の職場環境が抱える複合的な課題があります。まず大きいのは、上司や人事に「辞めたい」と言い出しにくい人間関係の問題です。あるいは「引き止められそう」「評価に影響しそう」といった心理的圧力が、直接の退職交渉を避けたい気持ちを強めています。
また、同僚や上司とのつながりが希薄になり、職場への帰属意識が低下したことも要因の一つです。さらに、若手世代を中心に「ストレスを感じたら我慢せず辞める」「無理をしてまで働かない」という価値観が広がり、退職代行のような“気軽に辞められる手段”が受け入れられやすくなっています。
退職代行を利用するのは20〜30代が中心
退職代行サービスを利用するのは、主に20~30代の若手・中堅社員層です。特に新卒から数年以内の社員や、転職経験の少ない層に多く見られます。
背景には、上司への退職申し出に強い心理的負担を感じやすいことや、SNSなどを通じて「退職代行を使えばトラブルなく辞められる」「精神的に楽に退職できる」と感じる人が増えていることも、利用拡大の一因です。
特にSNSを日常的に利用している20代~30代の若手層は、上司や人事と直接対話するよりも、テキストやチャットなどを使って意思を伝えることに慣れています。そのため、「退職の意志を文章で代わりに伝えてくれる退職代行サービス」は、心理的ハードルが低く、自然な選択肢に映るのです。
一方で、近年では40代・50代といった中堅・ベテラン層の利用も増えており、「これ以上我慢したくない」「波風を立てずに辞めたい」と考える人が、退職代行という手段を選ぶ傾向が強まっています。
退職代行を利用する側の問題
退職代行の利用は、確かに「最後の手段」として理解されるべき一面がありますが、頼む側にも課題がないとは言えません。職場に問題があったとしても、退職の意思を直接伝えず第三者にすべてを任せてしまうことは、社会人としての基本的なコミュニケーション能力や責任感を欠いていると受け取られても仕方ありません。退職のプロセスは、自分のキャリアを締めくくる重要な機会であり、誠実に対応することで円満な関係を維持し、次の職場への印象にもつながります。
また、退職代行に依頼すれば確かに手間は省けますが、転職活動での推薦や人脈づくりに悪影響を及ぼすケースもあります。
退職代行を使われる職場の共通点
退職代行を利用されやすい職場には、いくつかの共通点があります。まず、「上司に相談しづらい職場の空気」があります。
次に、チーム内での孤立感や業務過多による「過負荷」「無力感」を抱く人が多い職場です。サポート体制がなく、仕事を抱え込む状況が続くと、心身が限界に達する前に“退職代行で一気に辞めたい”という選択をしてしまうことがあります。また、人事面談や評価面談が「形式的」で終わってしまい、社員の悩みや不満を拾い上げる機会になっていない職場や、組織全体が常に忙しく、管理職や同僚に「人の話を聞く余裕」がない職場も要注意です。
上司に相談しづらい職場の空気
「上司に相談しづらい職場の空気」は、退職代行を使われてしまう職場に共通する大きな要因の一つです。上司との関係性が希薄だったり、日常的にコミュニケーションが少なかったりすると、部下は「本音を話しても無駄」「どうせ理解されない」と感じてしまいます。さらに、上司が忙しく常にピリピリしている、ミスを叱責する場面が多い、部下の意見を聞く姿勢が見えないといった状況では、授業印は萎縮し、相談どころか日常会話すら避けるようになります。その結果、問題が深刻化しても誰にも打ち明けられず、退職を決意したときには「もう直接は言いたくない」「代行を通じてでも早く終わらせたい」と感じるようになるのです。
孤立・過負荷・無力感を感じる環境
社員が「孤立」「過負荷」「無力感」を感じる職場では、退職代行を利用されるリスクが高まります。
孤立とは職場内での人間関係が希薄になり、相談相手がいない状態を指します。「自分だけが苦しんでいる」「助けてくれる人はいない」と感じると、精神的に追い詰められてしまい投げやりな気分になりがちですし、業務量が偏って過負荷な状態が続くと、疲労とともに「努力しても報われない」という無力感が強まり、退職の決断を後押しします。このような状況では、上司や同僚が声をかけるタイミングを失い、気づいたときには退職代行から連絡が来る、という事態も少なくありません。
形式的な面談に終始している
形式的な面談しか行われていない職場は、退職代行を使われやすい環境の典型です。
本来、面談は社員の本音を引き出し、仕事上の悩みや不安を共有する大切な場ですが、実際には「決められたシートを埋めるだけ」「評価を伝えるだけ」といった形式的なやり取りで終わってしまうケースが少なくありません。従業員にとっては、何を話しても変わらない、意見を出しても改善されないという失望感が積み重なり、職場への信頼を失っていきます。その結果、退職を決意しても「どうせ聞いてもらえない」と感じ、上司や人事に伝えず退職代行を利用してしまうのです。面談を「義務」ではなく「対話の機会」として機能させることが、退職代行を使われない職場づくりの第一歩になります。
組織全体が忙しく心の余裕がない
慢性的な人手不足や長時間労働が常態化している職場では、社員一人ひとりが「自分が抜けたら周りに迷惑がかかる」「でもこのままは限界」と板挟みになり、最終的に直接言い出せず退職代行に頼るケースが増えます。
特に管理職自身が余裕を失っていると、部下の変化に気づいても「今は無理」と後回しにしてしまいがちです。職場全体に余裕を取り戻すためには、業務の分担見直しや人員配置の最適化に加え、「話を聞く時間」を意識的に確保することが重要です。
