
職場や飲み会などで、気づけば会話がいつも同じ人の話題に戻っている。そんな場面に心当たりはないでしょうか。
このような「自分語り」は、度が過ぎると周囲にストレスを与え、職場の空気や人間関係、ひいては組織の生産性にも影響を及ぼしてしまうことがあります。
この記事では、「自分語り」とは何か、なぜ起こるのか、そして仕事や日常でどう向き合えばよいのかをご紹介していきます。
監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
目次
自分語りとは何か
「自分語り」とは、会話や場の流れよりも、自分の体験や考えを優先して話してしまう行動を指します。
よくあるのが、議題とは別に自分の経験談に話をすり替えてしまい、相手が求めていないのに体験談を語り始めてしまう場面です。また、相談をしているつもりが、いつの間にか相手の苦労話を聞く側になっている…というケースもあります。
悪意ではなく、無意識に起こる行動
「自分語り」という言葉には、どこかネガティブな響きがありますが、その多くは悪意から生まれるものではありません。むしろ本人は「場を盛り上げているつもり」「役に立つ話をしているつもり」という感覚で話していることがほとんどで、主張というより反射的な行動に近いものです。
人は強いストレスを抱えていたり、自分の立ち位置に不安を感じていたりすると、無意識に「自分はここにいる」「自分にも語る価値がある」と確認したくなります。その結果として、自分語りが前に出てくるのです。
ただ本人にとっては自然な振る舞いでも、周囲から見ると空気を読まない発言に映ることがあります。
会議で話題を自分の体験にすり替える
会議の場で起こる「自分語り」は、本人にその気がなくても、周囲の温度を一気に下げてしまうことがあります。たとえば売上改善の施策を話し合っている最中に、「それ、昔うちの部署でも似たことがあってさ」と切り出し、気づけば10分以上自分の成功談や苦労話が続きます。話している本人は経験共有のつもりでも、会議の目的はいつの間にか置き去りです。
また、議題は新規施策の検討だったはずなのに「それ、昔うちでもやったことがあってね」と誰かが話し始めた途端、スクリーンよりもその人の半生が前に出てくる。最初は参考になる話のようでも、気づけば結論は出ないまま、個人史の共有会になっています。本人は善意で「経験を伝えている」つもりでも、周囲からすると「今その話、必要だった?」というズレが生まれます。
このタイプの自分語りは、発言権を握りたい欲求というより、「知っている」「経験している」ことを示したい無意識の反応である場合が多いです。特に年齢や役職が上がるほど沈黙への耐性が下がり、「何か言わなければ」という焦りが体験談を呼び出します。
結果として会議は前に進まず、他の意見が入り込む余地も消えていきます。
求めていないのに体験談が始まる
「自分語り」が厄介なのは、こちらが頼んでもいないのに、いつの間にか体験談が始まる瞬間です。
たとえば「最近この仕事ちょっと大変で」と軽くこぼしただけなのに、「俺なんてもっと大変だったぞ」と話が切り替わり、そこから延々と武勇伝が続くことがあります。聞き手は共感を求めていただけなのに、気づけば相手の人生ダイジェストを聞く役に回っています。
話している本人は、決して場を奪うつもりはありません。むしろ「自分の経験が役に立つはず」「同じ立場だったから気持ちが分かる」という善意から出ていることが多いのです。ただ、その善意が一歩先に進んでしまい、結果的に相手の話を受け止める前に、自分の物語を上書きしてしまっているというわけです。これが重なると、「この人に話すと話が戻ってこない」という印象が静かに蓄積されていきます。
少し皮肉な話ですが、自分語りが始まった時点で会話の主役はすでに交代していて、相談や雑談のつもりが、いつの間にか一方通行の語り場になってしまうのです。
相談をしているのに苦労話を聞かされる
相談のつもりで話しかけたのに、気づけば相手の苦労話を聞かされている。これも「自分語り」の典型です。
たとえば「最近、部下との関係に悩んでいて」と打ち明けた瞬間、「分かるよ、俺も昔はさ」と話がすり替わり、そこからは長年の上司論や修羅場エピソードが始まります。こちらが欲しかったのは答えや共感なのに、残るのは相手の人生年表だけ、という展開です。
