ストレスチェック 検討会(厚労省)を精神科医が解説

厚生労働省では、2024年3月29日および2024年4月25日に、「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会(第1回・第2回)」が開催され、ストレスチェック制度等の事業場のメンタルヘルス対策について、検討が行われました。検討会では、ストレスチェックの効果に関する調査研究結果等についても紹介されていますので、ここで抜粋してご紹介します。

ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会

2021年4月1日に開催された厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課の第1回検討会では、ストレスチェック制度およびメンタルヘルス対策について以下のような意見がありました。

ストレスチェック制度の効果

検討会では、ストレスチェック制度が一定の効果を上げているとの学術論文や研究報告書が紹介されました。しかし、大企業におけるストレスチェックの具体的な効果についての説明が不足しているため、中小企業においても同じような効果が期待できるかどうかの懸念が示されました。具体的な効果の分析があれば、事業者が取り組みやすくなるとの意見もありました。

集団分析と職場環境改善

集団分析を行うことで職場環境改善が進むことが確認されており、プライバシー確保を前提に義務化への移行を検討すべきとの意見がありました。また、そのためには専門スタッフの育成が必要であり、ストレスチェック制度の主眼である一次予防と集団分析、職場環境改善の連携が効果的であるとの意見も出されました。職場環境改善の実施には、健康管理の責任者だけでなく、人事労務の責任者や事業主が関与することが重要であるとの意見もありました。

一方で、職場環境改善が実施されている事例も見られますが、個別の事例でうまくいったものの、全体的には問題が解決されていないという意見もありました。職場環境改善が労働者に伝わっていないとの指摘もあり、改善の流れやプロセスをしっかりと労働者に伝える必要があります。高ストレス者の基準についても、症状が軽い者が選定されないことに対する改善が求められています。

50人未満の事業場におけるストレスチェック

50人未満の事業場におけるストレスチェックの義務化についても意見が出されました。労働者であれば事業場規模に関わらず、ストレスチェック制度が適用されるべきであり、規模による取り扱いの違いを解消する必要があるとの意見がありました。2014年2月に諮問答申された安衛法改正の法律案要綱では、すべての労働者にストレスチェックを実施することが義務付けられており、その重みを踏まえた検討が必要とされています。また、中小企業では専門的な健康管理人員が不足しており、義務化された場合に有効に活用できるか疑問があるため、地域産業保健センターなどによる支援が不可欠であるとの意見もあります。

ストレスチェック制度の効果

従来、職場のメンタルヘルスの問題は、労働者個人の健康管理の問題と捉えられることが多く、いかに休業者を減らすかといったリスク管理に焦点が集まっていました。しかし、職場のメンタルヘルスの問題は、生産性に直結する問題です。
もちろん、メンタルヘルス不調がすぐに生産性に影響がでるわけではありませんが、数年かけて起業の利益率を押し下げる影響があるという調査結果もあります。
そこで活用したいのが、ストレスチェックです。ストレスチェックは、実施するだけでなく、上手に活用することで、労働者個人のストレスへの気づきを促し、ストレスの高い者を早期に発見して医師による面接指導へつなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことが可能となります。

検討会では、ストレスチェック制度を実施したことで、以下の効果があると報告されています。

労働者におけるストレス対処実施意欲の増進

IT関連企業では、労働者371人にストレスチェック結果とアドバイスを即時に表示するWebシステムを導入したことで、ストレス対処の特徴への気づきや対処実施意欲が増進されたと報告されています。
ストレス制度の目的は、いかに「メンタルヘルス不調の未然防止」へつなげていけるかという点です。事業者は、そうした知識をストレスチェックの結果を通知する際や研修などで伝えていく工夫が必要となります。

労働者のメンタルヘルスの意識向上

ストレスチェック制度導入後、労働者の半数以上が自身のストレスを意識するようになり、社員のセルフケアへの関心度も高まりました。事業者も「メンタルヘルスに理解のある職場風土の醸成」を感じていると報告されています。
リスク管理の観点から考えれば、どういった心身のストレス反応がメンタルヘルス不調の初期兆候と考えられるのかを、労働者がしっかり認識しておく必要があります。初期段階であれば、完全にストレスから解放された状況で休養を取ることで、大幅に症状が改善することも可能です。

事業場のメンタルヘルス対策の促進

ストレスチェック制度を導入した事業場では、心の健康づくり計画の進捗やメンタルヘルス対策の重要度、早期発見と対応の対策開始率が向上しています。
職場におけるメンタルヘルス不調の問題を減らしていくためには、労働者の努力だけでなく、職場でのリスク要因を抽出し、メンタルヘルス不調につながる芽を摘み取っていくことが重要であり、働きやすい職場を実現することで、企業の生産性向上にもつながっていきます。

