アウティングとは?意味や具体例、過去の判例を解説

アウティングとは、セクシュアリティについて本人の承諾なく第三者に暴露する行為です。アウティングは、パワハラ防止法で企業に防止対策が義務づけられています。
過去には、アウティングをされた当事者が退職したり、うつ病などを発症したりといったケースもあります。企業としても、アウティングに関して正しく理解し、適切な対応策を講じることが強く求められています。

アウティングとは

アウティングとは、本人が公にしていない性的指向や性自認に関する情報を暴露することです。
自分の意思で、自分の性的指向や性自認を誰かに伝えることを「カミングアウト」といいますが、アウティングは、本人の承諾を得ずに「勝手にばらす行為」ですから、プライバシーに関わる大きな問題です。
アウティングは、パワハラ防止法で企業に防止対策が義務づけられており、アウティングの意味や事例、リスクについて従業員に周知徹底し、適切な対策を講じることが強く求められています。

アウティングのリスク

アウティングは、本人の承諾を得ずに勝手に第三者にばらす行為であり、パワハラの類型のひとつである「個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)」に該当します。
被害者がアウティングの被害を訴え、その行為がパワハラと認められた場合には、加害者は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負いますし、医療機関での受診が必要な場合には、その治療費を支払う必要もあります。
また、場合によっては刑事責任を負う可能性もあります。
また、実際にパワハラを行った従業員だけでなく、その従業員が所属している会社も被害者に対して、使用者責任に基づく損害賠償責任を負います。
また、会社には「従業員が働きやすい職場環境を作る義務」を負っていることから、これを怠ったと認められれば、債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負います。

アウティングの事案(2019年)

アウティングの発生事案の1つに、2019年の東京都豊島区の保険代理店に勤務する男性従業員が、同性愛者であることを上司にアウティングされた事例があります。
男性従業員は、アウティングの事実を上司に問いただしたところ、「ひとりぐらい、いいでしょと笑いながら言われた」と証言しています。男性従業員は、精神疾患を発症し休職に追い込まれる事態となりました。
この事案では、最終的に会社がアウティングの事実関係を認め、会社と加害者が謝罪したうえで解決金を支払い和解が成立しています。

アウティングの防止策

アウティングは、当事者だけでなく企業にとっても深刻な事態を招くリスクのある行為です。
パワハラ防止法でも禁止されている行為であり、損害賠償リスクがあるだけではありません。最悪の場合には、命に関わる問題にもなるのです。
企業は、従業員に対して職場環境配慮義務を負うことから、適切なアウティング防止対策を講じる必要があります。
アウティングは、適切な防止対策を講じることで、そのリスクを確実に減らすことができます。

就業規則でアウティングの禁止を明記する
アウティングは、プライバシー権への重大な侵害行為です。
また、ひとたび発生してしまうと被害回復が非常に困難となります。
したがって、就業規則等でアウティングが禁止される行為であることを銘記すべきです。

-記載例-
・各人の人権を尊重するとともに、人種・民族・宗教・国籍・社会的身分・性別・年齢・性的指向・性自認・障がいの有無などによる一切の差別やハラスメントを排除する。

・性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

・従業員は、他の従業員の性的指向や性自認を、当該従業員の同意を得ずに、第三者に明らかにしてはいけない。

アウティングの意味や事例、リスクを正確に理解するための社内研修を行う

どのような行為がアウティングとなるのか、どのような影響があるのかを周知徹底するために、アウティングの定義やリスクについて理解を深めるための社内研修を実施します。これにより、従業員全体にアウティングを予防しようという意識付けをすることが期待できます。
研修においては、他人のSOGIを知った場合には、情報共有の範囲を必ず本人に確認するルール、悪意がなくてもSOGIが流出するリスクがあることをしっかり説明することが大切です。

また、アウティングの具体例を示したパンフレットを配布したり、アウティング行為を禁じる旨のポスターを提示したりすることも、会社がアウティングに厳しい態度で臨むという姿勢を示すことができます。

アウティングが起きてしまった時の対応を検討する
万が一アウティングが起きてしまったら、被害の最小化と再発防止に取り組むため、アウティングが発生した場合の企業の対応フローを予め検討しておくことが大切です。

アウティングに関して被害者にヒアリングを行う場合には、それ自体がアウティングとなるリスクがあるため、被害者の意向を十分に尊重することが大切です。被害者は、問題を会社として取り上げられること自体が、自らのセクシュアリティについてより広く伝播すると考え、表立った対応を希望しない場合もあり得ます。したがって、企業としては、被害者に対するていねいな聴き取りが何より大切です。