話している本人は「同じ悩みを乗り越えた先輩」として力になりたいつもりでも、無意識のうちに相談者の立場を横取りしてしまいます。結果として、相談者は「自分の話は途中で止められた」という感覚だけが残り、もう一度相談しようという気持ちは静かにしぼんでいきます。
自分語りをする人の心理的背景
自分語りをする人の心理には「自分の価値を確かめたい」という素朴な欲求があります。評価される場が少ないほど会話の中で存在感を示そうとし、承認欲求が反動のように表に出ます。
またストレスが重なると周囲を見る余裕がなくなり、相手の反応より自分の言葉が先に出てしまうこともあります。さらに、SNSで「発信=存在証明」が当たり前になった感覚が、そのままリアルの会話に持ち込まれることもあります。
自己肯定感の低さ
自分語りの背景にあるものの一つが、自己肯定感の低さです。一見すると自信満々に話しているように見えても、内側では「この場にいていいのか」「自分は役に立っているのか」といった不安を抱えていることがあります。その不安を打ち消すために、自分の体験や実績を語り、誰かに聞いてもらうことで安心しようとしているのです。つまり自分語りは、その場しのぎの自己防衛でもあるのです。
たとえば、何気ない雑談の中で相手が話し始める前に自分の成功談を差し込んでくる人がいます。本人にとっては「ちゃんと価値がある人間だ」と自分に言い聞かせる行為ですが、周囲から見ると話題を奪っているように映ります。自信があれば、沈黙や他人の話にも耐えられます。しかし自己肯定感が低いと、会話の主導権を握っていない時間が不安になり、自分の話で空白を埋めようとします。
皮肉なことに、こうした自分語りは、承認を得たい気持ちとは逆に、人との距離を広げてしまうことがあります。安心を求めて話したはずが、「また始まった」と受け取られてしまいます。このズレに気づかない限り、自己肯定感の低さは自分語りを繰り返す原因になり続けます。
承認欲求の反動
自分語りの背景にある「承認欲求の反動」は、意外と静かで分かりにくいものです。本人は声高に評価を求めているつもりはなくても、心の奥では「自分を認めてほしい」「ここにいる意味を示したい」という欲求がくすぶっています。その結果、会話の隙間に自分の話を差し込み注目を取り戻そうとします。
たとえば、誰かが成果を報告すると「それなら自分はもっと大変だった」と話が上書きされる場面があります。本人にとっては張り合っている意識はなく、「負けていない自分」を確認したいだけの場合も少なくありません。承認が足りていない状態では、他人の話は無意識に“比較材料”になり自分語りが反射的に出てきます。
皮肉なのは、承認を求めて話すほど周囲は距離を取り始める点です。注目されたい気持ちが前に出ると、会話は共有ではなく自己PRの場に変わります。自分語りが止まらない人ほど、実は一番「認められていない不安」を抱えているケースが多いのです。
自己中心的で他者視線が弱い
自分語りが止まらない人の背景には、「他者視線の弱さ」があります。いわゆる自己中心的と聞くと強い言葉に感じますが、実際は相手に悪意があるわけではありません。ただ、意識が自分の内側に向きすぎていて、相手の反応や気持ちを拾う余裕がない状態です。会話をキャッチボールではなく、マイクを握る時間だと勘違いしている、と言ったほうが近いかもしれません。
たとえば相手が少し話し始めた瞬間に、「それで思い出したんだけど」と話題を自分の体験に引き戻します。話の軸はいつも自分で、成功談や不満、武勇伝や愚痴が繰り返されます。本人は会話を回しているつもりでも、聞き手の関心や感情は置き去りです。相手が退屈しているサインや、話を終わらせたい雰囲気にも気づきにくくなります。
つまり、主導権を握ること自体が目的になり、誰の話かより「自分が話しているか」が重要になってしまっているのです。自分語りは、自己中心性というより視野が狭くなった結果とも言えます。
SNS的な「発信=存在証明」の感覚
自分語りが増える背景には、SNS的な「発信=存在証明」という感覚の浸透があります。SNSでは、何かを投稿すればすぐに「いいね」やコメントが返ってきます。発信した事実そのものが可視化され、反応の数で自分の存在感が測られます。この仕組みに慣れると、「話すこと=認められること」という回路が、無意識のうちに現実の会話にも持ち込まれます。
