うつ病で労災認定|企業が取るべき対応とは

事業者(会社)は、労働者の安全と健康を守る義務を負っています。そのため、労働者がうつ病などのメンタルヘルス疾患と診断された際には、まず病状を悪化させないよう措置を講じる義務があります。
また場合によっては労働災害補償保険(以下「労災」とする)が認定されるケースもありますので、精神障害の労災認定の基準について、きちんと理解しておく必要があります。
この記事では、うつ病で労災認定された場合の事業者がとるべき対応についてご紹介します。

うつ病の労災認定

労働者がうつ病などのメンタルヘルス疾患と診断され、それが労災であると認定されるまでには、いくつかのプロセスがあります。
労災と認定されると、従業員は療養補償給付や休業補償給付など労災保険から支給される補償を受けることができます。
しかし、それだけでは従業員が被った損害の全額が補償されないため、会社の過失や責任について、話し合いや交渉が発生する場合があります。

(1)まずは「労災」について理解しよう

労災とは、「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、または作業行動その他の業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、または死亡すること」(労働安全衛生法2条1項)です。

従業員が負った怪我や疾病が業務に起因するものと認められ、労災と認定された場合、その従業員(および遺族)に対しては労災保険から療養補償、休業補償、傷害補償、遺族補償等が支給されます。

したがって、従業員がメンタルヘルス疾患と診断された場合、その原因が業務にあるのかどうかが重要な判断ポイントになります。業務に起因する場合は労災補償、私傷病であれば健康保険の対象になるためです。
仕事以外の出来事が原因、いわゆる業務外の事由で発症した場合には、傷病手当金の対象となります。たとえば、私生活上の問題や、業務との因果関係がはっきりしないストレスが重なってうつ病を発症したケースなどが該当します。
一方で、長時間労働やハラスメントなど、仕事が明確な原因と判断される場合には、傷病手当金ではなく「労災保険(労働者災害補償保険)」の対象となる可能性があります。
一般的には、労災保険のほうが給付内容は手厚くなりますが、業務起因性の判断は簡単ではなく、個別の事情を踏まえた慎重な検討が必要になるケースも少なくありません。

(2)メンタルヘルス疾患の業務災害の認定基準

労災保険の給付は、従業員本人または遺族が労働基準監督署長に請求をします。
そして、労働基準監督署は傷病と仕事の因果関係など、必要な調査や検討を行います。精神障害の労災認定については、以下の3つの要件を満たす必要があります。

①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負担が認められること
③業務以外の心理的負担や個体側要因により発病したとは認められないこと

メンタルヘルス疾患の労災申請が行われた場合には、労働基準監督署長は、「心理的負荷による精神障害の認定基準」によって仕事との因果関係を調査・検討します。
なお、2011年には以下の点が改正されました。

①出来事と出来事後を一連のものとして総合評価する
②「極度の長時間労働」とされる基準の時間数の明示
③心理的負荷「強」「中」「弱」の具体例の記載
④ハラスメントやいじめが長期間継続した場合の評価期間
⑤複数の出来事がある場合の具体的な評価方法

たとえば、業務上のノルマが達成できないことは従業員にとって心理的に負担となる出来事ですが、このノルマをこなすことを会社が強く求めていなければ心理的負荷は「弱」と評価されます。
一方で、ノルマをこなせなかったことを理由に減給や始末書などのペナルティが課せられた場合には、心理的負荷は「中」と判断されます。
そして、ノルマ未達の責任を問われて左遷されたり、長時間にわたって繰り返し罵倒されたりした場合には、心理的負荷は「強」と評価されます。
セクハラやパワハラについても、この心理的負荷の認定基準に基づいて判断されます。
従業員にかかる心理的負荷の程度が「強」と評価された場合、原則としてメンタルヘルス疾患は労災と認定されます。ただし、出来事の内容や継続性、職場環境などを総合的に考慮した結果、「弱」や「中」と評価される場合であっても、労災と認定されるケースがある点には注意が必要です。

ちなみに厚生労働省によると、令和6年度の業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償の請求件数は3,780件で前年度と比較して205件増加したことが公表されています。
業種別では、「医療、福祉」が最も多く983件、次いで「製造業」が583件、「卸売業、小売業」が545件となっています。

参考:厚生労働省/報道発表資料 2025年6月

(3)労災認定イコール法令違反ではない

精神障害による労災が認定されたとしても、必ずしも会社による法令違反があったとは限りません。
会社の法令違反の有無に関わらず、労災保険は労働者に給付されます。
労災認定がされると、従業員のメンタルヘルス疾患の発症、ケガ、過労死や過労自殺が「業務上に起因するものである」と公的に認められたことになりますが、法令違反の有無についてはまた別の判断となります。

労災認定(行政手続き)は、労働基準監督署が、精神障害が「業務による強い心理的負荷」によって発症したかどうか、つまり業務と発症との因果関係を医学的・客観的に判断する手続きです。
一方、会社の責任(民事・行政・刑事)は、会社が従業員の心身の健康を守るための「安全配慮義務」を十分に果たしていたか、過失があったかどうかを問うものです。
労災と認定されたからといって、直ちに会社の法令違反や損害賠償責任が確定するわけではなく、両者は別の基準で判断される点を理解しておく必要があります。