また、SOGIが広まった範囲を調査し、個々の従業員に他言しないように伝えます。加害者については、就業規則に基づいて懲戒することも検討します。

そのうえで、発生後の対応について振り返りを行い、相談体制の強化、理解を深めるための社内研修のあり方を検討します。

アウティングとなるケース

アウティングは、セクシュアリティに基づくハラスメント行為であり、働きやすい労働環境の問題としてとらえる必要があります。

本人は善意と思っているケース

カミングアウトを受けた人が、「本人は言いづらいかもしれないから、代わって自分が周りに知らせてあげよう」「同性パートナーがいる従業員についても、法律婚をした従業員同様に福利厚生が完備されているから、代わりに人事に知らせてあげよう」など、本人は善意と思い込みアウティングするケースは少なくありません。
しかし、善意であってもアウティングのリスクに変わりはありません。
純然な善意から行ったとしても、本人の承諾なく本人のセクシュアリティを第三者に伝えることは、アウティングとなります。

思い込みから起こるケース

本人からカミングアウトされた人が、「あの人は親しいはずだから、当然知っているだろう」と思い込み、うっかりアウティングするケースがあります。
しかし、どんなに親しい間柄でも本人がカミングアウトしているとは限りません。むしろ、親しい間柄であるからこそ、その関係が壊れることを恐れてカミングアウトしない場合もあります。決して思い込みで判断せず、必ず本人に確認をとるように徹底します。
なお、そもそもの大前提として、合理的な必要性でもない限り、他人のSOGIを話題にすること自体、控えるべき行為であることを十分認識すべきです。

認識の低さから起こるケース

「ひとりぐらい、いいだろう」「軽い気持ちで言ってしまった」「偏見を持っていないから、隠す必要はないと思った」など、アウティングのリスクに対する認識の低さからアウティングが起こるケースは多々あります。
LGBTQに対して寛容な態度を示してくれる人の存在は、当事者にとって大きな救いとはなりますが、だからといって本人の承諾なく第三者に話す行為はアウティングです。

カミングアウトから暴露されるケース

カミングアウトを受ける際に、同時に恋愛感情の告白を受けることがあります。
そしてカミングアウトを受けた人が対応に困り、第三者に相談することでアウティングが起こるケースがあります。
この場合も、カミングアウトをした人が特定されるような対応をすれば、アウティングとなります。社内の同僚や上司に相談すること自体、アウティングのリスクがありますから、外部の専門機関などに相談する方がよいでしょう。

共有管理の甘さから起こるケース

性別や戸籍情報などを含めた人事情報システムに、担当者でない人がアクセスできるようになっていたり、人事部内の雑談からSOGIが共有されたりして、アウティングが起こることがあります。
当事者従業員のSOGIが共有される場合には、必ず本人の了承を得る必要があることを周知徹底させるとともに、管理体制についてアウティングが起こるリスクがないか、プロセスも含め十分に検討する必要があります。

まとめ

アウティングは、「周りに伝えた方が、みんなもっと接しやすいだろう」「他の人も知っているだろう」「軽い気持ちで」といった認識の低さから起こるケースがあります。
しかしアウティングは、ハラスメント行為であり、許されない行為です。
ひとたびアウティングが起これば、被害者が受けるダメージは相当なものであり、加害者だけでなく企業も使用者責任を追及されます。
企業は、アウティングの定義や事例、リスクは正確に理解することとともに適切な防止対策を講じる必要があります。

ストレスチェックを気づきに活かす

ストレスチェックとは、定期的に社員のストレスの状況について検査を行なう制度で、平成27年(2015年)12月1日に施行され、常時50人以上の労働者を使用する事業場において義務づけられています。

ストレスチェックの目的は、従業員本人にその結果を通知して、自らのストレスについて「気づき」を促すことで、メンタルヘルス不調のリスクを低減すること、及びストレスが高い人を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、メンタル不調を未然に防止することです。

さらに、ストレスチェックの検査結果を集団ごとに集計・分析することで、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境改善につなげるという効果も期待されています。

会社にはメンタルヘルスに対する安全配慮義務があり、ストレスチェックだけでなく、さまざまなメンタルヘルス対策に積極的に対応していくことが求められています。
この安全配慮義務違反であり労働契約法の違反であると認定されれば、社員からメンタルヘルス不調において損害賠償責任を追及されるリスクがあります。

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    【監修】
    公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ)

    大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
    現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

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