ストレス耐性とは何か?

ストレス耐性とは、仕事や人間関係など外部からの圧力(ストレッサー)や、自分の内面に生じる不安に対して、心身のバランスを保ちながら適応し、適切に対処する力のことです。
トレス耐性がある状態とは、ストレッサーを受けてもストレス反応が過剰にならず、受け止め、処理し、回復する力を発揮しながら健康を維持できている状態です。単に我慢強いことではなく、受容力や対処力、回復力を含めた総合的な力です。
この記事では、ストレス耐性を高めるための食事や対策、そして組織におけるストレス耐性を高める施策をご紹介します。

監修医師:近澤 徹
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役

ストレス耐性とは

ストレス耐性とは、ストレッサーと呼ばれる心理的・身体的な負担を受けたときに、心身のバランスを回復しようとする力のことです。人は日常の中でさまざまなストレッサーにさらされ、それに対して不安や疲労といったストレス反応が生じます。これら3つを総称してストレスと呼びます。
この関係は、心をゴムボールに例えると分かりやすいでしょう。
ストレッサーは、ボールを押さえつける力、ストレス反応は、ボールのゆがみ、ストレス耐性は、ボールの弾力性です。


指で押す力がストレッサー、へこんだ状態がストレス反応です。軽い力であれば元に戻りますが、強い力や長時間の圧迫が続くと、形がゆがみ回復しにくくなります。

適応能力(ストレスに気づく力)

ストレス耐性を考えるうえで重要な要素の一つが「適応能力」、つまりストレスに気づく力です。これは、自分がどのような場面で負担を感じやすいのか、心や体にどんな変化が起きているのかを早い段階で察知する力を指します。ストレスは、気づかないうちに蓄積しやすく、違和感を見過ごしたまま無理を続けると、ストレス反応が強まり回復に時間がかかる原因になります。
一方で、自分の疲労感やイライラ、不調のサインに早く気づければ、休息を取る、相談する、対処法を変えるといった行動につなげやすくなります。

処理・対処能力

ストレスの原因を正しく認識・評価し、効果的な行動によって影響を軽減、または解消する力は、ストレス耐性を高めるうえで極めて重要です。
問題の原因を整理し、解決策を考えて実行する問題解決能力に加え、怒りや不安、悲しみといった感情を自覚し、落ち着いて調整する力が含まれます。また、出来事の捉え方を見直し、現実的かつ前向きに解釈し直す認知的再評価も重要です。さらに、一人で抱え込まず、周囲や専門家に助けを求めるサポート希求も、ストレス耐性を高める実践的な対処能力の一つと言えます。

回復力(レジリエンス)

回復力(レジリエンス)とは、困難や強いストレスに直面して一時的に心身がダメージを受けたとしても、しなやかに立ち直り、元の健康な状態へ戻る力、さらにその経験を糧に前進していく力を指します。
レジリエンスは、語源であるラテン語の「resilire(跳ね返る)」が示す通り、もともとは物理学の概念でしたが、現在では心理学の分野でも重視されています。

容量(キャパシティ)

「容量(キャパシティ)」とは、個人がストレスを受け止め、心身の安定を保てる許容量や限界値を指します。キャパシティが大きいほど、多くのストレッサーに直面しても、不調に陥りにくくなります。
キャパシティはよくコップに例えられ、ストレスが水のように溜まり、あふれると心身の不調として表れます。キャパシティが大きい人は、冷静な判断力や柔軟な思考を持ち、自己肯定感が高く、責任感と完璧主義のバランスを取ることができます。
なお、キャパシティは生まれつき決まるものではなく、気分転換や相談、十分な休養、認知の転換といった日々の行動によって広げていくことが可能です。

ストレス耐性の高い人・低い人

ストレス耐性の高い人と低い人には、ストレスに直面したときの受け止め方や思考の傾向に違いがあります。
ストレス耐性が高い人は、困難な状況に置かれても「この経験から何を学べるか」「成長のきっかけになるかもしれない」と前向きに捉える傾向があります。多少の失敗や想定外の出来事があっても、感情に振り回されすぎず、状況を整理しながら次の行動を考えることができます。
一方、ストレス耐性が低い人は、「失敗したらどうしよう」「評価が下がるのではないか」といった不安を強く感じやすく、その思考が長時間続いてしまいます。その結果、ストレスが蓄積しやすく、心身の不調につながることもあります。重要なのは、これは性格の良し悪しではなく、考え方や対処の違いだという点です。

