部下のマネジメントに使える10個の心理学

部下のマネジメントに苦労した経験はありませんか。
心理学を用いれば、その悩みを解決できるかもしれません。この記事では、部下のマネジメントに役立つ心理学を10個紹介します。

そもそもマネジメントとは

マネジメントとは、チームや部下を指導し最大限のパフォーマンスを引き出すことです。そしてそのためには、部下が適切にエスカレーションできる環境をつくることを意識することが大切です。
具体的には、まずは部下に対する正しい目標やターゲットを設定し、その目標達成の課程でコミュニケーションの管理を意識します。
コミュニケーションは負荷やストレスをかけるものではなく、あくまで「情報を相手に伝える手段」と考えます。
そして部下をマネジメントするうえでは、この手段を適切に活用することが重要となります。
そこで意識したいのが、心理学の知識です。ここでは、部下をマネジメントする際に知っておきたい心理学の知識をご紹介します。

ネームコーリング効果

ネームコーリング効果とは、名前を呼んでもらうと、その相手に対して好意を抱く効果のことです。

例えば、普段会わない社長に自分の名前を呼ばれると、覚えてもらえていることがわかり、好意的に感じる人は多いのではないでしょうか。
部下を呼ぶときは、適度に名前で呼ぶことを心がけましょう。ネームコーリング効果により、良い印象を持ってもらえるかもしれません。
ただし、あまりにも回数が多すぎるとかえって不自然なので呼びすぎることは避けましょう。また、下の名前で「○○ちゃん」などと呼ぶとハラスメントと捉えられることもありますので、その点も注意が必要です。

返報性の原理

返報性の原理とは、良いことをして貰った相手に対しては、お返しをしたいと思う心理現象のことです。
例えば、日本ではバレンタインデーにチョコを貰った相手に対して、ホワイトデーにお返しをします。
つまり部下の悩みに対して真摯に向き合っていれば、自分が困っている時に部下が歩み寄ってくれる効果が期待できるということです。

マネジメント業務では、自分が成果を出すだけでは評価されません。部下の悩みに向き合い「今何が起こっているか」「どうしたら達成できるのか」という前向きなアプローチを通じて、チームとして成果を出すことも重要です。
部下が直面している問題を一緒に解決していけば、マネジメント能力を評価されるだけではなく、返報性の原理によりいずれ大きなリターンを得られるかもしれません。

カクテルパーティー効果

カクテルパーティー効果とは、興味関心がある情報を脳が取捨選択して無意識に取り入れる現象です。

例えば、パーティー会場のような騒がしい場であっても、興味のある内容の会話であれば自然と耳に入ってきますよね。

配属時に部下の興味関心を把握しておけば、それに応じた仕事を任せることもできるでしょう。
マネジメントにおいては、部下の興味関心に対する理解と結びつけがキーポイントとなることがあります。
例えば、「あなたが、こういう興味を持っているなら、このプロジェクトを通して会社のミッションにどう関連するか考えてみよう」というように、部下の興味や情熱、長所や短所を理解したうえで、部下の意向とミッションを結びつけ、組織のミッションや評価と結びつける方法を検討します。
興味のある仕事であればカクテルパーティー効果により些細な情報でも拾うことができるので、それが大きな成果につながるかもしれません。
さらに、このようなアプローチをとることで、部下のモチベーションアップにもつながり、組織全体としての効果につなげることも期待できるのです。

ザイオンス効果

ザイオンス効果とは、繰り返し何度も接触することで、好感度が高まるという行動心理学のことです。単純接触効果とも呼ばれています。

赤の他人と信頼できる人のどちらの命令に従いたいかと聞かれれば、多くの人が信頼できる人だと答えるでしょう。
上司といえども、普段から関わりがなければ信用は生まれませんし、その人のために頑張りたいと思われません。

ザイオンス効果を利用して、部下の言葉ひとつひとつに耳を傾け背後に隠れている意味や思考を探る努力を惜しまず真心で対応しながら、少しずつ信頼関係を築き上げることができれば、それがよりよいコミュニケーションにつながります。

オペラント条件付け

オペラント条件付けとは、報酬や罰に適応して、その後の行動を変化させる心理学のことです。

例えば、成果に応じた報酬を設定しておくことで、仕事のパフォーマンスが向上することが知られています。
逆に、ネガティブな報酬を設定しておくと、パフォーマンスは下がってしまいます。

