職場で見られる精神疾患には、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害などがあげられます。
これらの精神疾患は、早期に気づき適切な対処をすることが非常に大切です。
この記事では、それぞれの精神疾患の症状や、どのような行動があらわれたらメンタルヘルス不調の可能性について検討すべきか、などについてご紹介します。
目次
ストレスでどんな症状が出る?
社会生活を営んでいくうえでは、ストレスは不可避なものです。
適度なストレスはパフォーマンスを向上させるために効果的ですが、過度なストレスは、メンタルヘルス不調を引き起こすリスクがあります。
そして、「気分が落ち込む」「思考力や集中力が低下する」「不眠あるいは過眠である」「動作が遅くなる」「疲れやすい」「過食あるいは拒食である」といった症状がみられることがあります。
そして、精神疾患につながるようなメンタルヘルス不調は、不調のサインを見逃さずに早期発見し適切な処置をとることが非常に重要です。
(1)そもそもストレスとは?
ストレスは、私たちの健康な心を、ゴムボールに例えると、理解しやすくなります。
ゴムボールは、外力(ストレスの原因=ストレッサー)によって圧力が加えられると、変形して歪みます。この歪みによって生じる心身の反応を「ストレス反応」といいます。ゴムボールは、軽い力で押されただけなら、弾力性があるので元に戻ります(ストレス耐性)。
しかし強い力で押されたり、長時間押され続けていると、元の形に戻らなくなってしまいます。
そして、ストレス反応が慢性化して心が破たんした(ゴムボールがつぶれた)時に、何らかの精神疾患を発症すると考えられています。
(2)うつ病|主な症状・気づき方
うつ病になりやすい人は、同じ出来事でも、他の人より大きなストレスとして受取ってしまうことがあります。そして、うつ病は、心と身体の両方に不調があらわれます。
うつ病の主な症状としては、以下のようなものがあります。
・毎日、気分が落ち込む ・これまで楽しめていたことに興味がなくなり、楽しむことができなくなる ・食事が美味しいと思えなくなり、食欲がなくなる ・仕事に集中できず、物事を決めることができなくなる ・考えるスピードが遅くなる ・それほどの業務量ではないのに、非常に負担を感じる ・理由もなく、自分を責める ・疲れやすい ・動作が遅くなる ・「つらい状態が続くなら、死んだほうが楽」などと考えてしまう |
うつ病は、外見からは分かりにくいケースもありますが、職場で以下のような行動としてあらわれることがあります。
・遅刻や早退が増える ・突然、会社を休む ・以前より話し方や動作が遅くなり、やるべき仕事にすぐに取り掛かることができない ・仕事のパフォーマンスが明らかに低下した ・同僚と一緒に食事をしなくなった ・頭痛や肩こりなど、身体の不良を訴えるようになった ・仕事を必要以上に不安がり、焦りを見せるようになった |
上記のように「以前と比べると、明らかに話し方や態度が変わった」と感じた場合には、会議室や応接室など、他の社員に話を聞かれないような場所で話してみることをおすすめします。
この際、「うつ病ではないか」と指摘するのはNGです。あくまで、上司や同僚として心配していることを伝え、気分や体調が悪くないかを聞いたうえで、医療機関の受診を勧めてください。
うつ病と診断され、就労が難しいと医師が判断した場合には、休業して療養することがあります。うつ病が良くなって復職しても、症状が再発して再び休業してしまうケースも多いので、復職のためのプログラムを検討し、支援を行うことが大切です。
この支援は、復職後、再休職するかどうかを大きく左右します。
(3)双極性障害|主な症状・気づき方
双極性障害とは、南極と北極のように「躁」と「うつ」の2つの極がある精神疾患です。「躁」状態では、テンションが高くなって何でもできる気分になり、「うつ」状態では、気分が落ち込み何をする気もなくなります。
双極性障害では、このような2つの状態が交互にあらわれます。
【躁状態の時】 ・おしゃべりになる ・テンションが高くなり、気分が高揚する ・非常に活動的になる ・睡眠時間が短いのに、活動的である ・いろいろなことを「よいアイデアだ」と思いつく 「自分は何でもできる」と思い込み、他人の意見を聞かない ・注意力散漫になる ・困った状態につながる可能性が高いのに、それに気づかずその活動に熱中する 【うつ状態の時】 |