ストレス耐性を高める6つの基本

ストレス耐性を高めるためには、日々の基本的な習慣を整えることが重要です。まず欠かせないのが睡眠で、睡眠不足は判断力や感情調整力を低下させ、ストレスの影響を受けやすくします。また、適度なウォーキングなどの軽い運動は、気分転換と自律神経の安定に役立ちます。食事面では、マグネシウムやビタミンB群・D、鉄、亜鉛、たんぱく質といった栄養素が、心身の回復や神経機能を支えます。また、完璧主義を手放し、自分の強みや弱みを理解することも大切です。

睡眠はまず基本

ストレス耐性を高めるうえで、最も基本でありながら見落とされがちなのが睡眠の質と量です。睡眠不足の状態が続くと、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、些細な出来事にもイライラしやすくなったり、気分の浮き沈みが激しくなったりします。その結果、冷静な判断や感情のコントロールが難しくなり、ストレスへの処理・対処能力が低下しやすくなります。十分な睡眠は、脳と身体を休ませるだけでなく、日中に受けたストレスをリセットし、心身のバランスを整える重要な役割を果たします。

適度なウォーキング

ストレス耐性を高める方法として、特別なトレーニングよりも取り入れやすいのが、適度なウォーキングです。1999年にアメリカ・デューク大学で行われた研究では、運動療法がうつ症状の改善に効果を示し、場合によっては薬物療法と同等の効果を持つ可能性が報告されています。この結果は、身体活動がストレス耐性を高める実践的な手段であることを裏付けています。ウォーキングなどの運動は、脳の働きに影響を与え、やる気や幸福感に関わるドーパミンや、苦痛を和らげるβエンドルフィンの分泌を促します。習慣的なウォーキングは、うつ病や不安障害のリスク低減にもつながることが示されており、身体的な健康の維持はストレスに強い心身の土台となります。

ストレス耐性を高める栄養素

ストレス耐性を高めるには、心のケアだけでなく、栄養面からのアプローチも欠かせません。神経伝達物質の材料となるトリプトファンを含むたんぱく質に加え、エネルギー代謝や神経機能を支えるビタミンB群、神経の興奮を抑えるマグネシウムやカルシウムが重要です。また、脳の健康を保つオメガ3脂肪酸や、抗酸化作用を持つビタミンC・Eもストレス対策に役立ちます。

たんぱく質
ストレス耐性を高めるために欠かせない栄養素の一つが、たんぱく質です。セロトニンやドーパミンなど、脳内で働く神経伝達物質の原材料は、すべてたんぱく質から作られています。さらに、これらの神経伝達物質を合成し、分解・再利用する過程では、さまざまな酵素が関与しています。十分なたんぱく質が不足すると、神経伝達物質の生成や代謝が滞り、集中力の低下や気分の不安定さにつながりやすくなります。

マグネシウム
マグネシウムは神経細胞のエネルギー産生や、心の安定に関わるセロトニンの生成を支えるミネラルで、不足すると気分の落ち込みや不安感が強まりやすくなります。重度の欠乏では、うつ状態との関連も指摘されていますが、単独で欠乏することはよくあることなので注意が必要です。また、マグネシウムはストレス時に分泌されるホルモンであるコルチゾールの調整にも関与しており、不足すると神経が過剰に興奮しやすくなります。

ビタミンB群
ビタミンB群は、脳内で神経伝達物質を作る過程に深く関わっており、心の安定や集中力の維持を支えています。セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質は、たんぱく質を材料として作られますが、その合成を円滑に進めるためには、ナイアシンやビタミンB6、葉酸などのビタミンB群が必要です。

ビタミンD群
ビタミンDは、セロトニンやドーパミンといった気分や意欲に関わる神経伝達物質をスムーズに作るために欠かせない存在です。主に日光を浴びることで生成されますが、屋内で過ごす時間が長い現代では不足しやすい栄養素でもあります。ビタミンDが欠乏すると、セロトニンの産生が低下し、気分の落ち込みや不安感が強まりやすくなるほか、ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されやすくなることも指摘されています。