これをマネジメントに取り入れるには、業績に応じた成果報酬を設定すると良いでしょう。
金融業界や商社の営業職ではこれを取り入れて、出来高制の給与形態の会社も実際に存在します。
なお、このときの報酬とは物質的な報酬だけとは限りません。キャリアアップのチャンス、スキルの習得、アイデアが認められる機会など、人それぞれメリットと感じる事柄は違うからです。
重要なのは、部下ひとり一人の価値観を理解し、それに合わせてメリットを提供することです。

ツァイガルニック効果

ツァイガルニック効果とは、未完成のものに心が惹かれる心理学のことです。

成功した仕事よりも、途中でプロジェクトが終了した仕事をより強く覚えている人もいると思いますが、それがツァイガルニック効果です。
全ての仕事が円満にいけば、その部下はいずれ現状の仕事に満足し、満足にパフォーマンスを発揮できなくなるでしょう。
マネジメントとは、部下の最大限のパフォーマンスを引き出すことです。
そのため、あえて成功できないようなタスクを与え、その印象を忘れさせないようにするのも一つのマネジメント手法です。

フットインザドア

フットインザドアとは、最初は小さな頼み事をして警戒心が解けた後に大きな頼み事をすると、引き受けてもらえやすいという心理学です。
部下に仕事を任せる時は、いきなり難しいものを与えるのはやめましょう。最初は手をつけやすいものを与え、徐々にステップアップしていくことが重要です。
ステップアップの過程で、コミュニケーション上のストレスを与えるようなことは避け、建設的な対話を心がけます。

ピグマリオン効果

ピグマリオン効果とは、他者から期待されている状況下では、その期待通りの成果が現れやすいという心理学です。
部下に対して期待していることを伝えておけば、ピグマリオン効果によりその期待通りの成果が出るかもしれません。
ただし、この期待を部下がプレッシャーと感じるようになると逆効果となってしまいます。
プレゼンを前にした部下に期待して細かい点まで指摘を繰り返した結果、その部下はプレゼン当日緊張と不安に包まれ、失敗したというケースもあります。
部下への期待が、プレッシャーや恐怖とならないよう、伝え方には細心の注意を払うべきでしょう。
部下が上司の期待を恐れるようになってしまうと、チーム全体の生産性が低下してしまうことがあるからです。

ゴーレム効果

ゴーレム効果とは、ピグマリオン効果と対照的な心理学です。期待されていない状況下では、期待に沿わない結果が出やすいことが報告されています。
部下に仕事を振った後、それについて全く目にかけなければ、その部下は期待されていないと思ってしまうかもしれません。したがって定期的に進捗を確認し、期待していることを伝えると良いでしょう。
このとき、論理的に説明するだけでなく「期待している」という感情を伝えることにフォーカスすると、実際に部下のモチベーションもアップし、実際に行動に移すケースもあります。

ウィンザー効果

ウィンザー効果とは、第三者からの情報を受け取ることで、その情報の信憑性や信頼性が高まる心理学です。
例えば、口コミサイトはそれを利用しています。第三者からの評価をあてにして飲食店を決める人は多いですが、これもウィンザー効果の一例です。

部下との信頼関係を築けていないうちは、自身の意見になかなか耳を傾けてくれないこともあるでしょう。しかし、このような部下は、トップの考え方を理解できておらず、自己満足な仕事をしてしまっているケースがあります。
その時、他の社員や社長の発言を引用して自身の主張を補強すれば、ウィンザー効果によって信用を得られるかもしれません。
会社としての方針、社長の発言を部署ごとに展開することは、正しい組織のあり方とも言えるのです。

まとめ

以上、部下のマネジメントに役立つ心理学を10個紹介しました。中にはすぐに利用できるものもあるので、ぜひ実践してみてください。
なお、部下のマネジメントには、ストレスチェックの集団分析が参考になることがあります。
受検率、高ストレス者の割合、仕事の量的負担、上司や同僚の支援の点数が悪いのであれば、部下が言いたいことが言えない職場環境である可能性があります。
もちろん最低限の規律は必要ですが、言いたいことが言える職場の方が、個人と職場の生産性は高いはずです。したがって、集団ごとの集計・分析が何を意味しているのかを検証することは、部下のマネジメントという視点でも重要ではないかと思われます。
実際、部下のマネジメントがうまくいっている職場では、ストレスチェックの集団分析の点数も高くなる傾向があり、生産性の向上が期待できます。
部下のマネジメントの最終的な目的が、生産性の向上にもあることを考慮すれば、上手にストレスチェック制度を活用していきたいものです。

監修:精神科医・日本医師会認定産業医/近澤 徹

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家