
現代型うつ病は、近年メディアでも頻繁に取り上げられていますが、専門家の間では「ディスチミア親和型うつ病」や「未熟型うつ病」と呼ばれることもあります。
比較的若い世代に多く見られ、従来型のうつ病が真面目で責任感の強い性格の人に多いのに対し、現代型うつ病は自己中心的で対人ストレスへの耐性が低い傾向があります。仕事がうまくいかない原因を自分ではなく上司や同僚など外部要因に求めやすく、結果として周囲との摩擦を生みやすいのも特徴です。
一方で、本人は苦しみを感じつつも「職場には行きたくないが、趣味や友人との活動には参加できる」といったアンバランスな行動を示すこともあり、理解や支援が難しいケースが少なくありません。
監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
目次
現代型うつ病とは
現代型うつ病の1つには「ディスチミア親和型うつ病」と呼ばれるものがあり、「仕事では抑うつ的になったり逃避したりする傾向があるものの、余暇は意欲的に楽しく過ごせる」といった特徴があります。
現代型うつ病について、厚生労働省の「こころの耳」では、以下のように解説されています。
|
この頃聞かれる「現代型」あるいは「新型」のうつ病という名称は、マスコミ用語であり、症状が昔の病気とはいささか異なるうつ病という程度の意味で使われます。この20年ほどの間に気分障害においては、軽症化や非定型化のような病態の変化が、その本態であると考えられます。
現代風な気分障害の診断・治療において、第一の課題になっているのは、多少活発だという程度の軽躁状態です。軽躁状態がおさまった後に抑うつ状態が出現することが多く、一見抑うつ状態を繰り返している反復性うつ病のようにみえます。 第二の課題は、不安症状が強いうつ病や気分障害です。発汗、動悸、息苦しさやパニック発作などの身体症状を前面に出して発症します。 第三の課題は、他罰性が強いことです。「ディスチミア親和型うつ病」や「未熟型うつ病」がこれにあたります。病気になったのは、会社や上司のせいだと主張し、裁判をおこしていることもあります。 第四の課題は、ごく軽度な発達障害の要素をもち、適応障害を起こして、抑うつ状態を呈するケースです。また、就労以前の児童青年期に発症した気分障害や不安障害が、就労とともに再燃し本格発症することにより「抑うつ状態」を呈する症例もあります。 |
(1)現代型うつ病は若い世代に多い
現代型うつ病は、従来のうつ病の枠組みでは説明しきれない新しいタイプの病態で、特に若い世代に増えている傾向があります。
「怠けているのでは」「甘えているのでは」と注意しても、本人は「今はそんな時代ではない」「それはパワハラだ」と反論し、責任を周囲に転嫁するケースも少なくありません。話がかみ合わず、上司が叱責すると翌日から出社できなくなり、「死にたい」と訴えることもあります。
症状自体は軽症であることが多く、企業として「どのように対応すべきか」と悩むケースが増えています。
職場での人間関係トラブルに発展することもあり、単なる休養では改善しにくい特徴もあります。放置すれば重度のうつ病に進行する可能性もあるため、抑うつ気分や意欲低下が続く場合は、早期に専門医療機関を受診し、適切な支援体制を整えることが重要です。
(2)現代型うつ病の主な症状
現代型うつ病の主な症状としては、以下のようなものがあります。
|
現代型うつ病の主な症状 ・発汗、動悸、息苦しさやパニック発作などの身体症状が起きる ・仕事中は抑うつ気分になるが、私生活では元気に過ごせる ・ほとんどのケースで、死にたいとは思わないまでもどこか遠くに行きたくなる ・仕事や学業上の困難をきっかけに、発症することが多い ・良いことがあると元気になり、抑うつ気分の継続はない ・思い込みが激しく、それを守ろうとする意識に思考が振り回される ・他人の評価が気になる ・連休明けや月曜日に、会社を欠勤しがちである ・欠勤すること自体に罪悪感はない ・自分がこのような状態になったのは「会社のせい」だと、他人に責任を転嫁する ・仕事で責任感を感じると、倦怠感や虚脱感に陥る ・失敗すると「教え方が悪い」「教えてもらっていない」など責任を転嫁する ・他人との人間関係がうまくいかないと、「自分に合わせない、相手が悪い」と主張する ・追い詰められると、「自分はうつ病だ」と主張するが、実際にうつ病と診断されると、会社を辞めずに療養中に旅行に行くなど、自由に元気に過ごす ・うつ病になったのは、会社や上司のせいだと主張し、訴訟トラブルにも発展することがある |