職場や雑談の場でも、沈黙は「存在感が薄い状態」に感じられやすくなります。そこで、とりあえず自分の体験を語ってしまうのです。つまり、相手が求めているかどうかより「話している自分」を保つことが優先されるのです。これは自己主張が強いというより、発信を止めると不安になる感覚に近いもので、SNS的なコミュニケーション様式が染みついた結果とも言えます。発信し続けることで自分を保つ…その癖が、オフラインの会話にも顔を出しているのです。
自分語りが続く職場のリスク
自分語りが常態化した職場では、まず会議がやたら長くなります。議題より体験談が優先され、結論は後回しになってしまいます。聞いている側は相づち要員になり、地味にストレスが溜まっていきます。さらに厄介なのは、「どうせ話を奪われる」という空気が広がり、相談や本音が出にくくなることです。結果として、表面上は穏やかでも内側では不満が蓄積します。こうした違和感は、ストレスチェックで数値として表に出ることもあります。
会議が長くなる
自分語りが多い職場で、まず表面化しやすいのが「会議が長くなる問題」です。本来30分で終わるはずの打ち合わせが、なぜか1時間超え。原因はシンプルで、議題が出た瞬間に「それ、昔うちでもあってさ」と個人の体験談が始まるからです。話している本人は場を和ませているつもりでも、聞いている側は時計を見る回数が増えていきます。さらに厄介なのは、誰も止められないことです。「話の腰を折るのは悪い」と空気を読むほど、会議は伸び続けます。結果、結論は曖昧なまま時間切れになってしまい、会議後には「結局、何を決めたんだっけ?」という疲労感だけが残ります。
地味にストレスが溜まる
自分語りが常態化している職場で起きやすいのが、「大きなトラブルではないけれど、確実に削られていくストレス」です。たとえば、朝礼後の雑談やオンライン会議の冒頭で、毎回誰かの昔話や武勇伝が始まるケースです。表向きは和やかでも、内心では「またか」「早く本題に入ってほしい」と感じている人は少なくありません
この手のストレスは、怒りや不満として表に出にくいのが厄介な点です。業務に直接支障が出るわけでもなく、注意するほどのことでもないため、飲み込んでやり過ごしてしまいがちです。その結果、「話を聞く側」だけが静かに消耗していきます。
「相談しづらい職場」になる
自分語りが厄介なのは、相談や雑談の場でも同じ現象が起きることです。「ちょっと聞いてほしい」と切り出した瞬間に、話題が相手の苦労話へすり替わると、「ここでは本音を出しても無駄だな」という感覚が蓄積されます。
たとえば、業務の悩みを上司に相談しようとした瞬間、気づけば武勇伝や苦労話の聞き役に回っているケースです。相談した側は、結局いちばん言いたかったことを口にできないまま席に戻ることになります。
こうした体験が一度ならまだしも、何度も重なると、「ここでは相談すると話を奪われる」「どうせ最後は自分語りになる」という学習が起こります。その結果、軽い不安や違和感の段階で声が上がらなくなり、問題は個人の中で抱え込まれていきます。
特に中小企業では人間関係の距離が近い分、この影響は顕著です。誰かの自分語りが続くだけで相談のハードルが一段上がり、報連相が形だけのものになってしまいます。
ストレスチェックで数値化されることも
自分語りが常態化している職場の厄介な点は、本人たちが「害」だと自覚しにくいのに、ストレスだけは確実に蓄積されることです。そしてそのストレスは、ある日ストレスチェックの数値として現れることがあります。
たとえば、「上司や同僚に相談しにくい」「職場で本音を言えない」といった設問で点数が高く出るケースで原因をたどると、会議や雑談のたびに誰かの体験談や苦労話が長々と続き、話す側より聞く側が消耗している状況が浮かび上がることがあります。本人は良かれと思って語っているだけでも、周囲は“話を遮れない”“相手役を演じ続ける”という小さな負担を抱え続けているのです。
ある職場では、特定のベテラン社員の自分語りが日常化し、若手の高ストレス者割合が年々上昇していました。直接のパワハラや叱責はないのに、数値は悪化していったのです。その理由を聞くと、「話を振られると長くて逃げ場がない」「聞いているだけで疲れる」という声が聞かれました。
自分語りは記録に残りませんが、ストレスは残ります。そしてそれは、意外なほど正直に数字として表に出てくるのです。
ストレスチェッカーとは
「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
