ハラスメント相談窓口 対応マニュアル/産業医監修

ハラスメント相談窓口は、職場などでの嫌がらせや不当な扱いに悩む人が相談する制度窓口です。
相談者が安心して話せるように、プライバシーの保護と中立性が確保されていることが重要です。社内の人事部門とは別に、外部窓口を設ける企業もあります。
相談方法は対面のほか、電話・メール・オンラインなどがあり、気軽に利用できる環境づくりが効果的です。ハラスメント問題は当事者同士での解決が難しいことが多く、第三者の介入が状況の整理や改善につながります
また、相談内容をもとに職場全体の課題が見えてくることもあり、防止策の検討や社内研修の充実にもつながります。

ハラスメント相談窓口

ハラスメント相談窓口は、職場での嫌がらせや不当な扱いに悩む人の相談を受けるために設けられる相談窓口です。相談窓口の担当者として「相談を受けること」は、日常的な「相談を受ける」という意味合いとは異なり、組織の一員として正式な立場で対応することになります。
友人や家族からの相談は私的なもので法的な関係は伴いませんが、相談窓口の担当者は組織との労働契約に基づき、業務の一環として対応します。外部のカウンセラーであっても、カウンセリングに関する契約に基づいて相談を受けており、そこには一定の責任が伴います。
相談窓口の担当者として対応する際には、私的な相談とは異なる責任の重さがあることを、あらかじめきちんと理解しておくことが重要です。

(1)ハラスメント対策は義務

ハラスメント相談窓口は、法律で対策が義務付けられているハラスメントに関する相談を受け付けるために設置されています。法律での義務化の背景には、ハラスメントが職場で発生しやすいという実情があります。また、ハラスメントに限らず、従業員が301人以上いる組織では、公益通報者保護法に基づき相談窓口の設置と適切な対応体制の整備が義務付けられています。加えて、上場企業ではコーポレートガバナンス・コードにより、内部通報に関する体制の整備が求められています。

(2)外部相談窓口と内部相談窓口のメリット・デメリット

ハラスメント相談には、社内に設置された「内部相談窓口」と、専門機関などに委託する「外部相談窓口」があります。それぞれにメリット・デメリットがあります。

内部窓口のメリットは、相談後の対応がスムーズに進めやすい点です。関係部署と連携しやすく、調査や是正措置も早期に着手できますし、事が大きくなる前に適切な対応ができます。また、相談窓口担当者が職場の事情を理解しやすいため、事情を把握しやすいというメリットもあります。
一方で、相談者が「情報が漏れるのでは」「人事評価に影響するのでは」と感じてしまい、相談しづらいというデメリットがあります。
外部窓口のメリットは、相談者が第三者に安心して話せる点です。守秘義務が明確で、企業から一定の距離があるため、心理的ハードルが下がります。ただし調査や対応には企業側との連携が不可欠であり、社内調整に時間がかかることがありますし、外部に委託するための費用が発生するというデメリットがあります。
また、担当者が企業の内部事情に詳しくないと、初期対応に限界が出ることもあります。
以上から、最近は両者を併用することで安心感と対応力のバランスを取る企業が増えています。

(3)相談窓口を機能させるための研修

相談窓口をしっかりと機能させるためには、①全従業員向けの周知を目的とした研修、②相談を受ける可能性がある管理職向けの研修、そして③相談窓口でのトラブルを回避するための相談窓口担当者向けの研修を行うことが大切です。

① 全従業員向けの周知を目的とした研修
まず重要なのが、全従業員に向けて相談窓口の存在と意義を周知する研修です。これは単に窓口があることを知らせるだけではなく、企業としてハラスメント対策に本気で取り組んでいる姿勢を示す機会でもあります。トップからのメッセージを発信し、なぜ相談窓口が設けられているのか、なぜ積極的に利用してよいのかをしっかり伝えることで、相談しやすい空気をつくることができます。また、相談の流れや、どんなことをどのように話せばよいかといった実際の利用方法についても具体的に説明しておくことで、いざというときにスムーズに活用できるようになります。

② 管理職向けの研修
職場でハラスメントを受けた従業員が最初に相談する相手は、上司であるケースが少なくありません。
そのため、管理職自身が自分の対応可能な範囲を理解し、必要に応じて相談窓口に繋げる判断ができるよう備えておくことが求められます。
相談された内容が職場内の人間関係の調整や軽微なトラブルであれば上司自身の判断で対応することもありますが、より深刻で複雑なケースについては自分一人で抱え込まず、相談者と一緒に相談窓口を利用することが望ましいケースも多々あります。また、相談してきた部下の様子に明らかな元気のなさや違和感がある場合には、メンタルヘルスの不調が関係している可能性もあるため、そのような視点を持って対応するための知識も必要です。

③ 相談窓口でのトラブルを回避するための相談窓口担当者向けの研修
担当者は、相談内容を受け止め、行為者や第三者の聞き取りを行い、必要であれば事実認定を行うという業務の中心を担います。場合によっては、事実確認の結果に基づいて改善策や是正措置の提案・実行まで関与することもあります。
外部機関に委託している場合には、一定の範囲で内容を企業側に報告するかどうかなど、契約に基づいた対応も求められます。
内部窓口では、企業の規程に基づき、より踏み込んだ調査や判断を行う場面もあるため、その責任の重さを理解し、適切な対応ができるよう訓練しておくことが大切です。