現代型うつ病は、「自分は頑張っているのに、仕事がうまくいかないのは、上司・先輩の指導が悪いからだ」と自分自身を顧みることなく、他者非難をする傾向があります。
このような傾向が見られる背景には、高度成長期とは異なる時代背景で、何もかも満たされ不自由なく、いわゆる良い子として過保護に育てられたことがひとつの要因と言われています。
(3)現代型うつ病がもたらす弊害
これまでご紹介してきたような、若い世代に広がる現代型うつ病については、経営幹部や中高年層の管理職から「これだから、ゆとり世代は甘い」「昔の若者のほうが根性があった」といった否定的な評価を受けることも少なくありません。
一方で、厚生労働省や経済産業省、文部科学省などの行政機関においても、「若い世代の社会人基礎力をいかに育成し、持続的に向上させるか」というテーマで審議や検討が続けられています。
ただし、時代や価値観が急速に変化している現代においては、今の若者像もいずれ次の世代から「理解できない」と言われる立場になる可能性があります。
つまり、本質的な解決を目指すには、現代型うつ病の若者を単に「問題」として扱うのではなく、変化の激しい社会の中で、世代間の価値観や働き方の違いを理解し合い、自己と他者のバランスをとれるような支援を行うことが必要あるように思われます。
(4)部下が現代型うつ病と診断されたら
これまでご紹介したように、現代型うつ病者は、仕事のストレスに弱く、他人や会社のせいにするといった他罰的な面が特徴です。責任や負担のかかるような仕事は極力避け、特別なことがない限り残業もしません。
上司が責任のある仕事をするように指導しようとすると、心身の不調を訴えます。また、常に自己保身を考えているので叱咤激励すると「それはパワハラだ」と主張してくることもあります。
このような部下には、「個の主張を改め、ビジネスパーソンとしての責任を果たすように」と指導しても、拒絶されるだけです。
そもそも価値観というものは、育ってきた環境とこれまでの年月のなかで蓄積され形成されたものですから、一朝一夕で変わることは期待できません。
むしろ、押しつけるような指導は反発や不信感を生み、関係性を悪化させる要因になりかねません。
したがって、これまでの指導方法を改め、仕事の分量を減らしたうえで、「いつまでに・何をやるべきか・どのように納品するのか・中間報告、最終報告はどのように行うのか」について、具体的かつ明確に指示をするようにします。
指示をする際には、相手を尊重し励まします。そして、適切に作業が終わったら、評価します。
これを、忍耐強く繰り返します。
その経験を積んでいくうちに、相手は自信をつけ成長していきます。
「そんなこと、言われなくても分かるだろう」「そんな考えはダメだ」と、人格を否定するのは、絶対にNGです。上司が感情面を理解せず、期待する行動を一方的に支持しても、部下は「感情面で理解されない」と感じてしまい、指示に従わなくなってしまいます。
(5)労働トラブルに発展しないよう配慮する
このような現代型うつ病の社員が、実際に医師からうつ病と診断されると、会社の休職制度や公的な給付制度などを積極的に活用し、手続きを進めるケースが見られます。
ところが、療養期間中にもかかわらず旅行や娯楽を楽しむなど、周囲の理解を得にくい行動をとることもあり、現場の管理職が戸惑うことも少なくありません。
さらに、休職期間を満了しても復職せず、やむを得ず会社側が退職を促した場合、「不当解雇だ」「裁判を起こす」と主張して法的トラブルに発展するケースもあります。
そのため、退職を強制するような対応は避け、本人の意向を尊重しながら、産業医や家族とも連携して慎重に支援を進めることが大切です。
上司や人事担当者は、「あなたを必要としている」「また一緒に頑張っていきたい」という姿勢を、言葉と態度で示し続けることが大切です。
(5)現代型うつ病とストレスチェック制度