(4)会社が法令違反を認める場合の責任

会社が争うことなく法令違反による過失を認める場合には、労災保険では補いきれない損害、たとえば逸失利益や精神的苦痛に対する慰謝料などについて、従業員または遺族へ賠償する責任が生じます。
その際、単に金銭的な補償を行うだけでなく、事実関係を整理したうえで誠意ある謝罪を行うことも重要です。再発防止策や職場環境の改善方針をあわせて示すことで、従業員側の不安や不信感を和らげることにつながります。謝罪や慰謝料の内容は、弁護士など専門家の助言を得ながら慎重に検討し、適切な形で従業員に提示する必要があります。

(5)審判や訴訟に発展した時の対応

会社が法令違反を認めて慰謝料を提示しても、従業員の納得を得られない場合、あるいはそもそも会社が法令違反を認めない場合は、労働審判や民事訴訟に発展する可能性があります。
また、業務上過失致死傷罪といった刑事責任が生じたり、作業停止命令などの行政処分を受けたりする可能性もあり、企業としては慎重な対応が求められます。

民事訴訟では、会社が安全配慮義務を果たしていたかどうかが審理され、治療費や休業補償などのほか、労災が起きていなければ支給されていたはずの給与や、安全配慮義務違反による慰謝料について争われます。
労働審判とは、労働者と事業主(会社)との間に生じた労働問題を労働審判官(裁判官)1人と労働審判員2人(民間人)が審理し、解決を図る手続きです。
労働審判は、早期かつ簡易に解決するための手続きですので、3回以内の期日で審理が終了となります。双方の主張に大きな食い違いがなければ労働審判での和解を目指せますが、そもそも和解が困難である場合には訴訟にならざるを得ません。

うつ病発症を防ぐための職場づくり

これまでご紹介したように、業務が原因でうつ病などのメンタルヘルス疾患を発症し、労災と認定された場合、会社は法的な責任を問われる可能性があります。
また、メンタルヘルス不調を抱える従業員が増えると、職場の雰囲気が悪化し、チームワークの低下や労働生産性の低下、さらには離職の増加にもつながりかねません。結果として、採用や育成のコストが増えるなど、経営面への影響も無視できなくなります。
事業者には、メンタルヘルス対策を単なる福利厚生ではなく、重要な経営課題としてとらえ、継続的かつ主体的に取り組む姿勢が求められます。

(1)メンタルヘルスケアに関する事業者の方針表明

厚生労働省の「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」では、まず事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」
やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があるとされています。

参考: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

「心の健康づくり計画」の実施にあたってはストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調そのものを予防する対策(一次予防)、早期発見・早期治療する対策(二次予防)、治療後の再発を予防する対策(三次予防)という3つの対策が円滑に行われるようにします。
また、これらの取組みにおいては教育研修・情報提供を行い、以下の「4 つのケア」を効果的に推進する必要があるとされています。

①セルフケア:労働者自身によるメンタルヘルスの理解、ストレスへの気づき・対処、自発的な相談など

②ラインフケア:管理監督者による職場環境の把握、改善。労働者からの相談対応、職場復帰支援など

③事業場内産業保健スタッフによるケア:セルフケア、ラインケアが効果的に実施されるための支援や計画の策定など

④事業場外資源によるケア:事業場外資源とのネットワークづくり、サービスの活用など

(2)職場環境等の把握と改善

職場におけるメンタルヘルスは、職場環境と密接に関係しています。したがって管理監督者は、従業員の作業環境(騒音や温度なども含む)、労働時間、仕事の量や質、ワークライフバランス、人間関係などについて把握する必要があります。そして問題があれば適切に対応し、改善することが望まれます。

(3)ストレスチェックを活用する

ストレスチェック制度は、定期的に労働者のストレス状態を把握する検査を行い、その結果を本人に通知することで気付きを促す制度です。
必要に応じて高ストレス者には医師による面接指導を行い、あわせて職場環境の改善につなげることで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的としています。。
2025年5月の法改正により、これまで努力義務とされてきた50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施が義務化されることが決まっています。
また、ストレスチェックの実施や高ストレス者への面接指導は、正社員に限らず、契約社員やパート、派遣社員などの非正規労働者であっても、一定の条件を満たす場合には対象となります。
仕事のストレス要因(仕事の量や質、身体的な負担、対人関係など)、心身のストレス反応(イライラ、疲労など)、その他のストレス要因(上司や同僚のサポートなど)についてチェックすることができます。面接指導が必要と判定された場合、希望をすれば医師による面接指導を受けることも可能です。

ストレスチェックを行うことで、従業員は自らのストレスに早期に気づくことができますし、結果を分析することで職場環境の改善につなげることもできます。

ストレスチェッカーとは

「ストレスチェッカー」は、官公庁・上場企業・大学・医療機関などで利用されている国内最大級のストレスチェックツールです。
未受検者への自動リマインドや進捗確認、医師面接希望者の管理など、現場で必要な機能を標準搭載しているのはもちろん、2025年5月からは無料プランやWEB代行プランでも、体調不良や心理的負担による生産性低下「プレゼンティーイズム」の測定が可能です。
ストレスチェックは、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。
導入や運用の相談は、ぜひお気軽にお問合せください。


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まとめ

うつ病などのメンタルヘルス疾患が労災認定されると、会社が責任を追及される可能性があります。
「この程度なら労災ではない」と勝手な判断を行うと、場合によっては「労災隠し」として摘発されることもありますので、注意が必要です。
もしも労災が起きてしまった場合には、きちんと検証し再発しないよう対策することが求められます。

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