このように、全体的な研修のバランスと、それぞれの立場に応じた内容をていねいに整備することが、相談窓口を「あるだけ」で終わらせず、安心して使える仕組みに育てていくカギとなります。

ハラスメント相談者への対応

ハラスメント相談者への対応では、信頼関係がとても大切です。相談者は、心身ともに不安や緊張を抱えた状態で、自分の体験や気持ちを打ち明けることになります。そんなときに、対応する側がていねいに耳を傾け、守秘義務や誠実な対応を示すことで、相談者は「話しても大丈夫だ」と感じることができます。信頼がなければ、真実を話せなかったり、途中で相談をやめてしまったりすることもあります。対応の第一歩は「安心できる相手」になることです。

(1)相談窓口の対応時間

相談窓口の対応時間は、組織の体制や人員に応じて現実的な範囲で設定されることが多く、必ずしも長時間対応できるとは限りません。外部に委託している場合は、24時間365日体制で受け付けているケースもありますが、内部で運営している場合は、通常の就業時間内での対応が基本です。
相談1回あたりの対応時間は、おおむね60分程度を目安としつつ、内容や状況に応じて柔軟に対応することが大切です。話しきれない場合は延長することももちろん考えられますし、相談者の気持ちが整っていないようなときは日を改めて再度実施するなど、無理のない範囲で対応することが望まれます。
相談を受ける側が時間に追われて焦ると、相談者の気持ちをしっかり受け止めることが難しくなります。あらかじめ想定できる時間を周知しつつも、状況に合わせて柔軟な姿勢を保つことが信頼につながります。

(2)相談(ヒアリング)を受ける場所

相談やヒアリングを行う際には、相談者のプライバシーをしっかり守れる静かな場所を選ぶことが大切です。できれば普段の執務スペースとは離れた場所の方が、相談者も安心して話しやすくなります。社内でそのようなスペースの確保が難しい場合には、外部の時間貸し会議室などを活用するのも一つの方法です。
部屋の広さは、広すぎても落ち着かず、狭すぎても圧迫感があるため、ちょうどよいサイズ感が求められます。相談者との距離感も意識し、近すぎず遠すぎず、自然に話ができる位置関係を意識するとよいでしょう。また、無機質な空間よりも、観葉植物や柔らかい照明などがあると、少し緊張が和らぎやすくなります。相談者が安心して気持ちを話せるように、環境づくりにも配慮します。

(3)あらかじめ相談記録票を用意しておく

相談やヒアリングの際には、あらかじめ相談記録票を用意しておくことが重要です。そして、相談者に対して相談内容の記録をとることを伝えたうえで、ヒアリングを始めます。
これは、聞き漏らしを防ぎ、必要な情報を的確に記録するためのものです。記録には、個人のスマートフォンや私物のノートなどは使わず、業務として適切な記録媒体を使用するようにします。相談内容には個人情報が含まれるため、取り扱いには十分注意が必要です。また、ハラスメントによるメンタル不調が労災と認められるかどうかを判断する場面では、この相談記録票が労働基準監督署や裁判所で確認されることもあります。相談者の話はあくまでその人の視点から語られるものであり、事実そのものとは異なる可能性もあるため、客観性にも気を配る必要があります。なお、厚生労働省が公開している「相談受付票」は、記録票を作成する際の参考になります。
参考:厚生労働省 あかるい職場応援団 公式サイト/相談受付票

(4)相談者への対応の仕方

相談者への対応では、まずヒアリングに応じることができる状態かどうかをていねいに確認する必要があります。相談者は当時の状況を具体的に思い出すことになり、精神的に負担がかかる可能性があるからです。話すことでフラッシュバックが起こることもあるため、もし途中で気分が悪くなった場合には遠慮なく知らせてほしいとあらかじめ伝えておくと安心です。
また、目線が定まらない、話の内容がまとまらないなどの様子があれば、すでにメンタルヘルス不調を抱えている可能性もあります。さらに、自傷や他害につながるような発言が見られた場合には、必要に応じて警察や専門機関への連絡も視野に入れましょう。相談窓口担当者自身の安全と健康も大切な要素であることを忘れずに、慎重な対応を心がけることが求められます。

(5)相談を聞く時の態度、服装など

相談を受けるときには、相談者が安心して話せるような雰囲気づくりがとても大切です。まず、表情は穏やかに保ち、相手の話にていねいにうなずくなど、しっかり受け止めているという姿勢を示すことが基本です。
腕や足を組むと威圧感や拒絶感を与えかねないので避けましょう。「聞いてあげている」というような上からの態度もNGです。親身になって向き合うことが求められます。

服装についても配慮が必要です。派手なネクタイや目立つアクセサリー、華やかすぎる服装は避け、落ち着いた色合いで、シンプルな服装を心がけるとよいでしょう。
相談者の話を引き出すことに集中しすぎて、無理に深掘りしようとしたり、詰問のような言い方になったりするのは避けなければなりません。あくまで相談者のペースで話してもらい、必要以上に問い詰めるような姿勢は取らないことが大前提です。