鉄分
鉄分は、気分を安定させるセロトニンや、意欲を高めストレスを和らげるドーパミンといった神経伝達物質を脳内で合成する際に、補酵素として重要な役割を果たします。不足するとこれらの分泌が低下し、落ち込みやイライラ、不安感が現れやすくなります。また、鉄分はヘモグロビンの構成成分として、全身や脳へ酸素を運ぶ働きも担っています。酸素不足は疲労感や集中力低下を招き、ストレス反応を強める原因になります。実際に、血中鉄分濃度と女性のメンタル不調との関連を示す研究もあります。

亜鉛
亜鉛は、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質の合成や働きを支える補因子で、心の安定や意欲の維持に欠かせません。亜鉛が不足すると、神経細胞がダメージを受けやすくなり、気分の落ち込みや不安感が強まるなど、ストレスの負のスパイラルに陥りやすくなります。特にストレスが続くと食欲が低下し、食事量の減少によって亜鉛不足が起こりやすい点にも注意が必要です。

完璧主義をやめる

ストレス耐性を高めるうえで効果的なのが、完璧主義を手放すことです。常に高い基準を自分に課していると、達成できなかった点ばかりに目が向き、ストレスが蓄積しやすくなります。
まずは「まあ、いいか」と口に出してみるだけでも、心に余裕が生まれます。減点方式ではなく、できたことを評価する加点方式で考え、「80点で合格」と基準を決めるのも一つの方法です。
また、「~すべきである」という考えを「~できれば」「~したい」に言い換え、結果だけでなく努力の過程を認めることも大切です。他人の評価など自分でコントロールできないことを手放す意識が、ストレス耐性を安定して高めてくれます。

自分の強み、弱みを知る

ストレス耐性を高めるためには、自分の強みや弱みを正しく知り、状況に合った対処法を選ぶことが欠かせません。過去の経験を振り返って自分史を整理したり、信頼できる人から意見をもらったりすることで、ストレスを感じやすい場面や力を発揮できる場面が見えてきます。
また、弱みも見方を変えれば強みになることがあり、自己肯定感の向上につながります。自分の特性を理解したうえで、得意分野を生かして問題を解決する方法や、無理を感じたときに気分転換や相談を行うなどのストレスコーピングを取り入れることで、心身への負担を抑えやすくなります。

ABCDE理論:

ストレス耐性を高める方法として有効なのが、認知行動療法をもとにしたABCDE理論です。これは、ストレスとなる出来事そのものではなく、その出来事をどう解釈するかによって感情や行動が左右される、という考え方に基づいています。
出来事(A)と感情・行動(C)の間には、自分の考え方や信念(B)があり、そのBに対して意識的に反論(D)することで、より建設的な結果(E)を生み出します。出来事を変えられなくても、解釈を見直すことでストレス反応をコントロールし、ストレス耐性を高めることが期待できます。

A(Activating Event):出来事・状況。上司に注意された、仕事でミスをしたなど、客観的な事実
B(Belief):考え方・信念。その出来事をどう受け止めたかという解釈
C(Consequence):感情・行動。不安、落ち込み、回避行動など
D(Dispute):反論。本当にそう言い切れるか、別の見方はないかを問い直す
E(Effect):効果。感情や行動が落ち着き、前向きな対応ができるようになる

組織でストレス耐性を高める5つの基本

ストレス耐性は、組織としての取り組みによっても高めることができます。
定期的な1on1ミーティングは、業務上の悩みや不安を共有しやすい環境づくりにつながります。チームビルディングによって信頼関係を築くことも、心理的な支えになります。また、休暇取得や気分転換を促すリフレッシュの推奨は、心身の回復に欠かせません。

ストレスチェックの実施とフォロー

ストレスチェックとは、従業員のメンタル不調を予防し、職場環境の改善につなげる制度です。2015年から50人以上の事業場で年1回の実施が義務化されており、50人未満も義務化されることが決定しています。
参考:ストレスチェック 50人未満事業場向け マニュアル