ストレスチェック+集団分析+職場環境改善の効果

ストレスチェックを実施するだけでなく、適切に集団分析を行い、そのうえで職場環境を改善することが重要です。集団分析とは、個人が特定されない形で男女別や年齢別、職種や組織単位などの情報を分析する方法で、会社全体だけでなく、集団ごとのストレス状態を把握し、職場環境の改善に役立てることができます。

労働者の心理的ストレス反応の有意な低下

常勤労働者3891名を対象にした調査では、ストレスチェックと職場環境改善を併せて経験した労働者について、どちらも経験していない労働者に比べてストレス反応が有意に低下しました。
集団分析とは、個人のストレスチェックの結果を集団ごとに集計・分析することです。
職場環境改善は、各職場のストレス要因に基づいた必要な改善策を検討していく必要があります。

労働生産性の向上

2015-2017年のインターネット調査に参加した1936人の労働者を対象にした研究では、ストレスチェックを受け、職場環境改善を実施した労働者の労働生産性が有意に向上していました。

従業員のメンタルヘルスは職場の生産性や健康経営に密接に関連しています。メンタルヘルスが不調になると、集中力が低下し、判断力や決断力が鈍り、結果的に従業員は本来のパフォーマンスを発揮できなくなります。こうした状況が続くと、さらなるストレスやモチベーションの低下が生じ、最悪の場合、欠勤や休職、さらには離職に繋がることもあります。そして、職場の雰囲気が悪化し、他の従業員の業務負担が増加し、全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。結果として、一人のメンタルヘルス不調が企業全体の生産性低下と業績悪化を引き起こすリスクがあるのです。

メンタルヘルスへの理解ある風土醸成

建設業の事例では、管理監督者を集めたミーティングや研修などの取り組みを実施することで、メンタルヘルス不調者の数が大幅に減少しました。具体的には、不調者の割合が5分の1にまで減少し、メンタルヘルスに対する理解と配慮のある職場風土が醸成されました。
これは、ストレスチェックを実施して、適切な集団分析を行い、さらに個々の状況に応じて職場環境改善施策を行ったことで、従業員の士気が向上し、全体の業務効率も改善された可能性を示しています。

総合的な健康リスク指標の改善

集団分析結果をもとに産業保健センターの助言を受けた製造・卸売業の事例では、管理監督者が中心となって職場改善策を実施しました。この取り組みにより、上司からの支援が強化され、従業員の総合健康リスクが大幅に改善されました。また、メンタルヘルスに対する理解と配慮のある風土が醸成され、従業員が安心して働ける環境が整いました。
集団分析は努力義務となっていますが、事業場内の好事例を学び、心身のストレス反応が高い職場環境の改善につなげることは、組織のあり方を救う要因となっているものと思われます。

物理的環境と身体面の負担感の低下

大規模製造業の事例では、本社の健康管理部門の支援を受けて職場環境改善を実施しました。この取り組みにより、アンケート結果で物理的環境の改善と身体面の負担感の低下が確認されました。さらに、労働者の経営層や直属の上司に対する認識がプラスに変化し、従業員の満足度が向上しました。

直属の上司に対する認識がプラスに変化し、従業員の満足度が向上することで、職場のコミュニケーションが円滑になり、チーム全体の協力体制が強化されました。職場の雰囲気が改善されることで、企業全体の業績が向上することも期待できます。
この事例は、健康管理部門の支援が職場環境の改善において重要な役割を果たすことを示しています。

まとめ

労働者から見たストレスチェックの効果は、事業場の規模に関わらず、4割から5割程度の労働者が「自身のストレスを意識するようになった」と回答しています。これは、規模に関係なく多くの労働者がストレスチェックを通じて自分のストレスに気づくようになったことを示しています。

さらに、高ストレス判定を受けた労働者の約4割が「高ストレス状態に気づくことができた」と回答しており、ストレスチェックが労働者にとって効果的なツールであることがわかります。

ストレスチェックの効果は、事業場や労働者にとって大きなものです。この効果を最大限に引き出すためには、ストレスチェックを適切に活用していくことが重要です。

【監修医師】
精神科医・日本医師会認定産業医
株式会社Medi Face代表取締役
近澤 徹

オンライン診療システム「Mente Clinic」を自社で開発し、うつ病・メンタル不調の回復に貢献。法人向けのサービスでは産業医として健康経営に携わる。医師・経営者として、主に「Z世代」のメンタルケア・人的資本セミナーや企業講演の依頼も多数実施。

> 近澤 徹| Medi Face 医師起業家