ストレスチェックは、自分の心身の状態を客観的に把握するための制度です。数値として現れる結果は、「ストレスフルな状態」に気づくヒントになり、必要に応じて休息や相談を取り入れることで、重い不調や長期休職を防ぐことができます。
自分語りが問題化している職場での対策
自分語りが問題化している職場では、特定の人を責める対応は逆効果になりがちです。まずは個人攻撃を避け、行動や状況に焦点を当てることが重要です。話が脱線した場合は要点にやさしく戻し、「この件はここまでにして、本題に戻しましょう」など、仕事の流れを止めない自然なフレーズを使うことで、空気を悪くせずに軌道修正できます。
個人攻撃をしない
自分語りが問題化している職場は、放置すると会議の長期化や集中力の低下を招き、生産性や職場の雰囲気を大きく損なう要因になります。このような状況への対策として重要なのが、特定の人を責めない姿勢です。相手の性格や人格に踏み込むのではなく、「話が長くなる」「議題から外れる」といった行為そのものに目を向けることで、不要な対立やハラスメントのリスクを避けやすくなります。たとえば、個人名を出さずに、会議の場で「会議は時間内に終える」「発言は議題に沿って行う」といった共通ルールをあらかじめ定め、全員に周知する方法が有効です。行動の基準を共有することで、自分語りを個人の問題にせず、職場全体の改善につなげることができます。
話を要点に戻す
自分語りが問題化している職場では、話を要点に戻すフレーズを知っておくと役立ちます。
自分語りをする人は、共感や驚きといった反応を求めていることが多いため、過度なリアクションは控え、淡々と受け止めることが有効です。「そうなんですね」「勉強になります」と笑顔で返しつつ深く踏み込まず、感情的に投資しない姿勢を意識します。
真面目に聞きすぎず、「この人はいま話したい状態なのだな」と一歩引いて捉えることも大切です。また注意する際は、「自分語りが多い」と相手を指摘するのではなく、「私は業務時間中に私的な話が続くと集中力が落ちてしまう」といったIメッセージで伝えることで、対立を避けながら本題へ戻しやすくなります。
仕事の話題に自然に戻すフレーズ
自分語りが問題化している職場では、相手の気分を害さずに仕事の話題へ戻す工夫が求められます。
重要なのは、話を遮るのではなく、自然に引き継ぐ姿勢です。
「相槌」+「業務への転換」
相手の話を一度受け止めたうえで、「なるほど、それはすごいですね。ところで、例の案件ですが」といった形で業務に接続します。共感を示してから本題に戻すことで、唐突さを抑えられます。
時間を区切る
「あと10分で次の会議準備があるので、手短に確認させてください」と先に制限を伝えると、話を切り上げやすくなります。時間や締め切りは、個人を責めずに使える理由になります。
要約して業務の結論へ
話を短くまとめ、「つまりこの件は〇〇という理解でいいでしょうか」と整理すると、自然にビジネスの文脈へ移れます。雑談を成果につなげる感覚が大切です。
直接タスクを質問する
「話の途中ですみませんが、昨日のメールの件はどうなりましたか」と、仕事の要件に焦点を戻す方法です。やや直球ですが、迷ったときに有効です。
いずれの場合も、笑顔で少し明るいトーンを意識し、相手の感情を一度肯定してから切り出すことで、関係性を保ちながら仕事に戻しやすくなります。
監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹
【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹
オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。
まとめ
ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
自分語りが多い職場では、表立ったトラブルがなくても、聞き役に回る人のストレスが少しずつ積み重なります。会議が長引いたり、相談しづらい空気が生まれたりしても、日常の一部として見過ごされがちです。こうした「言語化されにくい負担」は、ストレスチェックで初めて可視化されることがあります。
ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。
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