双極性障害は、躁状態では強い自己主張をして活動が伴わなかったり、自己主張したかと思えばうつ状態となってやる気が起きなかったりなど、職場でちぐはぐな行動としてあらわれることがあります。
・テンションが高く、上司や同僚がそのことを注意すると、突然激しく怒り出す ・「頭の中に、良いアイデアが次々と浮かんでくる」と主張するが、周囲からはそう見えない ・会話の時、相手に口をはさむタイミングを与えない ・「自分は仕事ができる」など、根拠のない自慢をする ・「今日は体調がいいから、眠らなくても大丈夫」と、2~3時間の睡眠で精力的に活動する ・会話の途中で、突然席を立って、他の事を始めるなど、落ち着きがない ・仕事、趣味、勉強などに昼夜を問わずに没頭する ・「自分は仕事ができる」と自慢していたのに、ある日突然「自分はつも仕事でみんなに迷惑をかける」と落ち込む ・多額の買い物をする ・セクハラやパワハラを行う |
双極性障害は、気づいた時の状態によって対応が変えましょう。
躁状態だと思われる時には「最近、遅くまで仕事をしていて疲れないか」など声掛けをしてみます。しかし、本人が躁状態の時には調子よく感じているため、躁状態を認めないケースが多いです。
そのような時には、家族に連絡をとったうえで職場での様子を伝え、必要だと判断した時に家族と共に医療機関で受診するよう勧めるとよいでしょう。
また、双極性障害は、躁状態の時よりうつ状態の時の方が、落ち着いて話し合いをできるケースもあります。
双極性障害については、周囲が本人を腫れ物のように扱うことがありますが、これは絶対にNGです。躁状態だった時の発言や行動について責めることはせず、適切な治療に早期につなげることが大切です。
(4)社交不安障害|主な症状・気づき方
不安障害には、「社交不安障害」と「パニック障害」があります。
社交不安障害では、人と接するのが苦手で人から注目されると赤面したり汗をかいたりしてしまうため、次第にそのような場面を避けるようになってしまいます。
・人と接することに恐怖を覚え、緊張する ・人前で食事をする時に、緊張して手が震える ・人前で文字を書く時に、緊張して手が震える ・人から注目されることを、極端に嫌う ・人前で、電話をかけるのが怖い ・周囲に人がいると、トイレで用を足せない |
このように、他人から見たら何でもないようなことに強い不安感や緊張感を持ちながら生活していると、次第に不安感や緊張感を感じる場面を避けるようになり、引きこもりになったり社会生活に支障が出てしまったりする場合があります。
そして、社交不安障害の社員は、職場でコミュニケーションがとれなかったり、異常に発刊したり赤面したりといった行動が目立ちます。
・プレゼンテーションや人前で文字を書くような場面を、極端に避ける ・名刺交換で手が震えたり、無口になったりなど、必要なコミュニケーションがとれない ・電話に出られない ・会話中、異常に発汗したり赤面したりする |
上記のように、本人が以前と様子や態度が変わったと感じた時には、まず本人が不安や恐怖を感じていることを、ていねいに聴くことが大切です。「そんなこと気にし過ぎた」「がんばれ」といった感想や励ましは必要ありません。まずは、耳を傾けて本人の悩みをよく聴くことが大切です。
また、会議や会食など、どうしても本人が苦手だと感じるのであれば、周囲が代わりに対処するなどの配慮も有効です。
ただ、職場でスムーズに働くためには自分自身で対処する経験を積み重ねていくことも必要です。何でもサポートするというわけではなく、本人を見守りながら、状況に応じて対処の仕方を一緒に考えていく関係作りも必要となるでしょう。
また、本人があまりに辛いようであれば、適切な治療を受けて症状が改善してくると、それまで不安や恐怖を感じていたような場面でも、落ち着いて対処ができるようになります。
(5)パニック障害|主な症状・気づき方
パニック障害とは、身体に異常がないのに、突然、動機や息切れ、めまいなどの激しい症状が起こり、さらに強い不安感にとらわれるパニック発作が起こる不安障害をいいます。
パニック障害では、「パニック発作が、また起こるのではないか」という予期不安が見られるケースが多々あります。
・救急車を呼び救急外来を受診するほどの発作を起こすが、身体的検査では、明らかな異常が認められない ・「また、パニック発作を起こしたらどうしよう」という不安感があるため、電車に乗ったり人が多い場所に出かけたりすることが、次第に難しくなる |
パニック障害の社員は、職場で以下のような行動が目立ちます。
