水原氏に裏切られても大谷翔平のメンタルが強い理由

メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が、日本ハムファイターズ時代からのパートナーである水原一平元通訳に裏切られた事件は、世間を驚かせました。信頼する人に裏切られた大谷選手の心理的ダメージはとても大きかったはずです。
しかし、大谷選手はそのショックを乗り越え、全米トップの打率を記録(2024年4月25日現在)。
この大谷選手の強さは、メンタルコントロールにあるのかもしれません。

この記事では、信頼している人に裏切られた時のメンタルケアをご紹介しながら、大谷選手のメンタルの強さを分析してみます。

被害の拡大を抑えた

ニュース等で報道されているように、水原一平氏は大谷選手に対して、「借金の肩代わりをしたことにしてくれないか」と依頼をしたようです。しかし、大谷選手はその要求を受け入れず、冷静に然るべきところに連絡を入れて、被害の拡大を防ぎました。

信頼する人に裏切られた時に被害の拡大を抑えるために重要なことは、以下の3つです。

第三者の意見を取り入れる
現状維持バイアスを捨てる
深追いしない

第三者の意見を取り入れる

信頼している人に「何とか助けてくれないか」と言われると、それを受け入れてしまう人もいるでしょう。しかし、これは絶対に避けるべきです。
ただし心理的ダメージを受けている時は、冷静な判断をするのが難しいので、自身で判断せず信頼できる第三者の判断を仰ぐのも一つの手です。
大谷選手も、水原氏から依頼をされた時、まず代理人に連絡をしました。
自分自身で結論を出さずに、第三者に間に入ってもらったうえで、冷静に現状分析をしてもらった大谷選手の冷静で適切な行動は、結果として被害の拡大を防ぎました。
もしこの時このような行動をとらずに被害が拡大してしまえば、さらに心理的ダメージも広がり、それを癒すのにも時間がかかってしまっていたでしょう。大谷選手の的確な判断と迅速な行動は、被害の拡大だけでなく、結果的に心理的ダメージをこれ以上広がることを回避できたということになります。

現状維持バイアスを捨てる

人間は悪いことがあった時に、それ以上に悪い状況になることを避けるために現状維持を目指そうとする現状維持バイアスが働きます。
今回の大谷選手の件で例えれば、「水原さん以上に優秀な通訳が現れないかもしれないので、今回の件は水に流して引き続き仕事をお願いしよう」というのが現状維持バイアスによる思考です。

しかし、ギャンブル依存症である水原さんがその依存症を克服することは、かなり難しいことです。専門家の力を借りずに、家族や友人たちだけの力でどうにかなるものではないのです。
大谷選手は普段から人との距離感を適切に保ち、自分自身のメンタルを守る技術に長けており、それが、現状維持バイアスを捨てることにつながったのかもしれません。

深追いしない

深追いをすると、さらに被害が拡大するリスクがあります。そのため、信頼している人に裏切られた場合は、第三者に状況分析をしてもらい、現状維持バイアスを捨てて深追いしないことが重要です。
依存症の状態が進行すると、問題は周囲に及びます。依存症の進行を食い止めようとする周囲に嘘をついたり暴言を吐いたりすることも珍しくありません。周囲は、この問題で常に悩むようになり、次第に消耗していきます。そして、被害はさらに拡大していたかもしれません。
大谷選手は深追いすることなく、この問題を第三者の手に委ねました。
野球に集中できる時間を確保するために早期に切り替えを行なうためには、これが最善の方法だったといえるでしょう。

自身を責めすぎない

大切な人に裏切られた時に、自身のことを責めてしまう人もいます。しかし、メンタルケアの観点からは、自身を責めず、最初から相手はそういう人であったと割り切ってしまうことが重要です。
しかし、大谷選手は「人は人、自分は自分」という考えをするようです。また、逆境や失敗も楽しもうという姿勢が見られます。
例えば、試合で相手投手の投げ方をその場でマネして参考にしようとする姿勢がある一方で、自分を批判する人については、「あの人には、あの人の立場がある」と他者視点を持ち合わせています。
同じように大切な人に裏切られた時でも「人は人、自分は自分」と考え、自身のことを責めるようなことはしなかったのではないでしょうか。このような他者視点を持ち合わせたことで、メンタルへのダメージが最小限に抑えられたのかもしれません。

人に裏切られた時にメンタルへのダメージを抑えるマインドセット

大切な人に裏切られた時のメンタルケアの方法をいくつか紹介してきました。次に、事前にメンタルへのダメージを抑えるためのマインドセットを3つ紹介します。

期待しすぎない
他人を信頼しすぎない
信頼できる人間関係を複数作る

期待しすぎない

他者に対する最初の期待が高いと、それを裏切られた時のメンタルへのダメージは大きくなってしまいます。
海外などで、後で返すのでお金を少し貸して欲しいという寸借詐欺があります。返ってくると思って貸したのに返って来なければ、おそらく落胆するはずです。一方で、どうせ返ってこないと期待していなければ、実際に返ってこなくてもそれほどダメージは受けないでしょう。
大谷選手のように「人は人、自分は自分」というように、他人に過度に期待をし過ぎないマインドを持っていれば、その期待が裏切られた時のダメージを最小限にすることができます。

他人を信頼しすぎない

普通のアスリートは、オフの時間は遊んでリフレッシュする人も多いものですが、大谷選手は、オフの時間も野球のことを考えるタイプ。これが結果的に、口座管理等に無頓着な状態を招いてしまったともいえますが、精神科医の立場からすれば、他人は100%信用してはいけません。どんな関係性であったとしても、全面的に相手を信用するのは危険です。
他人が何かやらかしても、なんとかなるような体制を整えておけば、たとえ人に裏切られたとしても、メンタルをコントロールすることができるようになります。

信頼できる人間関係を複数作る

大谷選手は信頼できる代理人を呼び、事実確認をすぐに行ったので、被害の拡大を防ぐことができました。
信頼できる人間関係を複数作ることができれば、万が一ある人に裏切られたとしても、別の人に状況分析をお願いしたり、相談したりできます。信頼できる人が複数いれば、万が一裏切られたとしても、多少はメンタルへのダメージを抑えられるものです。
加えて、メンタルの重要性を知っている最愛のパートナーを得られたタイミングであったことも、大谷選手にとってはダメージを最小限に抑えられた大きな原因になったことでしょう。

信頼していた人に裏切られた時のメンタルケア

信頼していた人に裏切られたとしても、感情的に行動するのは危険です。冷静に対処できる自信がない人は、他の信頼できる人に状況分析をお願いするのが良いでしょう。被害を拡大させないためにも、深追いしないことが重要です。
そして、冷たい言い方のように聞こえるかもしれませんが、他人を100%信じることは避けること。それが結果的には、自分自身のメンタルを守ることにつながるものです。

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家