また、「それはハラスメントです」「それはハラスメントではないです」といった個人的な判断を、口にするのも避けるべきです。窓口はあくまで話を聞き、必要に応じて社内の対応部門につなぐ役割にとどまるため、その場で結論を出すような発言は控えましょう。相手にとってはセカンドハラスメントと感じられる可能性があります。
相談の終わり方にも注意が必要です。話を一方的に切り上げるのではなく、「これまでのお話を記録票にまとめさせていただきます」と伝えたうえで、記録票の内容を一つひとつ一緒に確認していきましょう。話した内容が正しく伝わっていることを確認することで、相談者の安心感にもつながります。
最後に、今後の対応の流れについてていねいに説明し、「結論まで少し時間がかかる場合がありますが、途中でも状況はご連絡します」と伝えておくと、相談者が経過を不安に思わず待てるようになります。信頼関係を築くためにも、相談の入りから終わりまで、ていねいな姿勢を貫くことが大切です。

ハラスメント行為者への対応

ハラスメントの行為者への対応をする場合には、厚生労働省の「あかるい職場応援団」で公開されている「行為者聞き取り票」が参考になりますので、活用をおすすめします。
参考:厚生労働省 あかるい職場応援団 公式サイト/行為者聞き取り票
行為者の多くは、自分の行動がハラスメントだという自覚がない場合もあり、「ハラスメントの聞き取りです」と伝えるだけで強いストレスを感じるものです。そのため、あらかじめ「途中で気分が悪くなったら遠慮なく教えてください」と伝え、もし体調に変化が見られた場合には、無理をせず中断する判断も必要です。

(1)行為者への事実確認

行為者への事実確認を行う際は、まず担当者としての立場や、同席者が記録を取ることを事前にきちんと説明しておきます。ヒアリングで得られた内容が組織内でどこまで共有されるかについても、あらかじめ伝えて理解を得ておくことが大切です。
そのうえで、相談者が申し立てている事実について、実際にそのような出来事があったのかを確認していきます。
行為者が「そんなことはしていない」と否定する場合もありますが、確認は冷静に行いましょう。もし相談者の訴えに該当する場面があったと認める場合には、その具体的な日時や場所、やりとりの内容など、可能な限り詳しく聞き取ります。
また、その場に居合わせた第三者がいたかどうかについても確認しておくと、事実関係の整理に役立ちます。ヒアリングは責める場ではなく、事実を整理するためのプロセスとして丁寧に進めていくことが重要です。

(2)行為者への態度、服装など

行為者への対応でも、相談者と同様に配慮が必要です。まず服装は華美にならないように心がけ、落ち着いた雰囲気で対応することが大切です。ヒアリングの終わりには、一方的に打ち切ったような印象を与えないように、「他に何か話しておきたいことはありますか」と確認の一言を添え、行為者が納得した上で終了するようにします。
聞き取り票の内容すべてを共有する必要はありませんが、特に重要な点については読み上げて確認をとると、後の誤解を防ぐことができます。
行為者は、自分がハラスメント調査の対象となったことに対して、不安や戸惑いなどさまざまな感情を抱いていることも少なくありません。調査の流れや今後の対応についてあらかじめ簡潔に説明しておくことで、多少なりとも安心につながります。あくまで冷静かつ丁寧に、相手の立場に配慮しながらヒアリングを進めていく姿勢が求められます。

(3)第三者への聞き取り

第三者へのヒアリングは、相談者や行為者から聞いた内容について、実際に事実があったのかどうかを確認するために行います。
ただし、聞き取りを行う人数はできるだけ絞ることが大切です。関わる人が多くなるほど情報漏えいのリスクが高まり、相談者や行為者が職場に居づらくなってしまうリスクがあるからです。

第三者に話を聞く際には、自分の発言が原因で報復されたり、不利益を被ったりするのではないかと不安に思う人もいます。そのため、「あなたが不利益を受けることはない」としっかり伝えたうえで、もし報復や嫌がらせと感じるようなことがあれば、すぐに相談窓口に連絡してほしいと伝えることが重要です。安心して話ができるよう配慮しつつ、過度な詮索や誘導を避け、事実確認に集中した冷静なやりとりを心がけましょう。

まとめ

ハラスメント相談窓口は、職場での嫌がらせや不当な扱いに悩む人の声を受け止めるために設置されています。相談を受ける担当者は、友人や家族への対応とは異なり、組織の一員として正式に業務として関わることになるため、一定の責任が伴います。
相談者が安心して利用できるよう、プライバシーの保護や中立性が保たれた体制づくりが不可欠です。対面だけでなく、電話やメール、オンラインなど多様な方法で相談できる環境があると、より利用しやすくなります。個別の相談対応を通じて、職場全体の課題が明らかになることもあり、再発防止や研修内容の見直しなど、組織全体の改善にもつながります。

:参照記事
>35のハラスメント実例と代表的な20のハラスメント

>パワーハラスメント研修|7つの基礎知識

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家