・通勤中に「やはり今日は会社を休む」と連絡がくる ・通勤中に倒れたり、体調不良を起こしたりして、始業時間に出勤できない ・電車やバスに乗れず、出勤できない ・「周囲に迷惑をかけている」と、気分が落ち込む様子が見られる |
パニック障害は、非常に強い恐怖を味わうが身体的には有害でも致死的でもありません。そこで、パニック障害と診断された場合には、まず本人に「パニック発作は、数分で治まることが多い」と伝え、安心感を持ってもらいます。「気にし過ぎだよ」といったアドバイスは、逆効果になるので避けます。
また、症状が改善するまでは時間に厳しい仕事を避けるなど、ストレスを減らす配慮も大切です。
(6)統合失調症|主な症状・気づき方
統合失調症は、100人に1人がかかると言われる、頻度が高い病気です。
思春期から青年期に発症することが多いと言われ、幻覚妄想や意欲低下、集中力の低下などの症状があらわれます。
統合失調症は、早期発見と早期治療が行われれば、多くの人が回復できるケースが増えており、病気自体は軽症化しています。しかし、治療が遅れたり治療を中断したりすると、80%以上の人が再発すると言われており、再発を繰り返すと回復が難しくなる場合もあります。
したがって、以下のような行動が見られたら、統合失調症の可能性を視野に入れ、可能な限り早期に適切な対処をとることが必要です。
・被害妄想で、職場の人から悪口を言われている、盗聴されているなど、非現実的な発言をするようになる ・会話のつじつまが合わず、支離滅裂な言動を繰り返す ・論理的な思考ができなくなり、挙動不審となる ・感情が不安定となり、突然興奮する ・感情をあらわすことがなくなり、活気がなくなり、仕事の効率が明らかに低下する |
統合失調症は、本人が「自分は病気だ」と認識できるケースが少ないことから、「様子がおかしい」と感じたら、早期かつ慎重な対応が求められます。
必要に応じて家族と相談し、医療機関の受診を勧めます。妄想の内容を頭ごなしに否定してしまうと、興奮したり症状が悪化したりするため、注意が必要です。
(7)ストレスチェックを気づきに活かす
ストレスチェックとは、定期的に社員のストレスの状況について検査を行なう制度で、平成27年(2015年)12月1日に施行され、常時50人以上の労働者を使用する事業場において義務づけられています。
ストレスチェックの目的は、社員本人にその結果を通知して、自らのストレスについて「気づき」を促すことで、メンタルヘルス不調のリスクを低減すること、及びストレスが高い人を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、メンタル不調を未然に防止することです。
さらに、ストレスチェックの検査結果を集団ごとに集計・分析することで、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境改善につなげるという効果も期待されています。
会社にはメンタルヘルスに対する安全配慮義務があり、ストレスチェックだけでなく、さまざまなメンタルヘルス対策に積極的に対応していくことが求められています。
この安全配慮義務違反であり労働契約法の違反であると認定されれば、社員からメンタルヘルス不調において損害賠償責任を追及されるリスクがあります。
ストレスチェッカーは、日本最大級のストレスチェックツールです。
ストレスチェックの導入方法や実施体制、結果の集計・分析等について不明点等あれば、専門知識を有するスタッフがていねいにご説明いたします。無料プランもご用意しておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
私たちは、生きていくうえでストレスを感じずに生きていくことはできません。それにまったくストレスを受けない生活からは、緊張感や張り合いを得ることはできず、心身は鈍ってしまうことがあります。
たとえば、趣味もなく仕事一筋で生きてきた人が、定年退職で一気に老け込んでしまうことがあるのは、よく知られています。
しかし、過度なストレスは心身に大きな影響を及ぼし、普通の生活が送れなくなることがあります。このような状態になるのを防ぐためには、個々が自分のストレスの状態を知り、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合には医師の面接を受けたり、必要に応じて適切に治療を受けたりすることが大切です。
また、上司や同僚が社員の不調に早期に気づくためには、ストレスの症状としてどのような症状があらわれるか知り、どのように対処すればよいのか正しい知識を持つことも大切です。