ストレスチェックを行うことで、従業員は自分のストレス状態に気づき、セルフケアへの意識を高めることができます。また、高ストレス者に対して医師による面接指導の機会を設けることで、メンタルヘルス不調の兆候を早期に発見し、深刻化を防ぐことにもつながります。
さらに重要なのが、実施後のフォローアップです。
集団分析を行うことで、部署や職種ごとのストレス傾向や、業務量、人間関係といった具体的な要因を可視化できます。こうした取り組みをPDCAサイクルとして回すことで、会社がメンタルヘルス対策に本気で向き合っている姿勢が伝わり、信頼感のある職場風土が育ち、結果として組織全体のストレス耐性向上につながります。

1on1ミーティング

定期的に上司と部下が1対1で対話する場を設けることで、業務の進捗だけでなく、不安や悩み、ストレスの兆しにも早く気づくことができます。日常業務の中では表に出にくい小さな違和感を共有できるため、メンタルヘルス不調の予防につながります。また、上司が部下の話をていねいに聴き、承認やフィードバックを行うことで、心理的安全性が高まり、相談しやすい職場環境が育ちます。こうした積み重ねが、個人のストレス耐性を支えるだけでなく、組織全体としてストレスに強い土台をつくることにつながります。

チームビルディング

信頼関係が築かれたチームでは、困ったときに助けを求めやすく、個人が抱えるストレスを分散できます。役割や目的を共有し、互いの強みを理解することで、業務上の摩擦や誤解も減少します。また、心理的安全性が高まると、失敗や意見を率直に共有でき、過度な緊張や不安が和らぎます。こうした環境は、メンバー一人ひとりの回復力を支え、結果として組織全体のストレス耐性を底上げします。

リフレッシュの推奨

業務が忙しい状態が続くと、心身の疲労が蓄積し、集中力や判断力の低下を招きやすくなります。休暇取得や休憩、気分転換を後押しすることで、従業員は心身を回復させやすくなり、ストレスを長期的に溜め込まずに済みます。また、「休んでもいい」というメッセージが組織から明確に示されることで、心理的な安心感が生まれます。

適材適所の配置

ストレス耐性を高める組織づくりにおいて、適材適所の配置は重要なポイントです。業務内容と個人の特性や強みが合っていない状態が続くと、必要以上の負担や不安を感じやすくなり、ストレスが蓄積します。一方で、得意分野や価値観に合った役割を担えると、仕事への納得感や達成感が高まり、前向きに取り組みやすくなります。また、苦手な業務を一人で抱え込まずに済むため、心身への負荷も軽減されます。個々の特性を理解した配置を行うことは、従業員の安心感を支え、結果として組織全体のストレス耐性を高めることにつながります。

参考:ストレスチェック 50人未満事業場向け マニュアル

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
ストレスチェックは、自分の心身の状態を客観的に把握するための制度です。数値として現れる結果は、「休んだほうがいいサイン」に気づくヒントになり、必要に応じて休息や相談を取り入れることで、重い不調や長期休職を防ぐことができます。


★ ストレスチェック導入のご相談はこちら

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

精神科医 近澤徹氏

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役・近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。


> 近澤 徹 | Medi Face 医師起業家(Twitter)

    まとめ

    ストレスチェックは、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした制度です。現在は従業員50人以上の事業場で義務化されていますが、今後は50人未満の企業にも対象が拡大される予定です。
    ストレス耐性は、生まれつきの性格だけで決まるものではなく、日々の習慣や考え方、職場環境によって高めていくことができます。ストレスに気づく力や適切に対処する力、回復力や許容量を意識し、睡眠や運動、栄養といった基本を整えることが重要です。また、完璧主義を手放し、自分の強みや弱みを理解し、ABCDE理論のような思考の整理も有効です。さらに、ストレスチェックや1on1ミーティングなど、組織としての取り組みを組み合わせることで、個人と職場の双方からストレス耐性を支えることができます。
    ストレスチェッカーは、官公庁・上場企業・医療機関などで採用されている国内最大級のストレスチェックツールです。自動リマインド、面接指導者管理、進捗確認機能を標準搭載し、2025年5月からは無料プランでも「プレゼンティーイズム(生産性低下)」の測定に対応しております。
    導入方法や実施方法など、お気軽にお問合せください。

      :参照記事
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