退職代行を使われないための具体策
退職代行を使われない職場づくりには、社員との信頼関係を日常的に築くことが欠かせません。まず、定期的な1on1面談を実施し、評価や報告の場ではなく「本音を話せる時間」として機能させましょう。
また、「声かけ」や雑談といった日常のコミュニケーションも大切です。
さらに、ストレスチェックを単なる義務として終わらせず、“組織改善ツール”として活用することも重要です。個々の結果だけでなく部署ごとの傾向を分析し、業務量や人間関係などの課題を明らかにすることで、問題の早期発見につながります。
定期的な1on1面談で信頼関係を築く
退職代行を使われない職場をつくるためには、「安心して話せる関係」を築くことが重要です。そのために効果的なのが、定期的な1on1面談の導入です。
1on1は単なる業務報告の場ではなく、従業員の悩みやキャリアの希望、働く上での不安などを率直に話せる機会として機能させることが大切です。
上司は“聴く姿勢”を意識し、アドバイスよりもまず共感を示すことが信頼構築の第一歩になります。また、面談を継続的に行うことで、「自分の意見を聞いてもらえる」「困った時に相談できる」という心理的安全性が育まれます。
さらに、面談内容を個人評価に直結させず、フィードバックや組織改善の参考として活用することも重要です。社員にとって“監視”ではなく“対話”の場と感じられるように運用することで、本音を引き出しやすくなります。
「声かけ」や雑談を日常に取り入れる
退職代行を使われない職場をつくるためには、日常のちょっとした「声かけ」や雑談が大きな意味を持ちます。多忙な職場ではつい業務のやり取りだけになりがちですが、「お疲れさま」「ありがとう」といった一言の積み重ねが、従業員の心の距離を縮めます。「自分を気にかけてもらっている」「自分を見てもらっている」と感じやすく、相談や報告もしやすくなります。結果として、退職を決意する前に上司や同僚に悩みを打ち明けるきっかけが生まれるのです。
また、雑談の中で仕事以外の話題を共有することで、職場に温かい雰囲気が生まれ、孤立感やストレスの軽減にもつながります。小さなコミュニケーションの積み重ねが、従業員の心理的安全性を高め、退職代行を使われない“信頼される職場”づくりにつながります。
ストレスチェックを“組織改善ツール”として活用
退職代行を使われない職場づくりには、ストレスチェックを単なる義務ではなく“組織改善のためのツール”として活用することが欠かせません。
ストレスチェックの目的は、個々のメンタル不調に気づくことだけではなく、職場全体のストレス要因を可視化し、改善につなげることにあります。
たとえば、部署ごとの集計結果を分析すれば、特定のチームに業務量の偏りや人間関係の課題があることを早期に把握できます。問題が明確になれば、業務分担の見直しや上司へのマネジメント研修など、具体的な改善策を講じることが可能です。
ストレスチェックを形式的な調査で終わらせず、データをもとに組織の課題を発見し、働きやすい環境を継続的に整備していくことが、退職代行を使われない職場づくりの第一歩となります。
柔軟な働き方と制度改善で不満を減らす
退職代行を使われない職場をつくるには、社員が自分らしく働ける「柔軟な働き方」と「制度改善」が大切です。
たとえば、リモートワークや時差出勤、短時間勤務など、ライフステージに合わせて選べる制度を整えることで、仕事と生活の両立がしやすくなります。また、制度を設けるだけでなく、実際に利用しやすい雰囲気をつくることも重要です。さらに、アンケートや面談を通して現場の声を拾い、評価制度や福利厚生の見直しを行うことで、組織への信頼感が高まり、不満や離職の予防につながります。
早期離職者へのヒアリングで課題を見える化
退職代行を使われない職場をつくるためには、早期離職者へのヒアリングを行い、退職の背景や職場の課題を“見える化”することも効果的です。
入社から1年以内に離職する従業員は、職場環境や人間関係、業務量などに強い不満を抱えているケースが多く、その声をていねいに拾うことで、組織の構造的な問題を早期に発見できます。ヒアリングは、直属の上司ではなく人事担当者など第三者が行うと、本音を引き出しやすくなります。また、「辞めた理由」を個人の問題として終わらせず、複数の退職理由を比較・分析することで、共通する課題(マネジメントの不足、成長機会の欠如、過剰な業務負担など)を把握できます。さらに、退職者の意見を組織改善に反映し、その結果を社内に共有することで、「会社が本気で変わろうとしている」という信頼感を醸成できます。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
退職代行を使われない職場をつくるには、制度やルールの整備だけでなく、社員一人ひとりが「安心して話せる」「支え合える」環境を育むことが大切です。背景には、職場での孤立感や上司への不信感、形式的な面談など、コミュニケーション不足が深く関係しています。まずは日常的な「声かけ」や1on1面談など、社員の小さな変化に気づける仕組みを整えましょう。また、ストレスチェックを形式的に終わらせず、組織改善のデータとして活用することも有効です。社員が「ここなら話せる」「理解してもらえる」と感じられることが、退職代行を使う前に相談できる職場づくりにつながります。
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