現代型うつ病は、本人にストレス自覚が乏しいことも多く、周囲の理解や早期対応が難しい傾向があります。ストレスチェックを活用することで、心理的ストレス反応や職場環境要因を客観的に把握し、早期の気づきを促すことができます。結果をもとに産業医面談やカウンセリングにつなげることで、本人の自己理解を深め、再発防止や職場適応のサポートにもつなげることが可能です。
ストレスチェックは、大まかに以下の4つに区分されます。
この4つに区分された項目に回答することで、心身のストレス反応だけでなく、与えられた仕事をどのように捉え、どのような心身のストレス反応が現れたのかを可視化することができます。
現代型うつ病の傾向がある従業員が職場にいる場合、その心理状態や行動が集団分析の結果に大きな影響を与えることがあります。しかし、それを「個人の性格や資質の問題」として片づけてしまうのは適切ではありません。ストレスを抱える従業員は、本人がつらいだけでなく、精神的な不安定さや集中力の低下によってチーム全体の士気や生産性にも悪影響を及ぼす可能性があるからです。
したがって、上司や人事担当者は「相手を尊重し、励まし、適切に評価する」という姿勢を持ち続けることが大切です。こうした支援を継続することで、後ろ向きな思考や過度な自己否定感が緩和され、職場全体の心理的安全性が高まることが期待できます。
また、無用な不満やストレスを防ぐために、「休日の不要な連絡を控える」「管理職やメンターによる定期的なフォロー体制を整備する」など、組織としての明確なルールづくりと運用の工夫も欠かせません。
現代型うつ病の傾向がある従業員だけでなく、若手従業員は、経験値がある上司ほどうまく視野を広げることができません。つい目先の仕事に追われてしまいがちです。そのため、結果的に不安が先立ってしまい想定している以上のストレスを感じながら仕事をしているということがよくあります。
ここで上司の視点を押し付けても、理解を得るのは難しいでしょう。部下自身が気づくためにも、まずは部下の物事のとらえ方を一度受容することが大切です。そのうえで、ストレスチェックの集団分析等を参考に、「部下が何に問題を感じているのか」「目の前の業務をどのように捉えているのか」を理解するとともに、相手を尊重し励まし評価するという指導方法を根気強く続けることが、求められます。
ストレスチェッカーとは
「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
導入や運用の相談は、ぜひお気軽にお問合せください。
まとめ
以上、現代型うつ病の特徴や指導方法、ストレスチェックの活用方法などについてご紹介しました。
現代型うつ病の傾向がある従業員は、そのまま放置しておくと「病気になったのは、会社や上司のせいだ」と主張し、後々訴訟などのトラブルに発展するケースがあります。
従業員自身が自分の課題をよく認識し、考え方や対処の仕方を変えていくことが望ましいですが、訴訟等のトラブルに発展することを回避するためにもストレスチェック等を活用して早期にその傾向を把握し、適切な対処を行うことが必要です。
法人向けストレスチェッカーへのお問合せ
国内最大級のストレスチェックツール「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・大規模医療機関など、幅広い組織で採用されてきた信頼と実績を誇ります。未受検者への自動リマインドやリアルタイム進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場の運用に即した機能を標準装備。さらに2025年5月からは、無料プランやWEB代行プランでも「プレゼンティーイズム(体調不良や心理的負担による生産性低下)」の測定に対応し、欠勤や離職といった深刻化の前段階でリスクを把握し、早期に対策を打つことが可能になります。
社内の実施事務従事者にストレスチェックのシステムをご利用いただく『無料プラン』もございます。導入や運用に関するご相談も、どうぞお気軽にお問い合わせください。
監修:山本 久美(株式会社HRデータラボ 公認心理師)
大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わる中、社内のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

